5 / 30
5.罪悪感
しおりを挟む「――あ……」
目覚めると、そこは朝陽が射し込む洞窟の中だった。正直、上手くいきすぎてたから夢なんじゃないかと思う気持ちもあったが、そうじゃなかったんだな。
「くー、くー……」
「……」
なんか可愛い寝息がすぐ近くから聞こえると思ったら、俺の隣でリゼが心地よさそうに寝ていた。おいおい、いくら幼女みたいだからって無防備すぎるな。まあだからって起こすのも野暮だしそっとしておいてやるか……。
「な、なんてことを……!」
「え……」
ラルフが入ってきたと思ったら、怒りの形相で迫ってきた。あー、さすがにまずいか、この状況は。仲間の女の子に俺が手を出したようにしか見えないだろうしな。言い訳しても、悪人だと言い切ってる以上おそらく信じてはもらえまい。
折角仲間になったのに喧嘩別れになるのは寂しいし、ほかのメンバーに対する罪悪感もあるが、一方的にやられるのも癪なので召喚術で蹴散らして逃げるとしよう……。
「リゼ、お前というやつはー!」
「ふわっ!?」
「……」
ラルフが怒鳴ったのは、俺じゃなくてリゼのほうだった。
「ここは今日からディルの旦那のためのベッドだってあれほど言ったっすよ!」
「うぅ……ごめんなしゃい、ディル様。ちょっとだけ隣で寝ようと思ったら、こんなことにぃ……」
「え、いや、別にかまわな――」
そこで俺ははっとなる。そうだ、自分は悪人っていう設定だったな。それは守らねば。
「「――別にかまわない……?」」
「ん、ああ、今日は機嫌がいいから別にかまわねえってことだよ、いちいち言わせんな」
「「おおっ!」」
ラルフとリゼが顔を見合わせて喜んでる。悪党でもないのに悪党を演じるというのはどうも違和感があるが、また舐められて追放されないためにも慣れておかないとな。
「次からは気をつけろよ!」
「へい!」
「うんっ!」
二人ともひざまずいてきた。悪い大臣にでもなったかのような、このなんともいえない感覚。ぞわぞわするな……。
「あら、ディル様、もう起きておられたのですねっ」
「ディル様、おはよー!」
お、ルリアとレニーもやってきた。俺は悪者らしく、獲物が来たかのように目を鋭く尖らせてみせる。
「今回はいきなりだったから驚いたが、最初からベッドを使うなら問題ない」
「「「「ええっ……?」」」」
ベッドがあるのはここだけみたいだし、俺だけ使うのもな。
「じゃあ、リゼ最初から使うー!」
「わ、わたくしも使わせていただきますわ……」
「あ、あたしもー!」
「い、いいんですかい? ディルの旦那が一人で使ったらいいのに……」
「いや、問題ない。なんせ全員、俺の女どもだからな。わははっ!」
「「「「……」」」」
うわ、俺の台詞を聞いてみんな唖然としてる。さすがに、いくら悪人とはいえまずかったか? 俺様然としすぎてドン引きされちゃったかもな……。
「いやー、よかったっす」
「え……?」
俺はラルフの言葉に耳を疑った。
「な、何がよかったんだ?」
「ディルの旦那、前のリーダーと違って潔癖症じゃないみたいで……」
「潔癖症?」
「へい、凄く横暴な人で、その上潔癖症でして、女の子が近付くのを極端に嫌がっておりやして……」
「な、なるほど……って!」
「「「うふふっ……」」」
気が付くと、俺のいるベッドにリゼ、ルリア、レニーが笑顔で座っていた。あまりのことに飛び上がりそうになるが、ここでそれをやってしまうと舐められる。今日から俺は変わるんだ、悪人なんだ……。
「おいおい、お前ら、それだけか?」
「ふぇえ?」
「あの、ディル様? それだけ、とはなんなのでしょう……?」
「なんなのー?」
「ご主人様には挨拶のハグが必要だろう!」
「「「あっ……!」」」
フッフッフ、これはさすがに横暴すぎて向こうがビビるだろう。新人がいきなりベッドの上で味方の少女たちにハグを強要だからな。悪人らしさがこれでもかと出ているはずだ。
「ぎゅーっ!」
「そ、それでは遠慮なくやらせていただきます……」
「ハグ、するね……」
「うっ……?」
俺の体が立て続けに彼女たちの体に包まれることになった。若干罪悪感はあるものの、悪人なんだから仕方ない。
「それでは、あっしも遠慮なく……」
「うっ……!?」
ラルフのガタイのいい体に抱き付かれて骨が軋むとともに痛みが走ったが、なんとか堪える。なんて馬鹿力だとは思うが、悪党がこれくらいで弱音を吐いてたらダメだ……。
23
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~
カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。
「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」
魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜
妄想屋さん
ファンタジー
最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。
彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、
「このパーティを抜けたい」
と、申し出る。
しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。
なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる