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第一章 リトア王国
幼女は見た
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そんなダミアンさんに呼ばれたのは明後日にはエシャルロット公爵様ご一行が到着するという前夜のこと。
夜中に目が覚めた私の耳に誰かの泣き声が聞こえてきた。
必死に声を殺しているようだがそれがかえって苦しそうで心配になった私は部屋を抜け出した。
のんちゃんによく地獄耳だと言われていた特技がマリーの身体になっても活きていてありがたい。
泣き声を頼りに廊下を進むとデュークお祖父様の部屋にたどり着いた。
まさか、お祖父様の容態が?と不安になった私は細く開いていたドアの隙間から中を覗く。
ベッドサイドの仄かな灯りの下、枕に背を預けたお祖父様の膝に顔を突っ伏して泣いているのはお祖母様だった。
「私はいつもこうなのよ。このままではベルを失った時のようにマリーベルにも出ていかれてしまうわ。」
見てはいけないと思いつつ呆然とたたずんでいた私の肩にそっと手が置かれ、ビクッと見上げるとダミアンさんが優しく微笑みながら口元に指を一本あてていた。
彼に導かれて使用人用階段を使い、初めて見る一室に通された。
「マリー様をこちらにお連れした事は秘密にしていただけますか?」
使い込んだあめ色の木の椅子もダミアンさんが優しく引いて座らせてくれると黄金でできた豪華な椅子に思える。
「もちろん。ここはお屋敷で働いてくださっている皆さんが使っているお部屋ですか?」
キョロキョロと部屋を見回す私の前に魔法で取り出したかのようにサッとカップが置かれた。
「こちらは私ども使用人が軽食をとったり会話を楽しんだりする休憩用のスペースでございます。」
ダミアンさんは私の横に立ちカップにそっとホットミルクを注いでくれる。
本来なら決して足を踏み入れられない場所にいることに興奮して目を輝かせる私に彼はそっと話し始めた。
「マリー様、いえマリーベル様。
先ほどご覧になりましたね、セリーナ様。つまりマリーベル様のお祖母様が少し取り乱していらしたところを。」
私はうなずいてからホットミルクを一口飲んだ。
何これ、めちゃくちゃ美味しい。
「セリーナ様は日々マリーベル様の教育に力を入れていらっしゃいますね。
まだ幼いお嬢様にとっては厳しく感じることもあると思います。
ですがそれは、マリーベル様にご自分と同じ思いをさせたくないと思っていらっしゃるからなのです。」
ダミアンさんの言葉に私は首を傾げた。
少し長い話になりますが、ご辛抱いただけますか?
との問いに私は大きくうなずいた。
夜中に目が覚めた私の耳に誰かの泣き声が聞こえてきた。
必死に声を殺しているようだがそれがかえって苦しそうで心配になった私は部屋を抜け出した。
のんちゃんによく地獄耳だと言われていた特技がマリーの身体になっても活きていてありがたい。
泣き声を頼りに廊下を進むとデュークお祖父様の部屋にたどり着いた。
まさか、お祖父様の容態が?と不安になった私は細く開いていたドアの隙間から中を覗く。
ベッドサイドの仄かな灯りの下、枕に背を預けたお祖父様の膝に顔を突っ伏して泣いているのはお祖母様だった。
「私はいつもこうなのよ。このままではベルを失った時のようにマリーベルにも出ていかれてしまうわ。」
見てはいけないと思いつつ呆然とたたずんでいた私の肩にそっと手が置かれ、ビクッと見上げるとダミアンさんが優しく微笑みながら口元に指を一本あてていた。
彼に導かれて使用人用階段を使い、初めて見る一室に通された。
「マリー様をこちらにお連れした事は秘密にしていただけますか?」
使い込んだあめ色の木の椅子もダミアンさんが優しく引いて座らせてくれると黄金でできた豪華な椅子に思える。
「もちろん。ここはお屋敷で働いてくださっている皆さんが使っているお部屋ですか?」
キョロキョロと部屋を見回す私の前に魔法で取り出したかのようにサッとカップが置かれた。
「こちらは私ども使用人が軽食をとったり会話を楽しんだりする休憩用のスペースでございます。」
ダミアンさんは私の横に立ちカップにそっとホットミルクを注いでくれる。
本来なら決して足を踏み入れられない場所にいることに興奮して目を輝かせる私に彼はそっと話し始めた。
「マリー様、いえマリーベル様。
先ほどご覧になりましたね、セリーナ様。つまりマリーベル様のお祖母様が少し取り乱していらしたところを。」
私はうなずいてからホットミルクを一口飲んだ。
何これ、めちゃくちゃ美味しい。
「セリーナ様は日々マリーベル様の教育に力を入れていらっしゃいますね。
まだ幼いお嬢様にとっては厳しく感じることもあると思います。
ですがそれは、マリーベル様にご自分と同じ思いをさせたくないと思っていらっしゃるからなのです。」
ダミアンさんの言葉に私は首を傾げた。
少し長い話になりますが、ご辛抱いただけますか?
との問いに私は大きくうなずいた。
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