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第61話
しおりを挟む「はああぁっ!」
「くっ……」
片手剣使い同士のシェリーとユリムの戦いは、序盤からシェリーが一方的に押す展開となった。
「ほらほら、ユリム、少しは反撃したらどうなのです!? SS級の力はこの程度なのですか!? 痛い目を見る前に降参することをお勧めします……!」
「……それは、こっちの台詞です。その程度ですか……」
「はあ……!?」
シェリーはまだ気付いていなかった。自身は100%の力を出しているにもかかわらず、ユリムは力を温存しつつ攻撃を受け流していることに。
「シェリーさん……今まであなたの力がどれほどのものか、見極めていました……。ですけど、もうわかりました。充分です……」
「……はぁ、はぁ……つ、強がりはみっともありませんよ!」
「…………」
息を切らしながらも躍起になって攻撃を仕掛けるシェリー。まもなくユリムの反撃によって手元にダメージを受け、剣を落とすとともにその首筋に刃が当てられる。
「私の勝ちですね、シェリーさん……。まさか、こんなにも体力がないとは……」
「く、くううぅっ……! ま、まだ終わりません!」
「は……!?」
右足で土を蹴り上げ、ユリムに向かって砂埃を巻き上げるシェリー。
「けほっ、けほっ……!」
「これで終わりですねえ。勝てばいいのですよ、勝てばっ!」
シェリーはすぐさま剣を拾い上げ、相手の後方に回ろうとするが、既にユリムの姿はなかった。
「えっ――?」
「――動かないでください。次は容赦しません……」
「はっ……」
冷たいものを背中に感じ、シェリーがおそるおそる振り返ると、そこには目に光の無いユリムの姿があった。
「シェリーさん……あなたの行動はある程度予測していました……。そういった訓練は、ラウルさんの指示もあって普段から当然のようにしていますので……」
「…………」
がっくりと肩を落としつつ剣を落とすシェリー。その途端、割れんばかりの大歓声が沸き起こるのだった。
◆◆◆
「「「「「おおおぉっ……!」」」」」
ユリムの圧倒的な勝利に対し、周囲からは俺たち『聖域の守護者』パーティーだけでなく、王様を含む歓声が上がっていた。
シェリーの奇襲があったときは静まり返ったものだが、俺はまったく心配してなかった。というのも、いざというときは目を瞑っても対応できるような訓練もやっていたから、ユリムなら問題なく対応できると思ったんだ。
ただ、彼女の力はまだまだこんなものじゃない。俺の支援がなくてもちゃんと指示通りに動いてくれたのもあったが、それ以前にひたすら猛特訓に励んでいたこともあって体力に余裕を感じられた。
「――た、ただいまです、みなさん……。緊張しましたです……」
「「「ユリム、お疲れー」」」
ユリムが項垂れつつ、がっかりした様子で帰ってきた。まるで負けてしまったかのような表情なのは、もっと良い動きができたのにと思ってるからだろう。バルドたちとは向上心が全然違うからな。
「よーし、次はあたしの番ね。すーはー、すーはー……」
魔術使いのカレンが深呼吸をし始めた。実は彼女、普段は活発に見えてユリム以上に緊張しがちなタイプなんだ。
「カレンさんなら大丈夫です。私でもいけたんですから……」
「そ、そりゃユリムは、緊張してても体は動くタイプだからいいけど、あたしはそうじゃないし……」
「カレン、そういうときは僕のダジャレを想像するんだっ」
「ル、ルエスったら、そんなの焼け石に水よ」
「ははっ、こりゃ重傷だねえ。ラウル君、何かいいアドバイスはないかい?」
「ん-……」
ルエスに話を振られて、俺はしばし考えたのち口を開いた。
「カレン、今はむしろ緊張するくらいのほうがいいと思う」
「え、えぇ? ラウル、それはどういうこと?」
「硬くなったら、あとは柔らかくなるだけだから。それに、緊張するってことはそれだけ集中力が上がるってことだから、魔術には良いほうに作用する」
「な、なるほど……。で、でもそれを聞くとなんか楽になった気がする。ありがと! そ、それじゃ、行ってくるわね……!」
足が縺れて何度か転びそうになりつつも、中央まで歩いていくカレン。見ていて若干危なっかしいが、彼女ならリーダーのルエスが出る幕もなくここで決めてくれるはずだ。
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