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第二章
44話 支援術士、楽しくなる
しおりを挟む「「「「……」」」」
アルシュのグレイスに関する思い出話も終わり、再び決闘に注目するテリーゼたち。
「くっ! グレイスどのは防戦一方。このままでは、やられてしまうのは時間の問題だ……」
一人歯軋りして悔しがるジレードだったが、ほかの三人は黙々と冷静に見守っている様子であった。
「テリーゼ様、このままでいいのですか!? 無理矢理にでも止めるべきです! 最早、真犯人は誰なのか、目に見えて明らかになっているわけですから!」
「いえ、その必要はありませんわ」
「え?」
極めて落ち着いたテリーゼの口調に目を丸くするジレード。
「悔しいですが、アルシュの言う通りでした。グレイスさんはわたくしたちが心配するほど弱いお方ではなかったのですわ」
「し、しかし、自分にはグレイスどのがナタリアに一方的に押されて、逃げ回っているようにしか……」
「あの……ジレード、私にも言わせてください。グレイス様は逃げているのではありません。最早ナタリアの攻撃を見切っているのです」
「え、ええっ。カシェ様まで……」
「ほら、ジレードさん、私の言った通りでしょ。よく見て、グレイスが笑ってる……」
「あ……」
アルシュに促されるまま方向を変えたジレードの視線の先には、ナタリアの猛攻を受けながらも楽し気に笑っているグレイスの姿があった。
◇◇◇
「わかったんだよ、もう――」
「――あ、あんた、もしかしてバカなのかい!? それかっ、敗色濃厚だからって、頭イカれちまったんじゃないのっ……!」
眼帯少女ナタリアの攻撃が苛烈さを増す中でも、俺は一つ一つ丁寧にかわすことができていた。力みがないゆえに伸びてくるように錯覚して見える、その原理さえわかればもうどうってことはない。
それが判明するまでにも、無駄なことなんて一つもないってことで、彼女の剣の軌道をいちいち観察していた。避けるときにどういった動き方をすればより効果的なのか、事細かく計算していたんだ。さらに自身のまずい動きなどを修正する矯正術を付け加えれば隙がなくなる。
「ここからは俺の番だ」
「たわけえぇぇっ!」
力みのない剣術に対応するには、なるべく見ないようにするのも手だが、それだと俺が剣の達人ならともかくそうじゃないので危ない。なので錯覚そのものに対して回復術の一つ、精神安定術を使う。これは幻覚はもちろん、錯覚にも効くもので、むしろ錯覚のような現象ともいえる軽い症状は俺にとってうってつけの治療対象になりうるんだ。
「当たれ、当たれっ……! 詐欺師、死ねえぇぇっ……!」
「……」
錯覚が消えたことで、ナタリアの限りなく力感のない、寸前で伸びてくる驚異的な攻撃にも、俺の目が張り付いているかのように容易に追い付くようになっていた。こうなると最早苦痛よりも面白いとさえ感じるようになる。
攻撃を見切っていることが相手にも伝わるのか、徐々に力みも感じるようになってきた。これぞ俺にしてみたら正の連鎖ってやつで、それだけ焦りが生じて動きが悪くなってるんだ。【支援術士】としては思わず矯正術をかけてやりたくなるくらいだが、今までギリギリの状態で戦ってきたしそこまでの余裕はない。
「――っ!?」
俺はただ単純に剣を軽く振り下ろしただけだったが、それがナタリアの肩に命中した。
「うごおおぉっ……!」
苦し気に横たわる眼帯少女。隙あり、だ。もうしばらく呼吸すらろくにできまい。
凄まじいスピードは相変わらずだったが、力みからか攻撃パターンが段々同じになってきたから、避けるだけでなく反撃するチャンスも生まれたんだ。焦らなければ膠着状態が続いたと思われるだけに、相手が墓穴を掘った格好なわけだ。
「――う……うあああぁぁぁっ!」
どよめきの中ナタリアが立ち上がり、狂ったように叫びつつ何度も飛び掛かってくるが、そのたびに俺は払いのけてやった。
「……もうやめとけ。力みが多くなってきている……というか、力みしかない。今までと違って動きが悪すぎて、全部直してやりたいくらいだ」
「……う、う……うぐぐっ……!」
ナタリアが剣を落としてその場にうずくまり、派手に髪を撒き散らす格好になった。一瞬の静寂のあと、耳がおかしくなりそうなほどの大歓声が沸き起こる。それとは反比例してあれだけぶつかってきた殺気もピタリと収まったし、どうやら一区切りついたようだ……。
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