上 下
57 / 57
第三章

57話 支援術士、報酬を貰う

しおりを挟む
「――グレイス、おかえりっ!」
「おかえりですわ、グレイスさん」
「グレイスどの、おかえりである……」
「グレイス様、おかえりなさいです」
「グレイス先生、おかえりなさいませぇぇっ……!」

【なんでも屋】の前に帰ってきて早々、俺はアルシュ、テリーゼ、ジレード、カシェ、ナタリアの5人に囲まれることとなった。

「……」

 歓声や拍手で迎えてくれた人たちもそうだが、みんなこうしてずっと俺の帰りを待ってくれてたんだと思うと感動する。

「ああ、みんな、ただいま――」

 俺は笑顔で応えるとともに、彼女たちに今までの経緯を簡単に説明することにした。

 牢屋の中で目覚めたはずが、城まで連れて行かれた挙句王様と謁見することになり、誰も見たことがないような治療を施したことに対する報酬として、話の終わりに《階位》を上げてもらったということも。

「「「「「わあ……」」」」」

 みんな俺の手の甲を見て感激してる様子。《騎士》の紋章が浮かび上がったからだろう。《庶民》だとそもそも何も浮かばないところだからな。

 王様の話によると、《階位》の低い【回復職】の治療を受けようとすることで周りから白い目で見られることもあり、それを気にして【なんでも屋】へ行けない者もいたと。だから是非受け取ってほしいんだそうだ。

 俺は最初から金品でなければ褒美を受けるつもりでいたが、それでさらに受け取りたいという気持ちが強くなった。

 あまり謙虚すぎるのも、周りには迷惑に感じられることがあるものだと気付かされる。その姿勢は素晴らしいが、ときには自分を出していく必要もあると王様は言っていた。どんなに優れた【回復職】であってもこの世は優しさだけでは渡れず、戦う必要もあるのだと。

 王様は自分に批判的な勢力に対して威厳を見せるため、心を殺して親しい部下にさえも罪を犯せば厳しく罰してきたというし、非常に納得できる重みのある言葉だったので、本当の意味での褒美はこっちの台詞のほうだとさえ思えた。

「――あ、あのう……」
「ん?」

 誰かに声をかけられたと思ったら、あの白装束の幼女だった。

「その、グレイスしゃま……わしはマニーという【治癒術士】の者でございまして。敵側ではありましたが、ルードの治療に感激して改心いたしましたので、わしにかけられた呪いも治していただけますじゃろうか……? 完全にではなくとも、ああいう感じで元に戻れることがあるならどれだけよいかと――」
「――ちょっと、あなたね! 罠を仕組んだ敵側のくせして、今更グレイスの有能さに脱帽して治してもらおうなんて恥ずかしくないの!?」
「アルシュの言う通りですわ。恥を知りなさい」
「うむ、まったくだ!」
「恥を知ってください……?」
「恥を知れえぇぇ……!」
「あ、あわわ……」

 アルシュたちに詰め寄られてマニーと名乗った幼女が涙目になってる。

「まあまあ、みんな、改心したって言ってるしそれくらいにしてやってくれ。マニー、素直に事情を話せば考えてやらんでもない」
「わ、わかりましたじゃ……」

 というわけでみんなに囲まれる中、マニーは終始びくびくした様子で語り始めた。

「――なるほど。俺に仕事を奪われたと思ったのか」
「お、お恥ずかしながら……」

 銅貨1枚で俺はほぼなんでも治してきたわけだが、自分と同じように治療院を開いてた者も当然いるわけで、そういう人たちが割を食らってた格好なんだな。

 一理あるし、この問題についてはよく考えていかなきゃいけないところだろう。それでも納得できない点もある。

「だが、治療時間は朝六時から正午までになってるし、それ以降に店を営業すればいいだけじゃ?」
「当時は、そうではございませんでしたので。さらに今では幼女の姿になって回復力が激減し、客も期待できぬという有様なのですじゃ……」
「そうか……それなら、治してやる代わりに、一つ条件がある」
「おおっ、じょ、条件とは……?」
「正午から夕方の六時まで【なんでも屋】で治療を受け継いでほしい」
「そ、それだけでいいのでございますか……?」
「ああ。衰弱した人を短時間で元気にするとか、【治癒術士】にしかできないこともあるからな。治療費もなるべく安くしてもらえると助かる」
「わ、わかりましたじゃ! ありがたいことですじゃ……」
「……あ、それと、お手伝いは既にいるんだが、を一人つけさせてもらう」
「はて? 助手とは一体……」

 マニーが充血した目をぱちくりさせた。



 ◇◇◇



「――これでよし、と。気分はどうじゃ?」
「あ、はい! すこぶるいいです! グレイス……いえっ、マニー先生、ありがとうございました!」

 治療が終わった患者が上機嫌の様子で帰っていく中、くたびれた顔で深い溜息を吐く【治癒術士】のマニー。椅子に座ったその姿は幼女ではなく、れっきとした老人の姿であった。

「ふう。この店は人気がありすぎて疲れるわい。こりゃ、ルード! メイドのナタリアが休んでる今、雑用係はお前しかおらんのじゃからとっととお茶を持ってこんかい!」
「わ、わかったよ、マニー。ブツブツ……」
「そこはマニー先生、じゃろうが! まったくもう!」
「なんか、マニー先生、以前と違って態度が凄く偉そう……」
「そりゃそうじゃ。なんせわしは、あのグレイスしゃまに店を丸ごと任されたのじゃからな! いわばナンバーツー的な存在じゃ。カッカッカ! ふう。仕事のあとのお茶は格別じゃわい。ズズッ……」

 ルードから紅茶を受け取り、美味しそうに飲み始めるマニーだったが、そこでドアがノックされて忌々し気に口元を歪めた。

「またしても客か。ならばわしにも考えがあるわい……」
「……あ、マニー先生、何を……」

 ルードが目を見開く。訪れてきた客をマニーが追い返したかと思うと、ドアの外に休業中の看板を立てたのだ。

「少しくらい別にいいじゃろ! 休憩じゃっ!」
「ダメだよ、マニー先生。そんなこと勝手にしちゃ、おで、許さねえ……」
「う、うるさい……ひっ!?」

 ルードが見る見るオーガの姿になり、天井に頭がつくほど変容したあとマニーが幼女の姿に戻る。

「し、しまった。あの椅子に座らない時間が長くなると幼女の姿に戻ってしまうんじゃった……って、やめろ、やめるんじゃ……!」
「おで、怒ってる。でも、傷つけない……遊ぶだけ、遊ぶだけっ。高い、高い……!」
「ひ、ひいぃっ……! わ、わかりましたじゃっ、真面目にやりますのじゃあぁぁ……!」

 ルードに軽々と持ち上げられ、見る見る顔を青くするマニー。

「――なんだいなんだい、人が気持ちよく眠ってるっていうのにうるさいねえぇ。ぶった切ってやろうかぁぁ……?」
「「あひいぃっ……!」」

 メイド兼【剣聖】のナタリアが不穏な様子で目覚めたことで、【なんでも屋】の店内はさらにカオスなことになるのだった……。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(23件)

A・l・m
2020.07.26 A・l・m

ほんの数分椅子を離れただけで幼女になるのではナニなので。。。

『わがまま』とか『ずる』とか『わるだくみ』とか?
(トイレ行けない、下手すると途中で(略))

名無し
2020.07.26 名無し

マニーの場合ルードと違ってガチ犯罪者だから割と厳しめにしたわけなんですよねw
ルードとナタリアに厳しく教育されたあとならそれくらい緩和してもいいかもしれませんね

解除
アルトルージュ

確かに幼女はかわいいと思うんだ。だけど…マニー、お前はダメだ。
中身がダメダメだ!

名無し
2020.06.30 名無し

腹黒系メインヒロイン誕生(マニー本人の中では)ですかねえ
しかも中身はお爺さんですけどw

解除
各務
2020.06.18 各務

あんまりざまぁ案件になっていない気がするので、はやめに手首事件が終わって欲しい

名無し
2020.06.18 名無し

長かった第二章ももうすぐ終わるのでご安心ください
すぐ第三章が始まりますが、第二章に比べるとコンパクトで
本来のざまぁ構成に戻る予定です

解除

あなたにおすすめの小説

全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 賢者オルドは、勇者パーティーの中でも単独で魔王を倒せるほど飛び抜けた力があったが、その強さゆえに勇者の嫉妬の対象になり、罠にかけられて王に対する不敬罪で追放処分となる。  オルドは様々なスキルをかけられて無力化されただけでなく、最愛の幼馴染や若さを奪われて自死さえもできない体にされたため絶望し、食われて死ぬべく魔物の巣である迷いの森へ向かう。  やがて一際強力な魔物と遭遇し死を覚悟するオルドだったが、思わぬ出会いがきっかけとなって被追放者の集落にたどりつき、人に関するすべてを【逆転】できるスキルを得るのだった。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

外れスキル【釣り】で大物が釣れた件。

名無し
ファンタジー
 冒険者志望のカレルは幼馴染たちとともに教会でスキルを授かるが、自分だけ外れ判定された上に仲間からも見捨てられてしまう。  ショックの余り自殺を試みたカレルは寸前のところで翼を持つ亜人の少女に助けられ、その無垢な優しさに触れていくうちに心を開き、【釣り】スキルによって状況を打開していくのだった。

幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し
ファンタジー
 主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。  彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。  片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。  リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。  実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。  リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。