上 下
62 / 78

第62話

しおりを挟む

「「「「「……」」」」」

 大勢の観客が息を呑んで見守る中、二組のパーティーによる決戦は早くも第二戦目が行われようとしていた。

『聖域の守護者』の魔術使いカレンと、『神々の申し子』の同職、エミルの対決である。

「――なっ……!?」

 緊張した様子で少し遅れて中央へやってきたカレンは、を見てぎょっとした顔になった。

 エミルが仮面を脱ぎ去り、火傷にまみれた醜い半面を堂々と見せつけてきたからだ。

「な、なんのつもり? もしかしてあたしを動揺させるつもりなの、エミル?」

「ん……? もう見られるのも慣れたし……戦うときに邪魔になるから脱いだだけ……。てか……あんた、誰だっけ……?」

「し、失礼ね。あたしはカレンよ! 二度は言わないわよ?」

「……あ、そうだった……。印象が薄いからすっかり忘れてた……。一戦目……まぐれで勝ったからって……調子に乗らないでほしいかな……」

「は、はあ? まぐれって……あんたねぇ、一体どんな頭してたら、あの戦いを見てそう思えるわけ?」

「……ん-、頭が弱いのはそっちでしょ……。だって、あまりにも弱そうだから、シェリーは油断しただけだし……。でも、あたしはそうじゃない……。最初から全力で戦って、ズタボロにしてあげる……」

「オッホン。さあ二人とも、そろそろ準備はよいですかな?」

「あ、は、はい」

「……ん……まだ……少しがあるから、待って……」

 エミルが立会人に待ったをかけるとともに、カレンに向かって不気味な微笑みを覗かせる。

「……は、話したいこと?」

「うん……。ねぇねぇ、カレン……。ラウルはね、あたしの幼馴染なの……。知ってた……?」

「そ、そうなんだ。でも、その割りに彼の本当の力は見抜けなかったみたいね」

「ラウルはね……よくあたしに懐いてたの……。頭が弱いのか、幼馴染ってだけで仲がいいって思ったらしくて、を期待してたみたい……。あたしからしたら、小汚い野良犬がまとわりついてくるだけの感覚だったけど……ププ……」

「へえ。その顔みたいに心も醜いみたいね」

 エミルの挑発染みた台詞に対し、カレンの目の奥が怪しく光る。

「だったら……あんたもあたしと同じように醜くしてあげる……。顔だけじゃなく、体も心も全部、丸ごと……」

「上等よ、あんたなんか今すぐやっつけてやるんだから!」

「え、ちょっと、二人とも、カウントダウンは――」

「「――邪魔っ!」」

「うわあああぁっ……!」

 エミルとカレンの風魔法で立会人が弾き飛ばされ、思わぬ格好で決闘が始まることになり、周囲から笑い声が入り混じった歓声が上がる。

「そのうざい顔……今すぐ焼け爛れろぉおぉっ……!」

 始まって早々、エミルが小さめの火球を次々と放つも、寸前で水の壁を出して打ち消すカレン。

「なんのおぉっ!」

「うざっ……! これならどうっ……!?」

 火球は水壁を避けるように遠回りして向かってくるが、カレンは察知していたように素早く動いて回避しつつ巨大な火球を返す。

「うっ……!?」

 それはかわすにも消すにも大きすぎて、迷った末に避けようとしたカレンが肩に熱風をもろに食らって倒れ込む。

「やりぃっ! エミル、あんたの詠唱速度に憧れた時期もあったけど、威力のほうが大事ってラウルから聞いた通りね!」

「……ま、まぐれ……。こんなの……ただのまぐれえぇっ……!」

「はっ……!?」

 そこから、エミルによって怒涛の風魔法が繰り出される。それは服を切り裂くのに特化した、いわゆるに近い行為でもあった。

「きゃあああぁっ!」

 たちまち大観衆の前で肌を大きく露出する羽目になったカレンが、自分の体を抱くようにして悲鳴を上げる。

「……バカめぇ、これで隙だらけぇぇっ……。そのまま全身火傷で包帯まみれになっちゃえぇぇぇっ――!」

「――からのー?」

「へ……? がっ……!?」

 エミルの手元から大きめの火球が出現した直後、彼女の頭には魔法の岩が落下し、白目を剥いて失神することになった。

「「「「「おおおぉっ!」」」」」

「やりぃっ! こっちはシェリーの卑劣なやり方を見てきてるんだから、あんたも汚い手を使ってくるのは読んでたわよ! って、もう聞いてないか……」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...