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第1話
しおりを挟む「フッ……。ラウル、僕の言うことをよーく聞くがいい。貴様をパーティーから追放する!」
「え?」
SS級パーティー『神々の申し子』の宿舎に戻った途端の出来事だった。
リーダーである両手剣使いのバルドに俺はそう宣告されてしまった。
「まあ、そういうわけだ。さよならだ」
「…………」
玄関前に立ったバルドが、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言う。
最初は冗談かと思うも、やがてバルドが苛立った様子になる。
「チッ、低能らしく理解が遅いな。聞こえなかったのか? 目障りだから、さっさとここから消えたまえ!」
「い、いや、待ってくれ、バルド。その前に理由が知りたい。俺がなんかやらかしたか?」
心当たりがないか考えてみたが、まったくそんな覚えはない。
「フン。そんなの決まっている。貴様がまったく使えないからだ。無能のカスの分際で開き直るな」
「む、無能?」
「そうだ、無能だ!」
俺が、無能……。
今までさぼってきたならともかく、自分はこのパーティーのために必死に頑張ってきたのに。
「いや、どう考えてもそれはおかしい!」
「いえ、おかしいのはどう見てもあなたですよ、ラウル」
「うぇっ?」
思わず素っ頓狂な声が飛び出してしまう。
一足先に帰還していた片手剣使いのシェリーから追い打ちをかけられたのだ。
「ここはあなたのような無能がいていい場所じゃないです。バルドの言う通り、早く消えてくださいな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。シェリー、どうしてお前まで急に、そんなこと……はぁ、はぁ……うぅ……」
あまりのショックに俺は過呼吸になり、思わず涙ぐんでしまう。
「プププッ。男が泣くとは、情けないやつだ」
「まったくです」
「可哀想だからもうそれくらいにしてあげて、バルド、シェリー」
「「「あっ……」」」
声の持ち主は、用事のためにあとから遅れてやってきた魔術使いのエミルだった。
エミルは俺の幼馴染で、昔から仲が良かったので安心した。
彼女ならきっとこの状況をなんとかしてくれるはずだ。
「エミル、聞いてくれ。酷いんだ。俺をいきなり追い出すとか言って……」
「うん、知ってた。酷いね」
「だろ。バルドとシェリーを説得してくれないか?」
「いあ、ラウル。酷いのはあんたのほうよ」
「え……?」
もう、わけがわからない。なんなんだこれ。
「無能のくせに、ずっとここに居座ってたじゃない。だから、それくらい言われて当然よね。これ以上叩かれる前に出て行って。これが幼馴染に対する最後の優しさよ」
「……う、嘘だろ、エミルまで……」
「はあ? それとも、バルドやシェリーだけじゃなく、あたしまであんたの悪口大会に参加してほしいの?」
「くっ……」
エミルにこの上なく鋭い目を向けられる。
バルドやシェリーが薄笑いを浮かべる中、俺は黙って下を向くことしかできなかった。
自分は本当に無能だったのか?
だが、俺たちのパーティーはここまで順調すぎるほど順調にきていた。
それが彼らの苦労の結晶なのはわかるが、俺だって治癒使いとして貢献してきたつもりだった。
治癒についての研究を怠ることは一日たりともなかったし、支援のために精神や肉体を活性化させる術も完璧にマスターしたんだ。
さらにそれは自身の戦闘においても応用できていた。なのに、何一つ理解されなかったというのか?
そのことは何度も何度も説明したはずなのに、無能扱いされるなんて。何故だ、一体どうしてなんだ……。
「ラウル、貴様如きに頼るくらいなら安いポーションを使うほうが遥かにマシだ。シェリーとエミルもそう思うだろう?」
「ええ、バルド、まったくその通りです。人件費も浮きますしねえ。それにラウルさん、あなたの治癒はなんというか、ばっちいから受けたくないです」
「うんうん、バルド、シェリー。あたしも賛成。てか、仲が良い振りはしてたけど、幼馴染だからって懐いてくるこいつが心底キモイって思ってたんだあ」
「…………」
まさか、これほどまでに嫌われていたとは。とどめを刺されてしまった気がした。
もうこれ以上、弁解する余裕も気力も残っていない。
「わかった、出ていくよ。それでいいんだろう」
「ん? こいつ、逆ギレしているが無能なのが悪いだけだろう。黙って出ていきたまえよ!」
「さっさと消えてくださいな」
「邪魔ー」
「……い、今まで、ありがとう、みんな……」
俺は悔しさをぐっと堪え、バルドたちに感謝の気持ちを伝えるのだった。
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