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25.からくり

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「――う……?」

 なんだ……何も見えない……って、そうか、俺はあのとき、二人組の男女にパン袋を被せられた上に殴られて気絶したんだ。

 まさか犯人が一般人に扮してるなんてな。まあよく考えたらありそうな手口とはいえ、あまりにも自然すぎた。あれはプロの犯行だ……。

 ズキズキと頭が痛む中、俺は縛られているのか自由が利かず、さらに揺れていることから馬車か何かに乗せられているのがわかった。

 頭痛がする上、吐き気もあって苦しいが今は我慢だ。自分はきっとこれから誘拐された人間が集まる場所に連れていかれるんだろうが、まとめて始末できるまたとないチャンスじゃないか。

 馬鹿め……まさか誘拐した相手が【魔王の右手】だとは犯人も夢にも思うまい。一体どういう連中なのかは知らないがいつでもかかってこい。誰だろうとこの俺が残さず片付けてやる……うぷっ。色んな意味で酔いそうだ……。

「――おい、着いたぞ、出ろ!」

「うぐっ!?」

 急に引っ張り出されたかと思うと、被っていたパン袋を取り外された。ま、眩しい……。

「なんだこいつ、爺さんじゃねえか」

「本当だ。でも肌はツヤツヤだぜ?」

「若い女の子ならよかったのによー」

「いえてら」

「「「「「ガハハッ!」」」」」

「……」

 なんだ、誘拐したやつらの声か? その割りには全然殺伐としてなくて、むしろ和気藹々としているように感じられる。妙だな、しかもロープを外されたぞ……。

 大分目が慣れてきて周りが見渡せるようになったわけだが、100人くらいが俺を取り囲んでて驚いた。一般人らしき者も散見するし、こいつら全員誘拐されたやつらっぽいな。なのに怯えてるどころか目を輝かせてるが、一体どういうことだ。洗脳でもされたのか……?

「――まあ、そう慌てるな、そこの新人。俺たちは何もしない。暴れるようなことをしなければな」

「えっ……」

 いかにも悪そうな頬傷の男がこっちまで歩み寄ってきた。近くにいるならず者っぽいやつらが一様に敬礼してるし、あの男こそが犯人グループのボスなんだろうな。

「彼らを見ろ。みんなお前と同じ俺たちに誘拐された被害者たちだが、今では同胞でもある。この意味がわかるか……?」

「被害者なのに同胞……? どういうことだ?」

「今から教えてやる。これでお前も俺たちの仲間だ」

 頬傷の男の口が綻ぶ。

「――というわけだ……」

「なっ……」

 なんと、この誘拐事件は元々、頬傷の男を含む犯人グループの自作自演で、仲間が誘拐されたように見せかけて虚構の誘拐事件をでっちあげていたという。

 なんでそんなことをしたかというと、ギルドの依頼のランクをどんどん上げていってSランクまで上げて、誰にも攻略できそうにないと判断された頃、ギルドの要請を受けた国が懸賞金をかけるからだそうだ。犯人を捕らえた者、あるいは誘拐された被害者を助けた者、彼らに賞金を与えよと。

 それが莫大なもので、これを考案した者たちが今まで連れ去った被害者たちにも分配するということで説得して仲間を増やしていったのだ。

 なるほど、よく考えたものだと感心する。連れ去られた者たちは、人数の暴力によって協力するしかなくなるからだ。どんどん味方が増えて多勢に無勢になるからである。なので、ランクが上がって腕に覚えのある者が助けにきてもミイラ取りがミイラになってしまう。

「まあ、しばらくここにいてもらうことにはなるが、それも国が本格的に動き出すまで辛抱するだけでいいってわけだ。もちろんお前も俺たちに協力するだろう?」

「……」

 タダより高いものはないという言葉があるように、旨い話ってやつには必ず裏があるもんだ。

 何より俺の召喚術があればこいつら犯人グループをまとめて始末できる上、報酬も独り占めできる。まだ莫大な懸賞金がかかってるわけじゃないが、貰えるかどうかもわからない架空の分配金よりもずっとマシになるだろう。そうと決まったらとっとと殲滅してやるか――

「――あ、あの方は……!」

 ん? 誰かが俺を指差してきた。なんだ……?

「間違いない! あの【魔王の右手】だっ!」

「「「「「ええぇっ!?」」」」」

「ま、まさかそんな凄いお方だったとは、とんだご無礼を……!」

「……」

 おいおい、頬傷の男たちを含めてみんな俺の前にひれ伏してるし、一転して倒しにくいムードになってしまった。【魔王の右手】っていうくらいだから悪の総統みたいな存在なんだろうししょうがないとは思うが、どうしたもんか――

「――そこまでだあっ!」

 まさに、虚を衝かれるとはこのことか。ほぼ全員が隙だらけの状況で、待ってましたとばかり大勢の中から一人だけ立ち上がり、バッタバッタとなぎ倒していく男がいた。あれは……上手く変装しているように見えるがどう見ても勇者マイザーじゃないか。

 なるほど、やつもこの依頼を引き受けたってわけか。しかし、マイザーはこの奇襲の仕方を見ればわかるがかなり慎重なタイプで、こういう危険な依頼に首を突っ込む性格じゃないのに意外なもんだな……。

 だが、残念だったな。俺は変装してる上、【魔王の右手】なんて異名をつけられてるわけで、さすがにお前が追放した男がここにいることには気づいてないか。お、あっという間に蹴散らしちゃったな。さすが勇者様だ。

「ふう……。さあ、悪の首領、【魔王の右手】、あとは君だけだ。それとも戦わずに降参するかい?」

「チッチッチ……」

「ん?」

「勝手に倒してくれてありがとうな。ご苦労さん。だが、この劇の主役はお前じゃない、この俺だ――」

『――ゴーンッ!』

「ぬぁっ……!?」

 俺は大きな鐘のモンスターを召喚していた。なるほど、そういうことかと思ったときには鐘が鳴り響き、マイザーが泡を吹いて倒れるところだった。大音量で気絶させたってわけだ。ちなみにこいつの鳴らした音は召喚した側には小さく、それ以外には何倍にも大きく聞こえるという特徴がある。

 っと、そうだ、勇者様の変装も解いておくか。こいつが失敗したことを世間に大々的にアピールしてやらないとな……。
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