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第一章 リトア王国

執事は語る

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「今でこそこのお屋敷は王都の公爵家にも恥じない立派な規律と優美さに満ちておりますが、先々代の頃はリトア王国とイシェラ王国が幾多の小競り合いを経てようやく平和協定を結んだばかりということもあり、スリジェ辺境伯家は国境の要。セリーナ様のお父様もあまりお屋敷にはおらず国境警備の指揮に力を注いでいらっしゃいました。

使用人も少なくセリーナ様のお母様が使用人スペースにまで降りていらして直接指示を出すことも多い。つまり、お仕えする当家のご家族と使用人の垣根が低かったのです。

その頃は私の叔父が執事を務めており、幼い私も当家にお邪魔して細々とした手伝いをさせていただいておりました。
この辺りの土地のものは皆スリジェ家の人々に守られてきたことを身に染みて分かっておりますからね。
ですから幼い頃からセリーナ様のこともよく存じ上げております。

セリーナ様は勉学にも剣術にも優れていらっしゃり男児の後継がいないと王都の貴族から受ける非難からお母様を守っていらっしゃいました。しかし、優れていればいるほど今度は男子でなかったのは惜しい事だと言われ、歯がゆい思いをしていらっしゃいましたね。

そして成長なさり、王都の社交界に身を置かれてからも少しの所作、言動をとりあげて大袈裟に眉をひそめられ、これだから辺境の者はだの、女性としての品に欠けるだのひどい方は火薬臭くて近付き難いとおっしゃる。
そんな貴族の足の引き合いに巻き込まれたのです。
セリーナ様は優れた方です。貴族としての所作や作法も当然学ばれていました。
しかし王都に身を置かないセリーナ様の味方は少なく、そんな時にどこかでセリーナ様を見初められたと縁談を申し込まれ後ろ盾となってくださったのがデューク様です。
デューク様は当時、王都一のシャレ者として有名な方でした。公爵家の三男で憧れていらっしゃる御婦人方も多かった。
花嫁修行として公爵家に身を置かれたセリーナ様は様々なことを学ばれ日を追うごとに輝きを増し悪意に満ちた評価に立ち向かって行かれました。
そして社交界の重鎮である公爵夫人に貴婦人の中の貴婦人であると認められたのです。」

いつのまにか身を乗り出して話を聞いていた私は思わず詰めていた息をホッと吐き出した。
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