勇者パーティーを追放された召喚術師、美少女揃いのパーティーに拾われて鬼神の如く崇められる。

名無し

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11.鬼

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 依頼主:ファルル

 取引場所と時間:ギルド内のロビー 午後7時頃にて

 依頼ランク:E

 報酬:銀貨3枚 銅貨2枚

 依頼内容:先日の夕方頃、都の北口付近にて、母の形見である赤い羽根飾りつきの手鏡を盗賊に奪われてしまいました。

 この周辺は神出鬼没の盗賊が出てくる可能性のある場所だと知っており、気をつけていただけに残念です。思い出が詰まった大事なものなので、是非捕まえて取り返してください。お願いします!

 ※期限は最大の一週間までとさせていただきますね。

「……」

 Eランクの依頼を探してて、俺の目に特に留まったものはこれだった。報酬は普通だが、形見の品を取り返してやりたいという気持ちが強い。

「よし、これにするか――」

「「「「――えっ……?」」」」

「あ……」

 そうだったそうだった、またしても俺が悪人だという設定を忘れてしまっていた。この依頼を受けるってことは悪人が正義の味方をするということで矛盾している。一度やると言ってしまった以上、どう言い訳をすればいいのか……。

「フッフッフ……」

「「「「ごくりっ……」」」」

 とりあえず笑っておく。こうすることでラルフたちは一体どんな邪悪なことを俺が言い出すのかと勝手に構えてくれるし、それだけ時間稼ぎにもなるからな。さあ今のうちに考えろ俺。俺は悪者なんだ。邪悪なる者としてこの依頼を受けた理由はなんだ? それを探せ……。

 ――あ……そうだ、あの手があった。

「都は俺の縄張りなんでな……。そんなところでほかの悪党に好き勝手されるのは気に入らんだけだ」

「「「「おおっ!」」」」

 ラルフたちが輝いた目を向けてくる。ま、まぶしい。まあそれくらい今の俺は邪悪に満ち溢れてるってことだろうな。

「ディルの旦那がイラつく気持ち、よくわかりやす……!」

「リゼも! ディル様からしてみたら、目の前で鼠にチョロつかれてる野良猫みたいな気持ちかもぉ?」

「うふふっ、リゼったら。ディル様は猫というより虎ですわよ……?」

「ふぇぇ……」

「あはっ、ルリアって上手いこと言うよね!」

「ハッハッハ! ふざけるな、俺は虎ではなく鬼だ……」

「「「「あわわ……」」」」

 みんな盛り上がってるし、上手くごまかせたようだ。さて、そうと決まったら準備するとしようか。早く依頼人が盗まれた形見の品を取り戻してあげないと……。



 ◆◆◆



「あなたが噂の、凄腕召喚術師のエルグマンだね」

「エルグマンさん、あなたの噂は聞いてるわ……!」

「あんた、鬼のようなすげえ魔力を持ってるんだってな!」

「フッ……これはこれは、エリート揃いの勇者パーティーの方々に拾ってもらえるとは、我は実に幸運だ……」

 冒険者ギルドのパーティー募集掲示板には、勇者パーティーに取り囲まれて涼し気な笑みを浮かべる男がいたが、勇者たちに握手を求められた途端、不機嫌そうに舌打ちした。

「相手が誰であろうと我は握手など求めない。何故なら他人の手は汚いからだ」

「「「えっ……?」」」

 勇者パーティーはいずれも呆然とした様子だったが、しばらくしてバイドンが見る見る顔を赤くしてエルグマンという召喚術師の男に詰め寄る。

「おい、そりゃいくらなんでも失礼だろうが!」

「ん……?」

「あ、いや、ちょっと待ってよバイドン」

「そ、そうよ、バイドン、握手くらい、いいじゃない。エルグマンさんって、個性的でいいと思うの!」

「そ、そうか……?」

 渋々といった表情で引き下がるバイドン。

「うむ、わかってくれたのならば問題あるまい。我は今まで底辺パーティーで頑張ってきたが、無能たちの元でやるのはもう疲れたから、今回は多少楽をさせてもらえると期待している」

「そ、それはそれは。僕たちもエルグマン、君の召喚術を期待してるよ」

「エルグマンさんの召喚術、楽しみ!」

「楽しみにしてるぜ、エルグマン!」

「フッ……我は適当にやらせてもらう。まあ精々頑張ってくれたまえ」

「「「……」」」

 新たな仲間となった召喚術師エルグマンのあまりの不遜な態度に、勇者マイザーたちの表情も沈むばかりだった……。
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