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第一章 リトア王国

サイドのんちゃんの場合 3

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「ぁんのクソトラック、こんな細い道に入ってくんじゃねーよ。」

意識を取り戻した時に叫んだ声は何故か言葉にならずアーアーという音になってしまう。

目の前は真っ暗から少しボヤけた景色に変わっていてあれほどの衝撃を受けたのに身体に痛みはない。
しかし手足はあまり動かないし体を起こせない。ジタバタと焦っていると誰かが話しかけてきた。

「あらあら、どうちました~」

そして軽々と身体が持ち上げられ、よしよしと背中を優しく撫でられる。

(待て待て、どういう状況?)

その腕から逃れたいのに、一定のリズムで撫でられる手によって睡魔が襲いかかってきて目が開けられなくなる。

(どういうことなんだよ~これ!?)

叫びたかった言葉は発せられることなく、そのままコテンと眠りに落ちてしまった。 

それから現状を受け入れるまで大変だった。どうやら赤ん坊になってしまった俺の家族はどう見ても日本人いや、俺のいた世界の人間ではなく。やたらキラキラした美形ばかり。おまけにこの世界、魔法まであるらしく。
これって本で読んだ転生ってやつだよな!とちょっと興奮した。
だが、俺が知ってる転生の話は神様に会ってチートスキルをもらうとか前世の知識で世の中に革命を起こす的な話だったが、俺は神様に会ってないし、この世界、魔法があるからすごい便利そうだ。

冷静になってくるとなんでこんなことにというより有希や家族のことが思い出され、もう会えないのかと思って泣いてしまった。
突然終わってしまった望の人生、まだやりたいこともたくさんあった。それに残してきた家族や友人はどう思っただろう。有希は無事だったんだろうか?
赤ん坊が泣いてたって誰も驚かないのをいいことに結構手こずらせた。

時間が経ち、自分でできることが少しずつ少しずつ増えていくと共に俺は自分の心に折り合いをつけてアロイスとして生きていくことを受け入れた。
自分が魔法を使えることを発見できたのと新しい家族の存在が大きいだろう。

そうやって前向きに頑張ろうとしている俺にある事件が起きて、俺は最悪の事実に気付いてしまった。

この世界、有希と最後にやってた乙女ゲームの世界だ。しかも兄貴は将来、攻略対象の一人そして俺は…俺は…

まさかの悪役令嬢??!!

最悪だ。本当に最悪。なんでこんな目に遭うんだよ。俺なんか悪いことしましたか?神様?

親父はなんとか俺が巻き込まれた事態を打開しようと奔走してくれたが相手が悪過ぎた。
もともと昔馴染みに会いに隣国へ行く予定だったが、頼りになるその辺境伯に知恵を貸してもらう。
といい出し、公爵家当主のくせにちょっと頼りなく見える父に不安を覚え俺と兄貴もついて行くことにした。

それに、俺は親父に聞いたスリジェ辺境伯家に聞き覚えがあった。
ゲームのヒロインが引き取られることになる呪われた家だ。
まぁ、隣国へ行く前に調べた情報を見る限り呪われたというより陥れられるというのが真実だと思うけど。

しかし、ゲームと違い今現在には死んでるはずの人が生きていたり、ヒロインがすでに当主に発見されて引き取られているらしく違う部分が色々ある。

誰かがシナリオを変えているのか、もしそうなら俺のシナリオも変えたい。何でも協力するから。

切実な気持ちで俺は馬車に揺られスリジェ辺境伯家にたどり着いた。

玄関にはゲームスチルで見たことある美しいおば様とゲームより幼いヒロイン(めちゃくちゃ美少女。)と威圧感ハンパない当主様が出迎えてくれる。

うちの親父が挨拶もなく辺境伯にかじりついたのにはドン引きしたけど、振り払われてないってことは慣れてらっしゃる?
隣のおば様もどこか諦めている様子だし。

やれやれと思って親父よりよほど当主らしく挨拶している兄貴に紹介され、女性陣に挨拶をする。
ヒロインは澄みきった湖のような瞳を俺に向けて声を出さずに口を動かした。

のんちゃん?っと。

確かにのんちゃんと言った。

ジッと彼女を見つめると、何故か有希の姿が彼女とダブって見えた。
まさかと思いつつ、確かにそうだと頭のどこかで確信し、俺は人形のように華奢な彼女を抱きしめていた。
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