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第32話
しおりを挟むゴーレムたちが町で暴れ始めた頃、冒険者ギルドでは緊急の会議がギルドマスターによって執り行われていた。
「とんでもない事態になってしまった……。我々の希望である『神々の申し子』も『聖域の守護者』も、今はクエストのために遠征中で不在だと聞く。至急呼び戻すよう手配したが、このままでは相当な被害が予想されるだろう。そこで、君たちから良い案があれば是非それを聞かせてもらいたい」
「良い案? ギルドマスター、そんなものはあるはずもなく、例のパーティーがいないのだから最早お手上げかと……」
「まったくもってその通りです、ギルドマスター。災害級モンスターを退治したあの『神々の申し子』がいないのだから、このまま滅んでしまうのを待つしかないでしょう!」
「ギルドマスター、それがしも同意見です。嗚呼、何故こんな大事なときに彼らがいないのだ……?」
ギルドマスターの意図と反し、会議室は『神々の申し子』の不在を嘆く声で溢れ返ることとなった。
「確かに、奇妙な話だ。最高峰のSS級パーティーなら、わざわざクエストのために山奥まで出かける必要などないだろうに」
「私が聞いた話によるとだな、彼らはクエストを立て続けに失敗してS級まで降格したらしいぞ」
「ということは、それで焦って山奥まで行ってしまったというわけか」
「それはなんという失態……。ギルドの至宝だとわかっていながらみすみす降格させてどうする!? 彼らはアンチェインなのだから、些細なミスくらい見逃してやれ!」
「そうだそうだ! 異常事態に備えて町に閉じ込めておけばよいのだ!」
「「「「「一体誰が降格させた……!?」」」」」
「……うぬぅ……」
ギルドマスターが悩まし気に頭を抱えるのも当然の流れで、会議室では変異種モンスターの対策案よりも『神々の申し子』を降格させた責任を問う声が次々と飛び始めたのだった。
「――も、申し訳ございません。その件については、私めが降格させたのでございます……」
席に座っていた一人がおずおずと立ち上がると、彼女に対して鋭い視線と野次が一気に注がれる。
「お前は……イザベラとかいう名前の受付嬢だったか。本当に余計なことをしてくれたな」
「まったく、けしからんやつめ!」
「このクズ女を今すぐ更迭しろ!」
「いや、その程度じゃ生温い!」
「そうだそうだ、最低でも監獄行きだろう! こやつのやらかしのせいで町が滅びるかもしれんのだからな!」
「ぐすっ……わかりました。今すぐ私めの職を解き、監獄行きに――」
「――待ってください! イザベラさんは何も悪くありません!」
そこで血相を変えながら立ち上がった者がいて、ギルドマスターがはっとした顔を見せる。
「誰かと思ったら……君はイリスじゃないか。そういえば、例の『神々の申し子』パーティーを長く担当していたそうだね。最近になって変えたようだが、何か知っているのか?」
「はい。ギルドマスター様。現在の『神々の申し子』パーティーにかつての力はありません。なのに自身の力を過信し、驕り高ぶっていたので私は担当を外れたのです」
「何。かつての力がないだと? それを証明することはできるのか?」
「できます。『神々の申し子』はそれまで破竹の勢いであったにもかかわらず、一人の治癒使いを追放してから立て続けにクエストを失敗しました。それこそが証拠です」
「その話は本当なのかね、イリス。では、その追放されたというたった一人の人物が、SS級パーティー一つ分の力を有していたというのか……?」
「そうなります」
「な、なんということだ……。それではまるで化け物同然ではないか。何故そのことを黙っていたのかね?」
「すみません、ギルドマスター様……。もしこのことが露見すれば、その冒険者様が人間として扱われなくなってしまう可能性も危惧したんです……」
「「「「「ザワッ……」」」」」
イリスの衝撃的発言により、会議室が俄かに色めき立つ。
「し、しかし、そのような大物が何故追放されるのですかな?」
「もしや、性格に問題があるのでは?」
「だとすると、放置するのは危険じゃないかね!?」
「下手したら国を滅ぼしかねんぞ――!」
「――ラウル様はそんな方じゃありません!」
「「「「「……」」」」」
イリスの叱責で黙り込むギルドの重鎮たち。
「あの方は、確かに化け物並みにお強い方ですが、心はとても温かい方です。ちょっと……というか、かなり鈍感で謙虚な方ではありますけど……」
何故か赤面する受付嬢の様子に、ギルドマスターが苦笑しつつもポンポンと手を叩く。
「まあまあ。色んな意見はあるかと思うが、現役の冒険者たちから慕われているイリスが言うのだから人間性に疑いはあるまい。それより、そのラウルとやらが戻ってくるまでなんとか持ちこたえねばな……」
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