上 下
17 / 247
第一章 リトア王国

二人でお話しいたしましょう

しおりを挟む
振り返った先にいたお祖母様はお父様たちの方を眺め少しあきれた様子で口を開いた。

「場が落ち着くまでにまだしばらくかかるでしょう。マリー、アロイス様に庭園を案内して差し上げなさい。」

私とのんちゃんは顔を見合わせてうなずいた。

「分かりましたお祖母様。アロイス様、どうぞこちらへ。」

歩き始めた私たちの少し後をアイリーンがついてくる。

「アイリーン、二人をお願いね。」

お祖母様はそう声をかけてから、やれやれという感じでお父様たちの方に近づいていった。

テラスから続く階段を降りて庭に足を踏み入れると大人たちの声も遠くなり、ホッと力が抜ける。

アイリーンは先ほどより距離をあけてくれて私たちが二人で話せるように気遣ってくれている。

「のんちゃん。」

改めて声をかけるとのんちゃんは黙って自分の右腕を差し出した。私も大人しくその腕を取りエスコートしてもらう。

「ゆき。大変だったね。前世の記憶はちゃんと全部ある?
俺のことどれくらい覚えてる?
最後の…最後の記憶は?」

のんちゃんの腕が少し震えているのを不思議に感じながら私は答えた。

「ちゃんと覚えてるよ。
幼稚園からずっと一緒のゲーム大好きな望くんでしょ?
でも前世って何?どういうこと?
最後の記憶…」

私の言葉にのんちゃんは固まって足を止めた。

「待って、ゆき。もしかして…
待って待って、ゆきには記憶があるんだよね?もしかして途中で思い出したとか?」

「思い出した?ああ、そうなのかも。ひと月前くらいに急にマリーベルになってて、ああマリーベルの記憶もちゃんとあるよ。」

「はぁぁ?ひと月前?」

のんちゃんは叫んでからその場にしゃがみ込んだ。
アイリーンが心配そうに駆け寄ろうとするのを手振りで待ってもらって私もそっと隣にしゃがみ込む。

「大丈夫?のんちゃん。」

のんちゃんは小声でぶつぶつ何か呟いていたが、しばらくして気を取り直したように顔を上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話

七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。 離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?

処理中です...