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第一章
清掃師、焦燥感を覚える
しおりを挟む『ガオオォォッ……』
周囲に漂う霧を【一掃】しながら進み、第二セーブポイントが間近に迫ってきたとき、一匹の白い化け物が俺たちの行く手を阻むように立ち塞がった。
「……」
とにかくでかい。身長はもちろん横幅もたっぷりあって、そのサイズの大きさは俺の想像以上だった。
やつは普通の熊の三倍はあるモンスターで、ただ体がでかいだけでなく鋭利で長い爪を持ち、たった一匹でも登山者パーティーを壊滅させることができるほど身体能力お化けなんだ。
その名もホワイトグリズリーといって獰猛かつ食欲旺盛であり、登山者がよく通るこうした広い道に現れることの多いモンスターだ。
「熊じゃっ」
「熊ですわね」
「ふっ、熊だ」
「熊しゃんー」
「……」
ドワーフたちの反応は相変わらず呑気なものだった。まあ確かに俺たちの前じゃただの熊だな。
『――ガオオッ!』
「……っ!」
やつが急に飛び掛かってくる。凄いスピードだが、強化狼よりはずっと遅くて自慢の爪も届かなかった……って、折角マリベルに新調してもらった服が少し破れてるな。この代償はちゃんと払わせないと。
『ガ、ガオッ……!?』
驚愕した様子の熊の懐に俺はいた。どうやら俺が自分の匂いや気配、それに足音を【一掃】したことに気付かなかったらしい。さらにやつのパワーやスピード、さらには防御力と防御しようとする意思をまとめて払いのけ、急所である心臓部分に短剣を深く食い込ませた。
『ガッ……』
絶命した熊を素早く解体して【収集】する。狼の肉にはもう飽きていただけにちょうどいい。
「今宵は熊鍋じゃなっ!」
「……じゅるり。し、失敬した」
「あらあらっ、カミュったらはしたないですことっ」
「ルカしゃんも涎が出てまふう」
「はうあっ!?」
マリベルたちも盛り上がってるみたいだしよかったよかった……って、なんだ? また視界がかなり悪くなってきたと思って霧を【一掃】したら、向こうのほうにパーティーらしき集団が見えた。
姿ははっきり見えないが全部で四人いて、しきりに周囲を見回して何かを探している様子。一体どうしたんだ? はぐれた誰かを探しているのか、あるいは何かを紛失したのか、はたまた道に迷ってしまってるのか。とにかくこのままだとまずいな。もうすぐ例の自然現象が発生しそうだっていうのに……。
◇◇◇
「助けてー!」
「ププッ……いいぞ、レイラ」
「くくっ、探してる探してる……」
視界が悪くなる一方の第二セーブポイント付近、右往左往するパーティーを見てジェイクたちが笑いを噛み殺していた。
「ふう……。これくらいでいいだろうさ。叫びまくって疲れちまったよ……」
「おう、お疲れ、レイラ」
「レイラ、お疲れー」
「てか、ジェイクはよくこんなことを思いつくもんだね。第三者のパーティーを利用してアルファを自然現象に巻き込ませようなんてさ」
「ホントホント。ジェイクには脱帽だよ……」
「へへっ。今日、第一セーブポイントにスパイダーロープで登ったときのことを覚えてたからよ、もう一つのパーティーが先のほうにいるのを」
「凄い記憶力じゃないか。あたいなんて今日の朝何を食べたかも忘れてんのに」
「それ、痴呆じゃね?」
「僕もそれ思った」
「バカッ! そう言うジェイクだってさ、どうせ女が多いパーティーだからってたまたま覚えてただけなんじゃないのかい!?」
「そうなの?」
「……っ!」
露骨に口元を引き攣らせるジェイク。
「やっぱりそうじゃないか。ったく、男ってやつは……」
「あはは、ジェイクらしいや」
「へ、へへっ、まぁな。でも、それが今回大いに役立ったってわけよ。ゴミアルファの巻き添えにしちまって悪いけどよ、今回ばかりは我慢ならねえから犠牲になってもらうぜっ! やつが助けようとしても、この状況で集団で近付けば警戒されるはずだし、悪夢までの時間稼ぎになる。それに奇跡なんて二度も起きねえはずだから、まとめて木っ端微塵ってわけだ!」
「いいねえ。あたい、想像するだけでゾクゾクしてきちゃったよ……」
「僕も……あ……」
クエスがはっとした顔になる。
「けど、ジェイク。あの自然現象が起きる前にアルファのやつが逃げたら……?」
「クエス、それも計算済みだ。そのときはそのときで、ゴミアルファは自然現象が発生するのを知っていながらあのパーティーを見捨てたってことになるわけよ。それをあとで糾弾してやりゃいい。そうすりゃ連れの女の子に幻滅されてボッチに逆戻り。俺は傷心の女の子を頂くって寸法よ!」
「ジェイクはホント策士だねぇ……」
「だね。ジェイクが味方でよかったあ……」
レイラとクエスの深く感心した様子に、ジェイクがニヤリと笑う。
「へへっ……お、ゴミアルファと連れもこっちに来やがった!」
「「あっ……」」
第二セーブポイントの後方を見やる三人。霧で視界が徐々に悪くなる中、やってきた集団がすぐにアルファたちだと見分けがつく程度には近い場所にいた。
「さて、やつが一体どういう決断を下すのか……低みの見物といこうぜっ!」
「だねぇ、そろそろ行くかい?」
「うんうん、僕たちまで危なくなるしねえ」
三人はニヤリと笑い合うと、スパイダーロープによって一足先に『アバランシェ・ブレード』から脱出するのであった……。
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