上 下
51 / 78

第51話

しおりを挟む

「……み、見事だよ、ラウル……。完璧のはずだった、新しい我が子まで手にかけようとしている……。けど、何がなんでも、命を懸けてでも……絶対に、このまま終わるわけにはいかない……」

「何……?」

 ハンスの台詞が纏わりつくように耳に残り、妙な胸騒ぎを覚えた直後だった。

『『『『『ウゴオオオオオォォッ!』』』』』

 ルエスが抱えていたゴーレム群の一部が、後方にいる『暗黒の戦士』パーティーのほうへ猛然と向かっていったのだ。

 これは……明らかにハンスが俺の性格を理解した上でやったことだ。今すぐ変異種の本体に対する攻撃をやめてダリアたちを助けなければ、どうなっても知らないぞと。

 しかも、向こうには眠った状態のクレスに加え、受付嬢のイリスもいる。ダリアたちの実力に疑いはないが、あの二人を守りながらまともに戦えるはずもない。

「この卑怯者が……!」

「フフッ、なんとでも言えばいいさ。戦場ではなんでもありだからねえ」

 俺は迷うことなく攻撃をやめてダリアたちのところへ向かう。ハンスの意図がわかった時点で全力で駆け出したものの、それでも追いつけるか不明なくらいギリギリのタイミングだった。

 頼む、どうか間に合ってくれ……。そう願いながら懸命に走るが、無情にも先にゴーレムたちはダリアたちのもとへ雪崩れ込もうとしていた。

「あっ……」

 視界が絶望に染まりかけたそのとき、黒い影が見えたと思った途端上空へ舞い上がっていき、その背中にはクレスとイリスの姿があった。

 変異種カラス……そうか。お前がいたんだった……。

「あ、ありがとう――」

『――人間よ、礼など不要だ! 今のうちに早くやつを倒せっ!』

「ああ、わかった! ダリア、セイン、リシャール、オズ、あとは頼む!」

「「「「ラジャー!」」」」

 俺は残ったゴーレムの処理を彼女たちに任せて踵を返すと、本体のもとへ駈け込むとともに怒涛の攻撃を再開する。

『ウゴオオオォッ……!』

「くっ……」

 以前に比べると手応えが明らかになくなっている。俺自体に変化はないが、一方的な攻撃を食らってから再生した時点でやつは深く学習してしまっているようだ。

「フフッ、ラウル。おかげさまで我が子にとっては良い経験になったよ……」

「…………」

 ハンスが一転して余裕の笑みを浮かべるのもわかるくらい、俺にとっては唇を噛みしめるほどにまずい状況だった。

 今からゴーレムを劣化させるにしても、もうそんな時間はない。変異種ゴーレムの進化の足音が刻一刻と近付いてくるのがわかる。だからすぐにでも倒さなければならないのに、やつは明らかにパワーアップしていて中々崩れない。

 それでも、心身の消耗は凄まじいが『治癒力強化魔法』で活性化エネルギーそのものを強化させたことで、ほんの少しずつだが再生能力に勝るくらい削ることができている。

 頼む……間に合ってくれ――

『――ウッ……ウゴオオオオオオッ!』

「なっ……!?」

 変異種ゴーレムが断末魔の悲鳴であるかのように吼えた瞬間だった。忽然とその姿を変えてしまったのだ。それも、今までのものとはまったく別物に……。

『…………』

「……お前、は……」

 俺の目の前にいたのは、表情といえるものが欠片もない一人の女性だった。

 感情のようなものを一切感じないが、モンスターというよりまるで人間そのものじゃないか。これが変異種ゴーレムの進化した姿だというのか……。

「……フ、フフッ……。勝った……。僕は遂にあのラウルに勝ったんだ……」

 ハンスが涙を浮かべながらいたく感激した様子で、おもむろにゴーレムの女性のもとへと歩み寄っていく。

『……お前は、誰だ……?』

「僕はね、君の飼い主のハンスさ。危ないところだったね……」

 ハンスが人型ゴーレムを優しく抱き寄せる。どうやら変異種カラスのように会話することが可能らしい。進化したことで知恵の部分も大幅に改善されたということだろうか。

「でも、こうして進化することができて、本当によかった――ごはっ……!?」

「…………」

 俺自身、声も出せないほどのことが起きてしまった。人型ゴーレムの右手が、主であるハンスの腹部を貫いたのだ。

「……ど、どうし、て……」

『…………』

 信じられないといった様子で倒れるハンスを尻目に、人型ゴーレムは無表情のまま俺のほうをちらっと一瞥してきたかと思うと、その姿をフッと消失させた。

『探知魔法』や『感知魔法』でも全然追えないくらい、完璧すぎる消え方だった。一体どうなったっていうんだ……って、今はとにかく錬金使いのハンスの治療をしないとまずい。このままでは間違いなく死んでしまう。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...