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第35話

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「「「「「なっ……!?」」」」」

 舞い上がる粉塵の中、取り囲んでいたゴーレム群が倒れ、驚きを隠せない『暗黒の戦士』のダリアたちと受付嬢のイリス。

 この上なく濁った視界がほんの少しずつ鮮明になっていくと、そこには大鎌を持った長身の影――死神のようなシルエットが浮かび上がっていた。

「そ、そこにいるのは死神か……? ってことは……も、もしかして、私たちはもう死んじまうっていうのか……!?」

「あ、あれは……ダリア姉さんの言う通り、魂を狩りにきた死神に見えるっす……。あの世って、あっしらには住みやすいものなんっすかねえ……?」

「……む、むうぅ。セイン、そんなこと言うなぁ……。自分、まだあの世なんて逝きたくないのに……」

「わ、わしもじゃ、リシャールよ。こう見えて、わしはまだピチピチの60代じゃというのに……」

「し、死神が参られたんですか? それなら、私たちは死んでしまうということですよね? ラ……ラウル様、ごめんなさい。もうお側で支えてあげられそうにないです。ぐすっ――」

「――こらこら。お前ら。妙な勘違いをするな」

「「「「「えっ……?」」」」」

 周囲の視界が完全にクリアになったとき、そこにいたのはリシャールに負けず劣らずの大鎌を持った一人の男だった。

「俺が死神じゃないのは理解できたようだな? まあそう呼ばれてた時期もあるが。しっかし、情けないねえ。パーティーで残ってるのはお前たちだけなんだろう?」

「な、なんなんだよ、あんたは……!?」

「あ、あんた、何者なんすか?」

「……誰……?」

「お、お前さんは、どこのどいつじゃ!?」

「……あ、あ、あなたは……」

「お、ようやく俺のことを知ってる人がいたかと思ったら……なーんだ、イリス嬢じゃねーか。久々だな」

「大鎌使いのクレス様……お久しぶりです! というか、もう引退されたのでは……!?」

「そのつもりだったんだけどなぁ。町がこんな状態になってるって聞いたから、仕方なく様子を見に来たってわけよ」

「それは凄く助かります!」

「っていうか、ほかの連中が話についていけねえみたいだから、軽く説明してやってくれ。俺はそういうの苦手なのよ」

「「「「……」」」」

「あっ……」

 呆然としているダリアたちに気付いたイリスは、我に返った様子で経緯を説明するものの、彼女たちは納得するどころか口をあんぐりと開けたままであった。

「――あれ? イリス嬢が折角説明してやったっていうのに、なんでこいつらはこうもぼんやりとしたままなんだ?」

「そ、そりゃそうですよ、クレス様。むしろもっと驚かれたかもしれません。だって、ラウル様のかつての相方《パートナー》だって知ったわけですから……」

「そうか……。ラウルのことを知ってるからなんだな。この分だと、またあいつが無自覚でとんでもねえことをやらかしてんだろ?」

「はい。化け物扱いされちゃってます……」

「そうだろうなあ。まあそういう俺もあいつの凄さを間近で嫌っていうほど見せられて、引退の遠因にもなったもんよ。俺はこう見えて、大の負けず嫌いなんでね……」

「……自分と、同じ……?」

「ん、お前もか。さすが、俺と同じ大鎌使いなだけあるね」

「……てか、あんたのこと、知らない……」

「おいおい、大先輩だぞ? ま、俺が暴れ回ってたのはかなり短い期間だったし、知られなくても当然か」

「そ、そんなことないですよ、クレス様っ。というか、リシャールさん。この方はですね、当時ラウル様とペアのパーティー『灰色の翼』でAランクまで昇格していたのですよ?」

「「「「ええぇっ……!?」」」」

 ダリアたちが目を見開くのも当然の話で、ペアでA級というのはギルド史上、その一組しか存在しないほどに珍しいことだったのだ。

「あの頃は、俺もラウルに負けまいとして、それで一気に成長できたってのもあるけどな……って、またしても湧いてきやがったか……」

『『『『『ウゴオォォォッ……』』』』』

 クレスが忌々し気に視線をやる先には、周囲を埋め尽くさんばかりのゴーレムの群れがあった。

「チキショー、また湧いてきたぜ! なあ、ラウルの相棒のクレスとやらに訊きたいんだけどよ、変異種ってこんなにも湧くもんなのか?」

「ん、お前たち。何か勘違いしてないか?」

「「「「「え……?」」」」」

「こいつらは、変異種は変異種でも、紛いもんだろうがよ……!」

『『『『『グゴォッ……』』』』』

 クレスの大鎌が不規則に煌めいた直後、同時に倒れるゴーレムたち。

「ふう。おそらく、この町のどこかに本物の変異種ゴーレムがいるはず――」

「――フフフッ。よくわかったねぇ」

「「「「「はっ……!?」」」」」

 そこに新たに出現したのは、ゴーレムではなく薄笑いを浮かべた一人の青年であった……。
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