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4.居場所
しおりを挟む「こ、これは……」
俺が連れていかれたところはベッドのある部屋だった。壁にはタペストリーが飾られ、地面には絨毯も敷かれていて、一瞬ホテルの一室に迷い込んだんじゃないかと錯覚しそうになる。
「ここがディルの旦那の部屋になりやす。へへっ……」
「俺の……」
なんか妙に特別扱いされてないか? 俺はあくまでも新人で、しかも悪い噂だってある人間なのに。
「ねえねえ、ディル様っ」
「ん?」
幼女然とした女の子、確か……名前はリゼとかいったか。俺のローブの裾を掴んできた。
「リゼも一緒に寝てもいい?」
「えっ?」
「こらこら、ダメに決まってるだろ、リゼ!」
「そうですよ……」
「そうだよー」
「うー……」
「……」
みんなから拒否されてリゼは涙目だ。まあ見た目が幼いし俺が欲情するわけもないが、間違いがあっちゃいけないというみんなの心遣いだろう。
あと、多分だが俺の特別扱いは今日一日だけで、新人の優遇制度みたいなものがあるんじゃないかな。それなら遠慮せずゆっくり休ませてもらうとしよう。
「「「次はこっちへ!」」」
「えっ……」
また三人に背中を押された。今度はどこへ連れていかれるんだ? まさかとは思うが、この先に胸板の厚い毛むくじゃらな盗賊たちが待ち受けてるとか……。
「うっ……!?」
とある空間に入った途端、強烈な熱波が襲ってくる。しまった、やはりトラップだったか……。
「えへへ……ディル様、どうっ?」
「ディル様、どうでしょうか……」
「どんな気分なのぉ? ディル様ぁー」
「……き、気持ちいい……」
「「「でしょー」」」
熱いと思ったのは最初だけだった。これは天然のサウナなのか。さらに奥まで連れていかれて、そこは綺麗な水が湧きだしている場所であったり、横穴があって常に風が吹いている空間であったりと、生活するには充分な環境が整っているように感じた。
いつしか俺は、警戒心すら忘れて見入るようになっていた。これはまさに自然が作り出した至高のホテルだ。
「へへっ、ここの環境はどうっすか、ディルの旦那」
「……わ、悪くないな」
でも、盗賊団の仲間になるのはちょっと気が引けるなあ。ん、急にラルフに涙目でひざまずかれた。なんだ……?
「ディルの旦那の悪評、聞いておりやす。勇者パーティーを追放された相当な悪人だそうで。けど、あっしらはそれでもかまいやせん。前のリーダーも結構横暴な方だったんで慣れておりやす。なので、少しなら手を悪に染めても、ついていきやす……」
「ん、どういうことだ? ラルフたちは盗賊団じゃないのか?」
「「「「えっ……」」」」
ラルフを筆頭にみんな目を丸くしている。違ったのか……?
「あっしらはリーダーの召喚術師様に逃げられてしまいやして、これからどうしようかと途方に暮れておりやした次第で、残念ながら旦那の期待するような悪党じゃなく、普通の冒険者パーティーでありやす……」
「なるほど……」
みんな俺にがっかりされたと思ったのか沈痛そうな表情だ。まさか、額面通り俺のことを悪人だと信じ込んでいて、その上で誘ってきたのが普通の冒険者パーティーだったとは……。
「いや、別に俺は――」
いや、待てよ? 俺は自分が悪人じゃないと、本当のことを言おうとしてやめた。
この奇妙な状況、意外と利用できるかもしれない。俺の召喚術は滅法強いものの、脱力系という性質上どうしても舐められやすい。けど、悪人だって思われてるなら、バイアスがかかるからごまかせるんじゃないか? よし、そうしよう。
「――悪人ではあるが……暇だし、お前たちの仲間になってやってもいい」
「「「「おおっ!」」」」
みんな目を輝かせて顔を見合わせてる。まさか、悪人でも喜んで迎え入れる普通の冒険者パーティーがあるとは思わなかった。
それにしても、みんないい人そうなのに見捨てて逃げたっていう前のリーダーは一体どれだけヤバいやつだったんだろうな……。
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