52 / 57
第三章
52話 支援術士、矛盾を生む
しおりを挟むいよいよ治療が始まろうとする中、あれだけどよめいていた【なんでも屋】の店舗周辺が嘘のように静まり返っていた。
みんなわかってるな。オーガが巨体すぎて店の中へ入れないので外で治療を行うことになったわけだが、この感じは久々に味わうものだ。特に難しい治療対象だと、それだけ集中するのかみんな一斉に黙り込むんだ。
「グ、グレイスよ、あんたがいい人なのはわかったが、本当にいいのか……? やめるなら、今からでも遅くねえ。あんたみたいないい人を死なせてしまうくらいなら、おでは――」
「――だから、心配するな」
「う、うぐっ……」
涙を浮かべるオーガの男。
「お、おで、マニーとかいう、幼女の姿をした、けれども中身は老人のやつに……ブツブツ……」
「落ち着いて話してくれ。大丈夫だ」
「わ、わかった……。そのマニーってやつに、そそのかされたんだ。あんたがすげー悪いやつだって。おで自身も、この世が憎かったし、マニーには恩もあったから……」
「……なるほど」
あれは幼女の振りをしてたが、どう見てもただの子供じゃないしな。このオーガと同じように《罪人》として呪いの刻印を押されたからああなったわけだ。
「け、けど、あんたは処刑される覚悟でおでを治そうとしてくれてる……。こんなの、耐えられねえ。こんないい人を死なせてしまったら、おで、耐えられねえよ……」
「……そこまで思ってくれるだけで充分だよ。ありがとうな。あんた、名前は?」
「お、おではルードっていうんだ」
「ルードか。大丈夫だ、俺は死なないし、ルードも名前通り元の姿に戻る。何もかも上手くいく。そう信じろ」
「わ、わかった。信じる。おで、あんたを、グレイスを信じる……」
「ああ、信じてほしい」
自分だけでなく、患者や周囲の前向きな気持ちはそれだけ治療に役立つし、稀に奇跡を生み出すんだ。
……正直な話、この刻印は仮に奇跡が起きても治せない。テリーゼにかかっていた盲目の呪いは中位の呪いだからなんとかなったが、これは上位の呪いだからだ。なので到底治すことはできない、不可能といってもいい。だが、治す。治せないのに治す。一見矛盾してるが、可能なんだ。
何も、奇跡に賭けようってわけじゃない。俺には、自分でも信じられないような素晴らしいアイディアが生まれていたから……。
◇◇◇
(グレイス……お前が何を考えてるか知らねえし、妙に引っかかりも覚えるが、さすがに今度こそ終わりだ。ここから高みの見物をさせてもらうぜ……)
しばらくグレイスとオーガのほうを見つめていたガゼルだったが、やがてその視線はアルシュたち女性陣がいる方向へ自然に流れることになった。
(グレイスの野郎さえくたばれば、あの子たちがそのまま俺のものになるってわけだ。ククッ、こりゃ至高の土産物だぜ。もちろん、中でも最高の女は俺だけのアルシュなわけだが……)
「……」
アルシュの露出した臀部に鋭い視線を移し、喉をぐるりと動かすガゼル。
(相変わらずいいケツしてやがるぜ。どうせ奥手なグレイスとアルシュのことだからまだヤってねえだろうし、グレイスがいなくなったら俺が慰めてやるとしよう。ベッドの上で、たっぷりとな……)
「ガゼルさんや、さっきからそんなに嫌らしい顔して……まさか、わしに欲情したのですかな? あはんっ……」
マニーがニヤリと笑いつつ裾を上げ、幼い太腿をガゼルに見せつける。
「は、はあ!? ガキが色気なんか出すな! 鬱陶しいから引っ込んでろ!」
「うう……一応、これでも中の人は円熟しておりますのじゃが……」
◇◇◇
「あぅ、今、なんか変な視線を感じたようなぁ……」
困惑顔で周囲を見回すアルシュ。
「どうせ変態さんでしょう。アルシュもそんな恰好をするからですわ」
テリーゼが呆れ顔で呟く。
「うー。ローブ羽織ってくればよかった……」
「ところで、アルシュはなんでそのような格好なのだ?」
「あたしも気になるねぇ」
「そ、それはっ……グレイスのためだもん。でも、私がお子様体型だからか、あんまりぐっとこないらしくて……」
ジレードとナタリアに対し、アルシュが苦笑を浮かべてみせる。
「それでは、男の方が特に注目するという胸の部分が足りないんでしょうかぁ?」
無邪気な笑顔でさらりと言ってのけるカシェ。
「「「「……」」」」
その一言をきっかけにして、アルシュ、テリーゼ、ジレード、ナタリアの四人はしばらく黙り込んで自身の胸を見つめるのだった。
11
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる