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第28話
しおりを挟む治癒使いのウッドを新たにメンバーに加え、あれからエレイド山の麓に到着したバルドたち『神々の申し子』。
彼らは昼食も兼ね、そこで少し休憩を挟んでから山の奥へと歩き始めたのだが、モンスターが一匹も出現しないという奇妙な状態が続いていた。
「一体なんだというのだ……? ここはジャイアントレイブンとかいう大型のカラスが頻繁に出現すると聞いていたが、まったく遭遇しないとは……」
「バルド、本当に不思議ですね。不気味なくらいスイスイ進めます」
「……サックサク……」
「ふわぁ……。これって、あれっしょ? カラスたちも普段のおいらみたいに昼寝中じゃ?」
「「「……」」」
ウッドの台詞で微妙な空気になったものの、バルドたちはこれがチャンスとばかり前へ前へと進んでいくことに。
「――やはり出てこないな……。これはおそらく偶然などではない。カラスどもは相当に賢いというから、実質SS級の僕たちに恐れをなしたということだろう。フッ……」
「ふふっ。バルド、ようやくあなたらしくなってきましたね。これでこそリーダーですよ」
「フンッ。シェリー、わかればいいのだよ。さあ、張り切ってガンガン進むぞ!」
気を良くしたバルドが両手剣を高々と掲げ、『神々の申し子』パーティーはさらに勢いづいたかのように進んでいくが、それも長続きはしなかった。
「「「――ぜぇ、ぜえぇっ……」」」
彼らはモンスターと遭遇しないことで休まず獣道を歩き続けたがために、やがて疲れきった様子でその場に膝をつくことになったのだ。
「……も、もう歩けないだと? 妙だな。こんなことは今までなかったはずだが……」
「本当ですね。確かにずっと歩き続けていたとはいえ、ここまで疲れるなんて初めての経験です……」
「……もう、ヤダ。これ以上歩けない……」
「ふわぁ……。それってただ単にあんたらに体力がないだけじゃ? 確かにおいらも少しは疲れたけど、そんな風に倒れ込むほどじゃないよ」
「「「……」」」
治癒使いのウッドの言動で、その場の空気が険悪なものに変わる。
「なんだと? おいウッド、貴様如きが強がるのはよせ! わけのわからないことを言う暇があったらとっとと回復しろ!」
「そうですよ。ウッド、あなたはサボってばかりだから疲れてないだけでしょう」
「……そうよ、少しは回復してよ……」
「はぁ? サボってるのは否定しないけど、一応回復は時々入れてやってるけども?」
「「「えっ……?」」」
ウッドの言葉に対し、バルドたちは驚きの声を上げてお互いの顔を見合わせる。
「いや、全然回復してるようには感じなかったんだが……貴様、ふざけてるのか……?」
「そうですよ。追放した役立たずの前任者がいたときでさえ、こんな不便な思いはしませんでした。災害級モンスターと戦ったときも、疲労感すらありませんでしたしね。というか、治癒使いならそれが当たり前でしょう?」
「……ホント。バッカみたい……」
「…………」
バルドたちの不満の声を聞き、しばしあんぐりと口を開けるウッド。
「あ、あんたら、さっきから何バカなこと言ってるんだ?」
「「「へ?」」」
「おいらのサポートを受けつつ、歩き続ける程度のことでバテてるのに、災害級のモンスターと戦っても一切バテないって……。悪い冗談としか思えないね。ふわあぁ……」
眠そうに目を擦るウッドを見て、バルドたちが呆れた表情でヒソヒソと話し始める。
「こいつ……もしかしてラウルより無能なのか?」
「バルド、きっとあれですよ。サボっていたことの言い訳をしているだけで、一切回復行為なんてしていないのでしょう」
「……言い訳、格好悪い……」
「あ、おいらちょっと小便してきてもいいかな~?」
「おい、ちょっと待て!」
「うっ……?」
ウッドの胸ぐらを勢いよく掴んで凄むバルド。
「貴様、いい加減にしろ……。今は特別に許してやるが、あまりサボるようなら一人だけ置いていくからな」
「……そ、そりゃ怖い。ただ、おいらがいなくてもあんたらが進めるのか、逆に心配になっちゃうけども……」
「何か言ったか!?」
「なんにもないよ~。あ、漏れそう」
「チッ。とっとと済ませろ……!」
しばらくして、再び険しい山道を歩き始めるバルドたち。その額には玉のような汗が浮かんでいた。
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