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第二章

43話 支援術士、突破口を見出す

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「ほらほら、どうしたんだい、詐欺師っ」
「くっ……」

 防戦一方でも、しばらく我慢すればナタリアが疲れてくるんじゃないか……そうした期待がいとも容易く萎れるほど、彼女の猛攻は衰えることを知らず、俺は相変わらず間一髪で避けるのに精一杯だった。

 それどころか、むしろどんどん動きがよくなってるんじゃないかと思えるレベルだ。

 隙がない上、とにかくスピード感に溢れていて全身凶器のようにすら感じるので近付くことすら至難の業という、最早どうしようもない状況。攻撃は最大の防御というが、彼女がやってるのはまさにそれだ。

 当初の予定では、自分が【支援術士】であることを生かし、相手が疲れてくるのを待ってそれから少しずつ攻勢をかけるつもりでいたが、逆にこっちが体力だけでなく精神面でも追い詰められ始めている。誤算が誤算を生むという負の連鎖が起きてしまってるというわけだ。

 それに、避けたはずなのに避けられずに左の手首を落とされていることから、自分から攻めるという選択肢はとっくに消えてしまっているし、対策が見当たらない以上、我慢し続けるのは苦しいが慎重にならざるを得ない。

 ただ、避けながらも心は相手に向かっていかなきゃいけない。前向きな心を失うことは【回復職】としての死を意味するからだ。

 俺はやれる、絶対に上手くいく、成功する。このナタリアという少女を狂気という闇の中から救い出すことができる……。

「そんな逃げ腰じゃ、絶対勝てやしないよ。ビビッてないでとっととかかってきなってんだよっ……!」
「……」

 ナタリアのやつ、戦いが始まってからずっと攻めっぱなしだっていうのに、挑発までしてくる余裕が一体どこから出てくるっていうんだ。

 俺ですら、避けてるだけとはいえ回復術を使ってなんとか持ち堪えてるっていうのに。まさか、無尽蔵の体力を持ってるっていうのか……?

 いや、そんな化け物みたいな人間がいるわけない――

「――はっ……」

 そのとき、俺はようやくわかった。あのときナタリアの攻撃を避けられなかった理由が……。突破口となったのは、彼女が何故こうも休みらしい休みもなく、執拗に攻勢をかけられるかということだった。

 その答えは、至って力感のないナタリアのフォームにあったのだ。

 一見、不気味でだらしなく感じる姿勢だし、実際にほとんど力を入れてる場面なんてないと思うが、だからこそ休みなくずっと攻撃を仕掛けられるし、緩慢な動作から斬撃する瞬間に力を入れるだけで、錯覚が生じて見た目よりもずっと速く、伸びているように見えるんだ。

 つまり、最初はわざと力みを少し入れていて、本気を出すと宣言したことでそれを抜いた格好なんじゃないか。それでスピードがあまり変わらないように感じたんだ。

 これほどまでに力感を削ぎ落とした剣術は初めてだ。また、彼女は気配を読む力も抜群に長けていて、項垂れているのは相手に一種の異様さを与えて戦意を挫くためでもあるだろうが、視界に頼らないことで余計な力みというものを最大限に消しているのだ。

 どうしても相手を見てしまうと力んでしまうものだから、視界に頼らなくてもいいというのは至って合理的なのかもしれない。

「――わかった……」
「……はあ?」

 ナタリアの怪訝そうな声が心地いい。これからようやく俺の反撃が始まる。

「もうわかった……」
「一体何がわかったっていうのさ。あたしに勝てないのがわかったとでもいうつもりかい……?」
「いや、ナタリア、お前の動きが全部わかった」



 ◇◇◇



「――と、こういうわけだったの……」

 グレイスがナタリアの猛攻をなんとか凌ぐ苦境が続く中、アルシュが幼少の頃の思い出を楽し気にテリーゼたちに語っていた。

「えええっ? あのグレイスどのが?」
「意外ですわねぇ」
「本当です……」
「あとね、グレイスったら、小さいときは今と違ってやんちゃだったから、私のために果物を取るって言って頑張って木登りしてくれたのはいいんだけど、果物を落としてくれたあと、いつの間にか枝の上で寝ちゃってて……」
「それは……ある意味豪胆というか……」
「よっぽど疲れていたのでしょうけれど、寝る場所が問題ですわねぇ」
「くすくす、面白い方……」
「それと、もう一つ、グレイスにはとっておきの秘密があって……」
「「「おおっ……」」」

 グレイスに関するアルシュの思い出話は大いに盛り上がり、しばらくの間尽きることはなかった。
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