22 / 30
22.酔い醒まし
しおりを挟む「うえっぷ……お前ら、大丈夫か……」
「ら、らいじょうぶっす、ディルのだんにゃ……」
「もぉ、リジェ飲めにゃいよぉっ……」
「わたくひもれふぅ……」
「あたひもらのぉー……」
みんなまだダウンしてないな。よく頑張った。【魔王の右手】と呼ばれる俺の直属の配下なだけある。あれからギルドで朝まで飲み明かしてしまったのでさすがに呂律が回らなくなってる様子だが。
お、外が明るくなってきたせいか、続々と活きの良さそうな冒険者たちが入ってきた。そろそろ俺もしっかりしないと舐められちまうな……ってことで、自分の頬を張ってキリッとした顔を作り出す。これでよし、と――
「――おい、あいつアレじゃねえか……?」
「あ……あいつは【魔王の右手】だ、間違いない!」
「何い!? あんなヒョロいのが!?」
「……」
なんだ、俺のほうを指差す冒険者グループがいて、そのうちの一人が両手の指をポキポキ鳴らしながらこっちに歩み寄ってきた。あの不敵な笑みから察すると、悪党として名を轟かせてる俺を見つけたことで腕試しをしようってわけか。面白い。こっちも酔い醒ましとして利用させてもらおう……。
「おい、そこの顎鬚」
「……ん、なんだ、俺に何か用か?」
白々しく顎鬚を掻きながら見上げてやると、男は何を思ったのか上着を脱ぎ始めて鍛え上げられた自慢の体を見せつけてきた。
「【魔王の右手】かなんか知らねーが、随分とヒョロい野郎じゃねえか。ワンパンで倒せそうだなあ?」
「まあそこは召喚術師なんだからしょうがないだろ?」
「あぁ? 召喚術師だぁ? この距離で魔法なんて唱えやがったら、俺だったらその隙に殴り殺してやるぜえぇ」
「はぁ……」
俺の高速詠唱なら、胸ぐら掴まれるくらいの距離でも間に合うんだけどなあ。もうスライム召喚から大分経ったし、冷却時間も消化済みだからいつでもいける。
てか相手にするのも面倒だし、ラルフたちがいつものように俺を褒め称えて、それで筋肉男がビビッて逃げ出すのを待ってたわけだが、みんなテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。朝まで耐えてたのに遂に限界が来ちゃったか。しょうがないなあ……。
「おい、杖なんか捨ててかかってこい! ほら、俺の頬をその枯れ枝みてえなヒョロヒョロの右手で殴ってみろ!【魔王の右手】さんよぉ!」
「「「ゲラゲラッ!」」」
こいつの仲間らしきやつらが後ろで腹を抱えながら笑い始めた。ここまで舐められた以上やるしかないだろう。
「ほら、これでいいんだろ?」
「「「「ヒューヒュー」」」」
俺がやつの望み通り杖を放り投げてやったら、下手な口笛で返された。どうせ挑発に乗って血迷ったんだと踏んだんだろうが、違う。これで詠唱速度や威力は少々落ちるが、こいつら程度ならまったく問題ないからだ。
「ほれほれっ、殴ってみろよ、カマ野郎っ」
「「「ギャハハッ!」」」
「……」
筋肉野郎が中腰になると、俺の目の前に間抜け顔を突き出してきた。煽る煽る。俺が殴ったあとワンパンで殴り倒す腹積もりなんだろうが、生憎俺はそんな素直な性格じゃないんでな。殴るにしても、少しだけ捻りを加えてやる。
「よーし、俺だってやってやる! 一発でノックダウンさせてやるから、見てろよー」
「「「「ププッ……」」」」
俺は右腕をグルグルと回し、なおかつ少し後ずさりして助走を取った。もうこの時点でやつらは頬を膨らませて噴き出しそうになってるのがわかる。まだだ、まだ笑うなという状態だろう。
「――あれ……旦那、どうしたっすか?」
「ディル様、どうしたのぉっ?」
「どうなされたのです、ディル様……?」
「ディル様ー?」
お、ラルフたちがちょうどいいタイミングで起きてきた。
「ちょっとな、ワンパンショーだ」
「「「「ワンパンショー!?」」」」
「そうそう。これから俺が一発でこいつを殴り倒すから、よく見てるんだ」
「「「「おおっ……!」」」」
みんなそれまで半開きの目だったのが、俺の台詞で一気に覚醒した様子。
「おいおい、舐めんじゃねえぞヒョロ髭、とっととやれっ!」
「「「そうだそうだ!」」」
一方、やつらはこっちのやり取りに苛立ったのか一転して顔真っ赤だ。
「悪かったな。じゃあ拳じゃなくて指一本でやっつけてやる」
「「「「えっ……?」」」」
やつらはきょとんとした顔になったあと、またしても頬を膨らませた。
「「「「クププッ……」」」」
よしよし、これでこそやっつけ甲斐があるというもの。舐めきった筋肉野郎の顔面に強烈な一撃をお見舞いしてやる……。
「食らえええぇぇぇっ!」
勢いよく人差し指を男の頬に当ててやると、やつはしばらく呆れた様子でポリポリと頬を掻き、額に青筋を浮かせた。
「……で、もう終わりか?」
「ああ、お前はもう終わっている」
実際、もう召喚術は完成しているのでこいつは終わる運命だ。
「おいヒョロ髭……お茶目な手段で許してもらおうって魂胆だろうが、甘すぎんだよクソがあああぁぁっ――あれ?」
筋肉男が猛然と俺に殴りかかってきたそのときだった。不自然にバランスを崩して横転し、テーブルに頭をぶつけてそのまま動かなくなった。
「「「……」」」
「「「「おおっ!」」」」
ならず者どもの沈黙とラルフたちの歓声が本当に心地よかった。しかし、俺は一体何を召喚したんだろうな……。
「あ……」
見ると、バナナの皮が置いてあった。なるほど、これで足を滑らせて倒れたってわけか。凄まじい勢いで殴りかかってきてたし、こんなんでも充分だったんだな。バレないようにとっとと回収しておこう……。
12
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~
カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。
「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」
魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜
妄想屋さん
ファンタジー
最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。
彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、
「このパーティを抜けたい」
と、申し出る。
しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。
なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる