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第十話 本性
しおりを挟む倉庫の上部から、柔らかな朝の陽射しが舞い降りてくる。あれからまたしても一か月が過ぎた。
俺が教会で【錬金術】スキルを受け取ってから、約三か月目だ。ダムド王国のエリートが集まる学園の入学試験まではあと三か月を切っている。
試験に合格するためには最低でも2の魔力が必要なので、そういう意味では楽勝だ。
ただ、本編のスタート(今から三か月弱)まで近くなってきているので、ゲーム世界が本来の流れに戻すべく悪役のルードを始末しようと動いてくる可能性もある。そのため、なるべく魔力レベルを上げておきたい。
肝心の魔力レベルはというと、2.3まで上がった。
『スリーパー』という熟睡効果のテクニックを手に入れてからというもの、トレーニングは順調だった。ぐっすり寝られるだけじゃなく、疲労感のないすっきりとした朝を迎えられるようになったためだ。
どんなに劣悪な環境であっても、短い時間でも熟睡できるため、早寝早起きが可能になったのも大きい。
四六時中はさすがに言い過ぎだが、今までよりもずっと長く例の祠に籠ることができた。たまにはお休みになられてくださいってアイラに怒られたほどだ。
そこまでやったのに魔力レベル2から2.3は上がり幅が少ないって思われるかもしれないが、そもそも魔力レベルは上がれば上がるほど上がりにくくなるものなんだ。
あと、俺はここに来て致命的に足りないものがあることに気づいていた。それは何かっていったら、ずばり実戦訓練だ。
魔力レベルっていうのは、訓練もそうだが実際に戦うことによっても上がる。
これほどまで上がりにくくなるのは、この実戦をやっていないからっていうのも大きい。
訓練で魔力レベルが最も上がりやすい例の祠であっても、実戦をしてないと成長が止まるのである。
実戦といっても、弱い相手とばかり戦っても効能は薄い。強い相手と戦えば戦うほど魔力レベルも上がりやすくなる。
……そうだな。祠でトレーニングしてるアイラには悪いが、久々に彼女に留守番をしてもらって、魔物の棲む森へ出かけるのもいいのかもしれない。
ただ、いくら魔力レベルが高くなったとはいえ、魔物狩りに使えそうなテクニックが『インヴィジブルブレイド』くらいしかなさそうなのがなあ。
魔力レベル2.3になったということもあり、そろそろ『マテリアルチェンジ』で能力変換にチャレンジしてみるかな。
「みゃー」
「お、ユキじゃないか」
ユキっていうのは、数日前から倉庫の隙間から入ってくるようになった猫のことだ。真っ白なのでユキと名付けた。俺が喉を撫でてやると気持ちよさそうに目を瞑り、ゴロゴロと音を鳴らしながら甘えてきた。
この子はやたらと人懐っこいし、屋敷の飼い猫なんだろうか? 首輪はついてないが……。
ん、足音だ。誰かこっちへ来る。
「ユキ、向こう行ってて」
俺はユキを倉庫の外に逃す。やってきたのはおそらくクロードだろう。足音だけで誰かわかるようになったのも、魔力がそれだけ上がって刃のように研ぎ澄まされたってことだ。
「やあ、兄上。ご機嫌いかがかな?」
やはり、訪れてきたのは弟のクロードだった。最近、やたらと服の装飾が派手になってきている。こいつの家庭教師の女ヘラもそうだが、スキルを獲得したことで自信もついてきたらしい。大人びた表情といい、いよいよ俺に対してとどめを刺しにきそうな空気だ。
「これはこれは、よくぞいらっしゃいました。クロード様――ぐああああああっ!」
開口一番、俺は全身に痛みを感じて体を激しく仰け反らせた。強い光を帯びていることから、クロードに何かされたらしい。
名前:クロード・グラスデン
性別:男
年齢:15
魔力レベル:2.2
スキル:【白魔術】
テクニック:『ヒーリング』『セイクリッドライト』
『レインボーグラス』でやつの情報を確認すると、こんなメッセージがウィンドウに表示された。
なるほど、『セイクリッドライト』っていうので攻撃してきたっぽいな。調べてみると、聖なる光の環で痛めつけるテクニックなんだとか。
3か月で上がったのはたった0.2で、大したことのない数字だとわかる。おそらくヘラに手伝ってもらった上で、色んな魔物を倒してようやく上がったんだろう。それでも訓練量が足りないからこの程度。道理でそこまで痛くなかったわけだ。
なのに俺があそこまで大袈裟に反応したのは、自分の本当の能力がバレないようにするためでもある。
「フフッ……どう? 無能な兄上……ルードでも、この痛みによって僕のスキルがいかに強力かがわかるよね?」
「……ク、クロードォ……それをみんなの前でやったらどうだ……?」
「あははっ。一応、僕はこう見えて伯爵家の跡継ぎだからね。はしたないところは見せられないよ」
「はしたないのが本性のくせしてよく言う」
「……お仕置きがまだ足りてないようだね」
「うわああああああっ!」
再び戒めの光に包まれた俺は、白目を剥いて絶叫してみせた。もちろんこれも演技だ。
「僕が兄上をいじめるのが趣味だから、ここまで生かされている。それを感謝するべきなんだよ。ほら、早くお礼を言えよ、ゴミ」
「う」
頭に足を乗せられたかと思うと、ぐりぐりと踏みにじられた。
「ほらほら、早くありがとうって言いなよ。そうしなきゃ、もっと重い罰がやってくるよ……?」
「おやめください」
「「あ……」」
そこに現れたのは、メイドのアイラだった。その手にはトレイがあり、パンとティーカップが乗せられている。
「だ、誰だお前は!?」
「メイドですけど? 上の方に命じられて朝食をお持ちしただけです」
「くっ……お、お前、このことは誰にも言うなよ? 死にたくなければな!」
クロードが悔しそうな顔で引き上げていったので、溜飲が下がる思いだった。
「ありがとう、アイラ。でも、変装しなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫です、ルード様。ただメイドとしての仕事を果たしただけですし。それにしても、本当に嫌いです、ああいう人」
「……奇遇だな。俺もだ」
「でも、やり返さなかったので偉いです! 私が傷を見てあげますねえ……って!?」
「ん、どうした、アイラ?」
「あんなに攻撃されていたのに、傷が全然見当たらない……」
「ああ、そりゃ俺はクロードより魔力レベルが高いんだから当然だ」
「……既にあの人より高いなんて……ま、まさか、ルード様、やっぱり何か良くない儀式でも……たとえば、呪いとか……」
「い、いや、そんな怖い顔するなって! 呪いとか興味ないし、国賊になる気はさらさらない」
「それならよかったです!」
「……」
ドン引きしていたアイラが目を輝かせて一気に近づいてきたので、それも微妙に怖かった。
「とにかく、まだまだ牙を剥くつもりはない。やつらが集まって逆立ちしても勝てないくらい強くなって、そこからじわじわと真綿で首を絞めるが如く痛めつけてやるんだ」
おっと、ちょっと言い過ぎたかもしれない。
「ルード様……それは最高ですねっ!」
「……」
それはいいのか……。まあいいや。
「ところで、あの、ルード様……」
「ん?」
なんだ、アイラのやつ、モジモジしちゃって。
「どうしたんだ、アイラ? トイレか?」
「違います! もー、ルード様ったら……」
「ん。じゃあ、どうしたっていうんだ?」
「……ル、ルード様、一緒にお茶でも……」
「お、お茶っ……!?」
それはわかる。いくら女に無縁の生活を送ってきた俺でもわかるぞ。
これはおそらくデートのお誘いだ。でも、ただ単に冷やかされてる可能性もあるしなあ。どうするべきか……。
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