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第一章
清掃師、宿舎へ行く
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第二セーブポイントのクリスタルがすぐ近くにあり、さらに日がとっぷりと暮れてきたという条件が重なったこともあって、俺を新たに加えた登山パーティーは一旦彼らの宿舎へ戻ることになった。
当然魔道具の一種であるスパイダーロープを使ったわけだが、下りた場所はちょうど『アバランシェ・ブレード』を含む、様々な迷宮山が見渡せる長閑な牧草地にある宿舎前だった。
へえ、この登山者パーティー、結構離れたところから遠征してたんだな。最近じゃスパイダーロープのような便利なものが発明されたから、これを所持してセーブポイントのクリスタルに近付くことさえできれば、こういった遠く離れた宿舎から一瞬で行けるようになるというわけだ。
俺は何度か見物しに行ったことがあって、そういったものがなかった数年前までは迷宮山の麓に飼い慣らされたウォーキングバードが仲良く並び、登山者の帰りを待ってることも多かったんだ。
「……」
それにしても、胸ポケットの動きがやたらと激しいことから、小人化して中に入ってるマリベルたちが早く元の大きさに戻りたがってそうだ。誰かと一緒の部屋じゃなく、狭くても個室で休めたらいいんだけど……。
「パーティーのご帰還であーるっ!」
ロディが叫びながら玄関のドアを勢いよく開けるも返事はない。玄関の先には細い通路があり、左右に部屋があるだけの単純な構造のようだった。外に小さなテラスがあったので、多分食事会とかはそこでやるんだろう。
「んもう、リーダー……新人さんの前で変なこと言うのやめてよっ……」
「やめなさーい」
「やめましょうねえ?」
「わ、わかってはいるが、つい……。いつかはメイドたちを雇えるくらい成り上がりたいものだっ!」
夢を語るロディをみんな当たり前のようにスルーしてどんどん宿舎内に入っていき、扉を開けて中へと入っていった。
「まったく、リーダーであるこの私が熱く語っているというのに……。アルファ君、私の愚妹を含め、仲間たちの見苦しいところを見せてしまって本当に申し訳ないっ!」
「い、いや、別にいいよ」
「嗚呼っ、なんて優しい新人が入ってきてくれたものだっ! さすが、あの可憐なアルフェリナさんの兄っ!」
「……」
「あっ、失敬した! アルファ君も疲れているだろうに……今すぐ部屋へ案内させていただくっ!」
急にキリッとした顔立ちになり、大股で奥へと向かっていくロディ。
なんせ突然の仲間入りだし、俺用の部屋なんてないはずだから倉庫で就寝とかになりそうだが、そこは我慢しないとな。俺なんて、それこそ前パーティー時代は実質三人用の宿舎にいて、増築すら許されずにずっと狭い倉庫で寝てたくらいだから慣れてる。
「――君にはこの部屋を使ってほしいっ!」
「おお……」
そこは通路の一番奥にある部屋で、ベッドやテーブル、クローゼット等が置かれた個室だった。
「狭くてすまん!」
「いやいや、広いくらいだよ」
むしろ、こんなにいい部屋を俺が一人で使っていいものかとためらうレベルだ。
「実を言うとだな、ここは本来私の部屋なんだが、折角の新人に気を遣わせたくないから、私は倉庫で寝ることにする! ではっ!」
「あ、ちょっと……」
俺が倉庫で寝るからと言おうとしたが、あっという間に行ってしまった。ロディって普通にいい人なんだな……。
◇◇◇
「ういー……ゲプッ……畜生……ちっきしょおおぉぉっ!」
「「……」」
登山者ギルドの片隅にて、酔っ払ったジェイクの怒声が響き渡る。その傍らには憔悴した様子のレイラとクエスの姿もあった。
いずれもホワイトグリズリーから命からがら逃げてきたため、体はひっかき傷だらけで髪もボサボサであり、服装に至っては地肌があちらこちらから覗くほどボロボロであった。
「ちょっとジェイク、いくらなんでも飲みすぎじゃないのかい……?」
「僕もそう思う。ジェイク、そろそろやめといたほうが……」
「うるせえぇっ! これが飲まずにいられるかよっ! ひっく……ゴミアルファは一体どうやって自然現象から生き残って、しかもあのパーティーを守れたんだ……? 奇跡が起きたとしか考えられねえが……二回続けてだぜ……。なんなんだよ、もう……!」
「「……はあ」」
相変わらず酒を浴びるように飲むジェイクに対し、呆れた顔を見合わせるレイラとクエス。
「とにかくさ……もう手を出すべきじゃないよ。アルファには……」
「だね。あいつ、いつの間にか僕たちじゃどうにもならないレベルになってるみたいだし――」
「――僕たちじゃどうにもならない……?」
ギロリとクエスを睨みつけるジェイク。
「いや、だってさ……あいつ運が強すぎるし……」
「そ、そうだよ。ジェイク、仲間内で喧嘩はやめときなって……」
「クエスのおかげだ」
「「へ……?」」
ジェイクの予想外の反応に唖然とするレイラとクエス。
「思いついたぜ、最高の作戦をよ……」
「「ええっ……?」」
「耳貸してくれ」
二人に向かってドヤ顔で耳打ちするジェイク。
「――ジェ、ジェイク、あんたマジで天才だよ。クエスの一言がきっかけになったとはいえ……」
「ぼ、僕もそう思う。凄すぎて震えが来ちゃった。これならアルファのやつも終わりだね……」
「へへっ……夜はこれからだし、最高の一日になる明日を前に早くも祝勝会としゃれこもうぜっ!」
三人の様子はそれから陰鬱な雰囲気からガラリと変わり、大いに盛り上がったのだった……。
当然魔道具の一種であるスパイダーロープを使ったわけだが、下りた場所はちょうど『アバランシェ・ブレード』を含む、様々な迷宮山が見渡せる長閑な牧草地にある宿舎前だった。
へえ、この登山者パーティー、結構離れたところから遠征してたんだな。最近じゃスパイダーロープのような便利なものが発明されたから、これを所持してセーブポイントのクリスタルに近付くことさえできれば、こういった遠く離れた宿舎から一瞬で行けるようになるというわけだ。
俺は何度か見物しに行ったことがあって、そういったものがなかった数年前までは迷宮山の麓に飼い慣らされたウォーキングバードが仲良く並び、登山者の帰りを待ってることも多かったんだ。
「……」
それにしても、胸ポケットの動きがやたらと激しいことから、小人化して中に入ってるマリベルたちが早く元の大きさに戻りたがってそうだ。誰かと一緒の部屋じゃなく、狭くても個室で休めたらいいんだけど……。
「パーティーのご帰還であーるっ!」
ロディが叫びながら玄関のドアを勢いよく開けるも返事はない。玄関の先には細い通路があり、左右に部屋があるだけの単純な構造のようだった。外に小さなテラスがあったので、多分食事会とかはそこでやるんだろう。
「んもう、リーダー……新人さんの前で変なこと言うのやめてよっ……」
「やめなさーい」
「やめましょうねえ?」
「わ、わかってはいるが、つい……。いつかはメイドたちを雇えるくらい成り上がりたいものだっ!」
夢を語るロディをみんな当たり前のようにスルーしてどんどん宿舎内に入っていき、扉を開けて中へと入っていった。
「まったく、リーダーであるこの私が熱く語っているというのに……。アルファ君、私の愚妹を含め、仲間たちの見苦しいところを見せてしまって本当に申し訳ないっ!」
「い、いや、別にいいよ」
「嗚呼っ、なんて優しい新人が入ってきてくれたものだっ! さすが、あの可憐なアルフェリナさんの兄っ!」
「……」
「あっ、失敬した! アルファ君も疲れているだろうに……今すぐ部屋へ案内させていただくっ!」
急にキリッとした顔立ちになり、大股で奥へと向かっていくロディ。
なんせ突然の仲間入りだし、俺用の部屋なんてないはずだから倉庫で就寝とかになりそうだが、そこは我慢しないとな。俺なんて、それこそ前パーティー時代は実質三人用の宿舎にいて、増築すら許されずにずっと狭い倉庫で寝てたくらいだから慣れてる。
「――君にはこの部屋を使ってほしいっ!」
「おお……」
そこは通路の一番奥にある部屋で、ベッドやテーブル、クローゼット等が置かれた個室だった。
「狭くてすまん!」
「いやいや、広いくらいだよ」
むしろ、こんなにいい部屋を俺が一人で使っていいものかとためらうレベルだ。
「実を言うとだな、ここは本来私の部屋なんだが、折角の新人に気を遣わせたくないから、私は倉庫で寝ることにする! ではっ!」
「あ、ちょっと……」
俺が倉庫で寝るからと言おうとしたが、あっという間に行ってしまった。ロディって普通にいい人なんだな……。
◇◇◇
「ういー……ゲプッ……畜生……ちっきしょおおぉぉっ!」
「「……」」
登山者ギルドの片隅にて、酔っ払ったジェイクの怒声が響き渡る。その傍らには憔悴した様子のレイラとクエスの姿もあった。
いずれもホワイトグリズリーから命からがら逃げてきたため、体はひっかき傷だらけで髪もボサボサであり、服装に至っては地肌があちらこちらから覗くほどボロボロであった。
「ちょっとジェイク、いくらなんでも飲みすぎじゃないのかい……?」
「僕もそう思う。ジェイク、そろそろやめといたほうが……」
「うるせえぇっ! これが飲まずにいられるかよっ! ひっく……ゴミアルファは一体どうやって自然現象から生き残って、しかもあのパーティーを守れたんだ……? 奇跡が起きたとしか考えられねえが……二回続けてだぜ……。なんなんだよ、もう……!」
「「……はあ」」
相変わらず酒を浴びるように飲むジェイクに対し、呆れた顔を見合わせるレイラとクエス。
「とにかくさ……もう手を出すべきじゃないよ。アルファには……」
「だね。あいつ、いつの間にか僕たちじゃどうにもならないレベルになってるみたいだし――」
「――僕たちじゃどうにもならない……?」
ギロリとクエスを睨みつけるジェイク。
「いや、だってさ……あいつ運が強すぎるし……」
「そ、そうだよ。ジェイク、仲間内で喧嘩はやめときなって……」
「クエスのおかげだ」
「「へ……?」」
ジェイクの予想外の反応に唖然とするレイラとクエス。
「思いついたぜ、最高の作戦をよ……」
「「ええっ……?」」
「耳貸してくれ」
二人に向かってドヤ顔で耳打ちするジェイク。
「――ジェ、ジェイク、あんたマジで天才だよ。クエスの一言がきっかけになったとはいえ……」
「ぼ、僕もそう思う。凄すぎて震えが来ちゃった。これならアルファのやつも終わりだね……」
「へへっ……夜はこれからだし、最高の一日になる明日を前に早くも祝勝会としゃれこもうぜっ!」
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