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第76話
しおりを挟む俺たちは冒険者ギルドを目指し、久々にみんな揃って町へと降り立ったわけだが、住民らからやたらと注目を浴びるのがわかった。
「あ、あれは……『聖域の守護者』だ!」
「今話題のSS級パーティーよね……!?」
「そうそう、あの四人の中だと、治癒使いのラウルが特に凄いんだって! 人間離れした治癒力を持ってるみたいよ!」
「いや、あいつがモンスター級だってことくらい俺だって知ってる! ほかのメンバーも猛者揃いらしいぜ!?」
「それも知ってるわよ。あの大きな体つきの人がリーダーで盾使いのルエス、おとしとやかそうなのが片手剣使いのユリム、活発な感じなのが魔術使いのカレンっていうんでしょ」
「おいおい、滅茶苦茶詳しいな……」
「てか、あんた知らないの? あの三人はね、一年くらい前に『神々の申し子』っていうパーティーと決闘して勝ったのよ!」
「それ僕も現地で見た! ラウルさんを賭けた死闘だったんだよ。向こうがインチキしてたから最後まで縺れたっていうのもあるんだけど、それに打ち勝ったときは感動したなあ」
「へえ~、なんか凄そう。私も見たかったな~」
「俺も俺も!」
「「「「……」」」」
それ以降も、町の住民から俺たち一人一人の趣味がどうの服装がどうの、詳しい解説までされてしまって、しかもそこそこ当たってるもんだからなんとも照れ臭い限りだった。
まあ、自分たちがこうして目立っているおかげで、イブは例の隠れる能力で潜伏しなくてもいいし、駄々をこねてついてきたファムも、ユリムの腕の中で人形の振りをしつつも町を見物できる余裕があったのでよかった。
中には『サインをください』とか『握手してほしい』とか、そんな黄色い声までガンガン飛んでくる。
これがお世辞か、あるいは冷やかしなのはわかるが、そもそも俺は大物じゃないのでそんなことはしない。
しまいには子供たちがこっちを指差すなり『最強の治癒使いのラウルだあ!』と叫び始めて、俺は恥ずかしさのあまりルエスの後ろに隠れるほどだった。
「一般人、それも子供までお世辞が上手くなってるなんて、一体どういうことなんだろうな……」
「「「「「……」」」」」
俺が首を傾げつつそう発言すると、ルエスたちも見え見えのお世辞に呆れたのか苦笑いを浮かべていた。
そんなこんなで道中色々あったものの、それからしばらく歩いてようやくギルドへと到着した。
「「「「「――ザワッ……」」」」」
なんだ? やたらと中が騒然としてるな。何かあったんだろうか? まさか、近辺に変異種でも登場した……? あるいは、進化ゴーレム(姉)のほうが目撃されたとか……。
「ラウル様っ……!」
あれ、受付にいたイリスが、こっちを見るなり血相を変えて駆け寄ってきた。こりゃ只事じゃないな。
「ど、どうしたんだ、イリス?」
「た……大変なことが……はぁ、はぁ……」
「過呼吸になってるな。何があったか知らないけど、大丈夫だから落ち着いて話すんだ、イリス」
「……は、はい……あの、ラウル様……? その前に……抱きしめてもらえると、ありがたいです……」
「……あ、あぁ……」
そうだった。これからは俺も積極的に行くんだったな。
ぎこちない手つきで彼女の肩を抱くと、周囲から一斉に注目されるのがわかってフワフワと浮くような感覚になった。こういうのを普段から俺に対してやってるイリスって、実は滅茶苦茶メンタルが強かったんだな……。
「……う、嬉しいです……。もう少し、強く抱いてもらいたいところですけど……おかげで、落ち着いてきたみたいです」
「そ、そ、そりゃよかった……。そ、そそっ、それで、何が起きたんだ……?」
イリスが元に戻ってくれたのはよかったが、今度はこっちのほうが過呼吸になってしまった。
「あの、隣町に……」
「と、隣町に……?」
「はい。大量のゾンビが発生しているようなんです……」
「「「「「ええぇっ……!?」」」」」
イリスの衝撃的発言に対し、ファムを含めて俺たちの上擦った声が重複した。
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