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第一章
清掃師、罠に気付く
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「助けてー!」
「……っ!?」
あのパーティーが何を探してるのか探るべく、ちょうど雑音を【一掃】したときだ。誰かの助けを求める叫び声が耳を突いた。この声……多少声色を変えてある感じだが、どこかで聞いたことがあるような……。
「ん、誰かの声が聞こえるのう?」
「ですわねえ」
「妙に悲壮感のない叫びだ」
「大声を上げる練習でしゅか?」
確か……そうだ、【回復師】のレイラのやつだ。あいつが助けを求めてるだと? ジェイクたちが仲間にいるのに変だな。それにカミュの意見のように俺も切羽詰まってる感じの声には聞こえなかった。
「……」
例の特異な自然現象が迫る中、俺は焦る気持ちや興奮を【一掃】し、冷静に考えてみた。
「アルファよ、そんなに難しい顔をしてどうしたのじゃ?」
「アルファ様、どうしたんですの?」
「アルファどの、どうしたのだ?」
「アルファしゃん、どうしたのれふう?」
「わかった……」
「「「「えっ?」」」」
その答えはすぐに出た。大体、俺たちのほうが先に第二セーブポイントに向かったのにレイラが先に着いてるというのはどう考えても不自然だったので、そこから糸口を掴むことができた。
「叫び声の持ち主は狼を擦ろうとしてきた連中の一人レイラで、その狙いがわかったんだ。あのパーティーを留まらせて、それを助けようとする俺を自然現象に巻き込ませるために、ああして助けを呼んでると見せかけて時間稼ぎをしてるってわけだ……」
「なっ……なんと愚かなことじゃっ!」
「下劣すぎる……」
「さすがは下等生物ですわね」
「酷いれふうー」
マリベルたちが怒る間にも、どんどん霧が蔓延して視界が悪くなってきている。時間がない。
「なあ、みんな。ちょっとの間隠れててくれないか?」
「「「「えっ?」」」」
「集団で行くと警戒されて逃げられるかもしれない。助けを呼んでるやつに危害を加えてる連中だと勘違いされる恐れもある。おそらくそれも罠の一つだ」
「なるほどのう。し、しかしアルファよ、お主一人で行っても警戒されることに変わりはないと思うぞ? その場凌ぎで警戒心を【一掃】するやり方もあるが、あれはあくまで一時的じゃからお薦めはできん。効果範囲から離れたときに逆にお主に対する疑念や違和感を高めて面倒なことになるのじゃ」
「いや、大丈夫だ。【一掃】とか関係なしに絶対に警戒されない」
「「「「ええっ……?」」」」
マリベルを筆頭にみんな驚いてる様子。相手の罠を逆に利用してやるつもりだ。
「――っと、こういうわけだ」
俺が作戦内容を手短に話すと、みんなの顔に安堵の色が広がり始める。
「それならいけるじゃろうな!」
「さすがは我のアルファどの」
「わしのじゃっ!」
「あらあら、アルファ様はわたくしのものですのよ?」
「ユリムのれふー!」
「「「「ムムッ……」」」」
「あは、は……」
特殊な自然現象が迫るこんなヤバい状況で俺の取り合いみたいなことするんだから、やっぱりドワーフって異次元な存在だ。
◇◇◇
「見つからない以上、もう脱出すべきだっ!」
視界が悪化の一途をたどり、既にほんの周辺しか見えなくなっている第二セーブポイント付近、一人の背は低いが逞しい体つきの男が唾を飛ばしながら叫んでいた。
「この山は視界が極端に悪くなると超危険な自然現象が発生すると言われていてだなっ!」
「もうっ! リーダー、それ言うの何回目!?」
それに対して声を荒げたのは赤いお下げ髪の少女だった。
「誰かが助けを求めてるのに簡単に見捨てるなんてできないよ……!」
「お……落ち着くんだサーシャ。私はだな、みんなのためを思って――」
「――そんなのわかってるよ!」
「う……」
少女サーシャの剣幕を前に、それまで威勢がよかった男もたじたじの様子であった。
「え、えーん、わたし怖いよぉ……」
継ぎ接ぎだらけの熊のぬいぐるみを抱えた幼女が泣き出す。
「ほ、ほらっ! シェリーだって泣いているじゃないかっ!」
「泣いてるのはリーダーも同じでしょ!」
「こ、これは雪が目元に当たって溶けたものだっ!」
「こんなときにしょうもない言い訳しないでよっ!」
「うぐっ……」
「でも……サーシャさん、さすがにもう無理だと思いますよ? 残念ですが、これだけ探してもいないわけですし……」
おっとりした青い長髪の少女があきらめた様子で首を横に振る。
「わ、わかってるよ、ミュート。けど……助けを呼んだ人が、今どれだけ心細い思いをしてるかと思うと、あたし……耐えられなくて……」
しきりに溢れ出す涙を拭うサーシャ。
「サ、サーシャ……」
サーシャの肩に手を置くリーダーの男。
「リーダー……?」
「サーシャ、君はかつてほかの登山者パーティーからはぐれ、遭難していたときに助けてもらった過去があるからむきになるのは私もわかる。わかるが――」
「「「――あっ……」」」
「ん?」
急にサーシャたちがはっとした顔になり、リーダーだけが混乱した様子で目をしばたたかせる。
「ど、どうしたのだ!?」
「「「あ、あれ……」」」
「……はっ!」
リーダーの男を含むパーティーの面々が目にしたもの、それはこちらに向かってくる何者かの影であった……。
「……っ!?」
あのパーティーが何を探してるのか探るべく、ちょうど雑音を【一掃】したときだ。誰かの助けを求める叫び声が耳を突いた。この声……多少声色を変えてある感じだが、どこかで聞いたことがあるような……。
「ん、誰かの声が聞こえるのう?」
「ですわねえ」
「妙に悲壮感のない叫びだ」
「大声を上げる練習でしゅか?」
確か……そうだ、【回復師】のレイラのやつだ。あいつが助けを求めてるだと? ジェイクたちが仲間にいるのに変だな。それにカミュの意見のように俺も切羽詰まってる感じの声には聞こえなかった。
「……」
例の特異な自然現象が迫る中、俺は焦る気持ちや興奮を【一掃】し、冷静に考えてみた。
「アルファよ、そんなに難しい顔をしてどうしたのじゃ?」
「アルファ様、どうしたんですの?」
「アルファどの、どうしたのだ?」
「アルファしゃん、どうしたのれふう?」
「わかった……」
「「「「えっ?」」」」
その答えはすぐに出た。大体、俺たちのほうが先に第二セーブポイントに向かったのにレイラが先に着いてるというのはどう考えても不自然だったので、そこから糸口を掴むことができた。
「叫び声の持ち主は狼を擦ろうとしてきた連中の一人レイラで、その狙いがわかったんだ。あのパーティーを留まらせて、それを助けようとする俺を自然現象に巻き込ませるために、ああして助けを呼んでると見せかけて時間稼ぎをしてるってわけだ……」
「なっ……なんと愚かなことじゃっ!」
「下劣すぎる……」
「さすがは下等生物ですわね」
「酷いれふうー」
マリベルたちが怒る間にも、どんどん霧が蔓延して視界が悪くなってきている。時間がない。
「なあ、みんな。ちょっとの間隠れててくれないか?」
「「「「えっ?」」」」
「集団で行くと警戒されて逃げられるかもしれない。助けを呼んでるやつに危害を加えてる連中だと勘違いされる恐れもある。おそらくそれも罠の一つだ」
「なるほどのう。し、しかしアルファよ、お主一人で行っても警戒されることに変わりはないと思うぞ? その場凌ぎで警戒心を【一掃】するやり方もあるが、あれはあくまで一時的じゃからお薦めはできん。効果範囲から離れたときに逆にお主に対する疑念や違和感を高めて面倒なことになるのじゃ」
「いや、大丈夫だ。【一掃】とか関係なしに絶対に警戒されない」
「「「「ええっ……?」」」」
マリベルを筆頭にみんな驚いてる様子。相手の罠を逆に利用してやるつもりだ。
「――っと、こういうわけだ」
俺が作戦内容を手短に話すと、みんなの顔に安堵の色が広がり始める。
「それならいけるじゃろうな!」
「さすがは我のアルファどの」
「わしのじゃっ!」
「あらあら、アルファ様はわたくしのものですのよ?」
「ユリムのれふー!」
「「「「ムムッ……」」」」
「あは、は……」
特殊な自然現象が迫るこんなヤバい状況で俺の取り合いみたいなことするんだから、やっぱりドワーフって異次元な存在だ。
◇◇◇
「見つからない以上、もう脱出すべきだっ!」
視界が悪化の一途をたどり、既にほんの周辺しか見えなくなっている第二セーブポイント付近、一人の背は低いが逞しい体つきの男が唾を飛ばしながら叫んでいた。
「この山は視界が極端に悪くなると超危険な自然現象が発生すると言われていてだなっ!」
「もうっ! リーダー、それ言うの何回目!?」
それに対して声を荒げたのは赤いお下げ髪の少女だった。
「誰かが助けを求めてるのに簡単に見捨てるなんてできないよ……!」
「お……落ち着くんだサーシャ。私はだな、みんなのためを思って――」
「――そんなのわかってるよ!」
「う……」
少女サーシャの剣幕を前に、それまで威勢がよかった男もたじたじの様子であった。
「え、えーん、わたし怖いよぉ……」
継ぎ接ぎだらけの熊のぬいぐるみを抱えた幼女が泣き出す。
「ほ、ほらっ! シェリーだって泣いているじゃないかっ!」
「泣いてるのはリーダーも同じでしょ!」
「こ、これは雪が目元に当たって溶けたものだっ!」
「こんなときにしょうもない言い訳しないでよっ!」
「うぐっ……」
「でも……サーシャさん、さすがにもう無理だと思いますよ? 残念ですが、これだけ探してもいないわけですし……」
おっとりした青い長髪の少女があきらめた様子で首を横に振る。
「わ、わかってるよ、ミュート。けど……助けを呼んだ人が、今どれだけ心細い思いをしてるかと思うと、あたし……耐えられなくて……」
しきりに溢れ出す涙を拭うサーシャ。
「サ、サーシャ……」
サーシャの肩に手を置くリーダーの男。
「リーダー……?」
「サーシャ、君はかつてほかの登山者パーティーからはぐれ、遭難していたときに助けてもらった過去があるからむきになるのは私もわかる。わかるが――」
「「「――あっ……」」」
「ん?」
急にサーシャたちがはっとした顔になり、リーダーだけが混乱した様子で目をしばたたかせる。
「ど、どうしたのだ!?」
「「「あ、あれ……」」」
「……はっ!」
リーダーの男を含むパーティーの面々が目にしたもの、それはこちらに向かってくる何者かの影であった……。
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