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第13話

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 あくる日の朝。町全体が見下ろせる、小高い丘にある『聖域の守護者』のパーティー宿舎。

 俺はそこで三人のメンバーと顔を合わせていた。

 彼らと会うのはこれが初めてではない。『神々の申し子』に所属していた頃、何度も妨害合戦をした相手だからな。

 そんな因縁のあるパーティーのせいか、みんなの圧が強いので俺はとりあえず下手に出ることに。

「どうも、よろしくお願いします。俺は治癒使いの――」

「――ラウル君だね。よく知っているよ」

「…………」

 俺の自己紹介を遮ったのは、リーダーのルエスという盾使いの男だった。狩場ではいつも大きな盾を背中に担いでいるだけあって体格がよく、筋肉隆々だ。

「なんせ、あの忌々しい『神々の申し子』に所属していた一人だからね……」

 それに加えて殺気に満ちた眼光。今にも襲い掛かってきそうな迫力に俺は思わずたじろぐ。やはり、俺を呼びだしたのは懲らしめる目的か?

「ルエス……落ち着いてくださいです……」

 そんな彼を静かな口調で宥めたのが、メンバーの一人、片手剣使いのユリム。剣の技術ではシェリーに次ぐ実力とされる少女だ。

「そ、そうよ、ルエス。落ち着いてよ。折角あたしたちの目の前にあのラウルがいるんだから……」

 魔術使いのカレンが慌てた様子で止めに入る。彼女も俺の幼馴染であるエミルの次に魔術が強いとされてきた。

 これは、あれか。リーダーは俺を一気に片付けてやろうとしてるが、メンバーの少女たちは折角の獲物だからとじっくり甚振ろうとしてるのかもしれない。

 俺は息を呑みつつ戦闘になることを覚悟した。

「いや、興奮するのもしょうがないじゃないか、ユリム、カレン。だって、こんなにもが僕たちの目の前にいるのだから……!」

「えっ……?」

 だが、ルエスの口から飛び出したのは思いもよらない発言だった。凄い人材?

「そうですよね……。くすくす……。私たちがあんなに欲しかっていた人材が、すぐそこにいるんですもの……」

「ほ、本当よ。あたしだって、本物かどうかこの目で何度も確認しちゃったくらい」

「…………」

 なんだこれ。もしかして普通に歓迎されちゃってる? 油断させるためかもしれないが、今のところ意外すぎる展開だな……。

 こうなると、俺がライバルパーティーの一人ってことに意識が傾きすぎて、追放されたという事実を奇跡的に知らない可能性もある。

「ちょっといいかな? 俺、追放された身だけど、それでもいいなら……」

 あとで彼らがそれを知って気まずい空気になるのも嫌だし、一応伝えておくことにした。今知らなくてもどうせいずれ耳に入るんだし。

「ラウル君……僕をバカにしているのかい……?」

 ルエスがむっとした顔になる。

「あー、やっぱり知らなかったか――」

「――そんなの、当然知っているに決まってるだろう!?」

「えっ……それを知ってて、なんで俺を指名?」

「確かに、嫌な噂だ。仲間を守るだけでなく上を目指す以上、無能を雇うことはできるだけ避けたいからね。でも、賭けに出たんだ」

「賭け……?」

 ルエスが真顔で妙なことを言い出したかと思うと、ユリムとカレンが噴き出すように笑い始めた。なんだ?

「ラウルさん……。ルエスはですね……賭けごとが大好きなんです……」

「そうなの。ルエスったらギャンブラーなのよ。残念ながら、全然当たったためしはないけど……」

「ちょっ……ユリム、カレン! その情報は要らないって言っただろ!?」

「ははっ……」

 中々お茶目なところがあるようだ。

「コホンッ……。確かにギャンブルは好きだけど、勝算がない賭けをやるつもりはないよ」

「というと?」

「実は、僕の知り合いの中に『暗黒の戦士』のダリアたちがいてね」

「えっ……」

「先日、彼女たちにギルドで会ってラウル君のことを色々聞いたんだ。そしたら、人間離れした治癒使いだってみんな賞賛してたからこうして勧誘することにした。きっと、『神々の申し子』はラウル君の真価に気付いていないだけだと思ったんだよ」

「そうだったのか……」

 彼らと組んだことがまたしても活きたんだな。

「あのパーティー……問題児扱いされてますけど……嘘はつかない人たちです……」

「うんうん。ユリムの言う通りよ。まあちょっと短気なところもあるけど、正直者の集まりなのよね」

「そういうわけだ。正式に僕たちの仲間になってくれないかな?」

「うーん……ありがたいんだけど、いきなり実力派のパーティーに入るのはどうかと思うし、テストしてからにしてほしい」

「「「テスト?」」」

「入団テストだよ。そうしないと俺が納得できないから」

「「「な、なるほど……」」」

 自分が無能とまでは思わないが、実際に追放された身だからな。また同じことが起きないように実力を証明しておきたいんだ。
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