勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

45話 支援術士、狂気を治す

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「グレイスー!」
「グレイスさん……!」
「グレイスどの!」
「グレイス様っ……!」

 決闘が終わったと思ったのか、アルシュたちが声を弾ませながら俺の元に駆けつけてくる。

 このタイミングの絶妙さを考えると、多分どこかでこの戦いを固唾を飲んで見守ってくれてたんだろうな。どんなに小さな声だとしても、背中に後押しがあるとないのでは全然違うし、かなり心強いもんだ。

「アルシュ、テリーゼ、ジレード、カシェ……ありがとうって言いたいけど、まだ戦いは終わってないんだ」
「「「「え?」」」」

 確かに一区切りはついたが、戦いはまだまだこれからだといっていい。俺は好戦的な視線を眼帯少女のほうに投げつけると、彼女は呼応するかのようにおもむろに上体を起こし、ほんのりと薄く笑ってみせた。

「ふふっ、負けたよ……。さあ、【支援術士】のグレイス。憎い憎いあたしを痛めつけてから殺しなっ。なんせあたしは、手首切断事件の真犯人、【剣聖】のナタリアで、あんたに罪を擦りつけた張本人なんだからねっ!」
「……」

 ナタリアが髪を振り乱しながら高々と叫んだことで、周囲がざわめき始める。

 彼女は自分の思うような結果を出せなかったことで、さらに自分を追い詰めて逃げ場をなくそうっていう腹積もりなんだろう。闇に堕ちた者が好んでやりそうな手口だが、それこそ治療のし甲斐があるというもの……。

「ふう。これですっきりしたよ。ん、感じる……。何度も何度も味わってきた、あたしを許せない、消したい、捻り潰してやりたいっていうみんなの負の感情を……。浴び慣れたものだから、心地よささえ感じるのさ。グレイス……いいかい? これでもかっていうくらい弄り殺しにしておくれよ。そりゃもう最高の気持ちよさを堪能させてあげるよ。負けたやつに人権なんて欠片もありゃしないんだからね」
「……」
「何さっきから黙って突っ立ってんだい、グレイス。早くしておくれよ。それに、あんただってあたしを壊しに来たんでしょ。それを待ってたんだよ。見栄なんか張らなくたってわかるんだから。何が、みんなに人気のある人格のいい【なんでも屋】さ」
「……」
「仮にそうだったとして、そんなにいい人を証拠もなしに疑ってたのはどこのどいつだい? あんたの大事にしてる客だろうが。人間の本性なんてそんなもんなんだよ。あたしはぜーんぶ知ってるんだから。みんな最初は人の好さそうな面して近付いてきておきながら、すぐにあたしの前からいなくなる、侮る、みくびる……。さあ、もう何もかも終わったんだから、早くあたしをぶっ壊しておくれ……」
「いや、ナタリア。俺はお前を壊しにきたんじゃなく、救いにきた。だから何も終わってなんかいないし、ここからが本番だ」
「は、はあ……?」

 よっぽど意外だったのか、【剣聖】のナタリアがあんぐりと口を開いて素っ頓狂な声を上げる。心の底から、闇しか見えてないのでびっくりしたんだろう。早く治してあげたい。本当に、患者としては最高の反応だ。

「ま、まさか、隻眼を治すんじゃないだろうね。これはあたしのお気に入りなんだから、ダメだよ」
「いや、そこじゃない」

 俺は彼女に向かって手を差し伸べると、笑顔を浮かべてみせた。

「いい戦いだった、楽しかったよ。もう戦友だ」
「えっ……? こ……ここまでのことをしでかしたあたしを許そうっていうのかい……? どうせ、上げて落とす感じで騙し打ちする気なんだろうけどさ……いくらなんでも、そりゃクレイジーだよ、あんた……」
「知ってるか?【回復職】の世界では、許すっていう言葉は回復するっていう意味合いもあるんだ」
「……」

 今度は彼女が黙る番が来たようだ。

「俺はもう、何も思っちゃいない。それがナタリアが今まで俺にやってきたことに対する答えだ。正直な話、今までのことはいい訓練になったよ。さあ、立ってくれ。これからはもう友達だ」
「……あ、あんた……おかしい、よ。なんで許せるんだい。変だよ……」
「ナタリアに言われるってことは相当なんだな。あれだ、毒を以て毒を制すってやつだ」

 眼帯少女は何か言葉を口にしてるようだったが、声にならない様子だった。ただ、俺の手を握ったとき、隻眼から流れた一筋の涙が狂気を溶かし、闇をも照らしていることだけは理解できた。

 それからまもなく、さっきまでナタリアに対して怒号さえ上がっていたのが、いつしか歓声や拍手に変わっていることに気付いた……。
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