15 / 30
15.中身
しおりを挟む
「――ここです……」
「「「「「こ、ここが……?」」」」」
すっかり周囲が暗くなる中、盗賊の男に案内されて向かった場所は、なんと都の中心部付近にある家だった。
レンガ造りの外観もお洒落で、とてもじゃないが盗賊のアジトには見えない。まさに灯台下暗しといったところか。さすがに室内は狭いんじゃないかと思ったが、全然広くて快適すぎる空間が横たわっていた。
「さては、盗んだものを売って購入したんだな?」
「いや、ここは僕が元々住んでたところで、盗みはあくまで趣味みたいなもんなんですよー」
「……」
いや、そんな爽やかな笑顔を見せつけられても……。まあよくよく考えてみれば、盗んだ品物を売りさばいてたらいずれ足がつきそうだもんな。なるほど、まったく捕まらなかったのはこういうからくりもあったからか。
しかし、家が裕福なのに趣味で盗みとは……なんとも悪いやつだ。悪びれる様子も一切ないし、こういうのを天然の悪っていうんだろうな。悪意のない泥棒が一番性質が悪いんだ。みんなも俺にチラチラと視線をやってることから、多分手痛いお仕置きを期待してるんだろう。まあそれについてはもう用意してあるから問題ない。
「あったあった、これが盗品の入った宝箱でして……」
家の奥にある部屋の中に、大きめの箱が置いてあった。思ってるような豪華そうなものじゃなくて、一見洋服でも入ってそうな普通の箱に見えた。こういうところも、客や友人とかが来ても怪しまれないようにっていう配慮か。抜け目ないな。
「ここに盗んだ手鏡が入ってるんだな?」
「はい。あのー、その前にこの宝箱、特殊な工夫がなされてて、普通の人には開けられないんですよ。だから、まずロープを解いてくれませんかね……?」
「……」
こいつ、逃げる気満々だな。よーし、脅してやるか。
「構わんが、もし逃げたら……今度こそ命はないぞ?」
「あはは、逃げませんよー」
盗賊はまったく怯まなかった。これはまずい。こいつの能天気な性格もあるだろうが、このままでは悪党としての威厳が損なわれてしまう……。
「あのな――」
「――おい、てめえ!」
「ひっ……」
お、ラルフのやつが詰め寄ったら盗賊の顔色が変わった。やっぱりこういうやつには遠回しにじゃなく、強面の男が直接的に脅したほうが効き目があるんだな。
「ディルの旦那は、こう見えて中身は超こええリーダーでねえ」
「え、ええ……?」
「そうだよぉ、ディル様を怒らせたら、生き埋めにされちゃうの……」
「そ、そんな、嘘だ……」
「くすくす、本当ですよぉ。だから、逃げようなんて思わないことです」
「う、うん……」
「ディル様、容赦ないから、もし逃げたらもっと酷い目に遭っちゃうかもー?」
「ひ、ひいぃ……」
「……」
おお、いいぞ、ラルフを筆頭にみんなが脅してくれたおかげか、盗賊が明らかにビクついてる。これなら自由にしても逃げようなんて思わないだろう。
「――ど、どうぞ!」
盗賊が宝箱を開けると、大人しく手鏡を手渡してきた。かなり古びたもので、赤い羽飾りもついてることからほぼ盗まれたものであることは間違いないだろう。
「さて、と……お前ら、わかってるな? 見たら目に毒だから、目を瞑っておけ」
「「「「っ!?」」」」
ラルフたちが一斉に強く目を閉じた。さすがにヤバイと思ったんだろう。
「な、何が始まるんです……?」
「何もしないからちょっと来い」
「え」
「早く」
俺は小声で盗賊を呼び寄せると、耳打ちした。
「この小袋を持って今すぐここから出ていくんだ」
「え……ええっ――もがっ……!?」
「大声を出すな。殺されたくなかったらな」
「……は、はぃ……」
「いいか、お前は自由の身になるか、あるいはここで残虐に殺されるか、どっちかを選ぶことになる」
「じ、自由の身にならせてもらいますっ……!」
盗賊がそそくさと出ていく。
「おし、目を開けていいぞ」
「「「「……」」」」
みんな目をぱちくりさせてる。盗賊が忽然といなくなったからだろうな。
「ディルの旦那、あの盗賊は……?」
「どこ行っちゃったのぉ?」
「どこでしょう……?」
「どこなのー?」
「それはな……無の世界だ」
「「「「ごくりっ……」」」」
「存在ごと消してやったから、もう会うことは二度とないだろう……」
「「「「……」」」」
ラルフたちはしばらく青い顔で震えていた。ちょっとやりすぎちゃったかもしれないが、俺の脱力系召喚術のことを考えるとこれくらいでいいんだ。あとは盗賊があの小袋の中身を見るだけで作戦終了だ。
◆◆◆
「――はぁ、はぁ……」
クローキングで颯爽と夜の町に飛び出した盗賊だったが、ふと我に返ったように立ち止まった。
(そういや、小袋の中身を見てないんだった。何が入ってるんだろ……?)
彼が小袋を開けると、その中には一枚の紙が入れられていた。
「手紙? 何々――ここからできるだけ遠くまで逃げてほしい。俺はサイコパスで気が変わりやすい。急に別人のようになって殺しにくるかもしれない。だから早く逃げてほしい……ひ、ひいいぃぃっ!」
見る見る青白い顔になった盗賊は、そのままいずこへと走り去っていくのだった……。
「「「「「こ、ここが……?」」」」」
すっかり周囲が暗くなる中、盗賊の男に案内されて向かった場所は、なんと都の中心部付近にある家だった。
レンガ造りの外観もお洒落で、とてもじゃないが盗賊のアジトには見えない。まさに灯台下暗しといったところか。さすがに室内は狭いんじゃないかと思ったが、全然広くて快適すぎる空間が横たわっていた。
「さては、盗んだものを売って購入したんだな?」
「いや、ここは僕が元々住んでたところで、盗みはあくまで趣味みたいなもんなんですよー」
「……」
いや、そんな爽やかな笑顔を見せつけられても……。まあよくよく考えてみれば、盗んだ品物を売りさばいてたらいずれ足がつきそうだもんな。なるほど、まったく捕まらなかったのはこういうからくりもあったからか。
しかし、家が裕福なのに趣味で盗みとは……なんとも悪いやつだ。悪びれる様子も一切ないし、こういうのを天然の悪っていうんだろうな。悪意のない泥棒が一番性質が悪いんだ。みんなも俺にチラチラと視線をやってることから、多分手痛いお仕置きを期待してるんだろう。まあそれについてはもう用意してあるから問題ない。
「あったあった、これが盗品の入った宝箱でして……」
家の奥にある部屋の中に、大きめの箱が置いてあった。思ってるような豪華そうなものじゃなくて、一見洋服でも入ってそうな普通の箱に見えた。こういうところも、客や友人とかが来ても怪しまれないようにっていう配慮か。抜け目ないな。
「ここに盗んだ手鏡が入ってるんだな?」
「はい。あのー、その前にこの宝箱、特殊な工夫がなされてて、普通の人には開けられないんですよ。だから、まずロープを解いてくれませんかね……?」
「……」
こいつ、逃げる気満々だな。よーし、脅してやるか。
「構わんが、もし逃げたら……今度こそ命はないぞ?」
「あはは、逃げませんよー」
盗賊はまったく怯まなかった。これはまずい。こいつの能天気な性格もあるだろうが、このままでは悪党としての威厳が損なわれてしまう……。
「あのな――」
「――おい、てめえ!」
「ひっ……」
お、ラルフのやつが詰め寄ったら盗賊の顔色が変わった。やっぱりこういうやつには遠回しにじゃなく、強面の男が直接的に脅したほうが効き目があるんだな。
「ディルの旦那は、こう見えて中身は超こええリーダーでねえ」
「え、ええ……?」
「そうだよぉ、ディル様を怒らせたら、生き埋めにされちゃうの……」
「そ、そんな、嘘だ……」
「くすくす、本当ですよぉ。だから、逃げようなんて思わないことです」
「う、うん……」
「ディル様、容赦ないから、もし逃げたらもっと酷い目に遭っちゃうかもー?」
「ひ、ひいぃ……」
「……」
おお、いいぞ、ラルフを筆頭にみんなが脅してくれたおかげか、盗賊が明らかにビクついてる。これなら自由にしても逃げようなんて思わないだろう。
「――ど、どうぞ!」
盗賊が宝箱を開けると、大人しく手鏡を手渡してきた。かなり古びたもので、赤い羽飾りもついてることからほぼ盗まれたものであることは間違いないだろう。
「さて、と……お前ら、わかってるな? 見たら目に毒だから、目を瞑っておけ」
「「「「っ!?」」」」
ラルフたちが一斉に強く目を閉じた。さすがにヤバイと思ったんだろう。
「な、何が始まるんです……?」
「何もしないからちょっと来い」
「え」
「早く」
俺は小声で盗賊を呼び寄せると、耳打ちした。
「この小袋を持って今すぐここから出ていくんだ」
「え……ええっ――もがっ……!?」
「大声を出すな。殺されたくなかったらな」
「……は、はぃ……」
「いいか、お前は自由の身になるか、あるいはここで残虐に殺されるか、どっちかを選ぶことになる」
「じ、自由の身にならせてもらいますっ……!」
盗賊がそそくさと出ていく。
「おし、目を開けていいぞ」
「「「「……」」」」
みんな目をぱちくりさせてる。盗賊が忽然といなくなったからだろうな。
「ディルの旦那、あの盗賊は……?」
「どこ行っちゃったのぉ?」
「どこでしょう……?」
「どこなのー?」
「それはな……無の世界だ」
「「「「ごくりっ……」」」」
「存在ごと消してやったから、もう会うことは二度とないだろう……」
「「「「……」」」」
ラルフたちはしばらく青い顔で震えていた。ちょっとやりすぎちゃったかもしれないが、俺の脱力系召喚術のことを考えるとこれくらいでいいんだ。あとは盗賊があの小袋の中身を見るだけで作戦終了だ。
◆◆◆
「――はぁ、はぁ……」
クローキングで颯爽と夜の町に飛び出した盗賊だったが、ふと我に返ったように立ち止まった。
(そういや、小袋の中身を見てないんだった。何が入ってるんだろ……?)
彼が小袋を開けると、その中には一枚の紙が入れられていた。
「手紙? 何々――ここからできるだけ遠くまで逃げてほしい。俺はサイコパスで気が変わりやすい。急に別人のようになって殺しにくるかもしれない。だから早く逃げてほしい……ひ、ひいいぃぃっ!」
見る見る青白い顔になった盗賊は、そのままいずこへと走り去っていくのだった……。
12
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜
妄想屋さん
ファンタジー
最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。
彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、
「このパーティを抜けたい」
と、申し出る。
しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。
なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

異世界に転生したもののトカゲでしたが、進化の実を食べて魔王になりました。
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
異世界に転生したのだけれど手違いでトカゲになっていた!しかし、女神に与えられた進化の実を食べて竜人になりました。
エブリスタと小説家になろうにも掲載しています。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる