43 / 57
第二章
43話 支援術士、突破口を見出す
しおりを挟む「ほらほら、どうしたんだい、詐欺師っ」
「くっ……」
防戦一方でも、しばらく我慢すればナタリアが疲れてくるんじゃないか……そうした期待がいとも容易く萎れるほど、彼女の猛攻は衰えることを知らず、俺は相変わらず間一髪で避けるのに精一杯だった。
それどころか、むしろどんどん動きがよくなってるんじゃないかと思えるレベルだ。
隙がない上、とにかくスピード感に溢れていて全身凶器のようにすら感じるので近付くことすら至難の業という、最早どうしようもない状況。攻撃は最大の防御というが、彼女がやってるのはまさにそれだ。
当初の予定では、自分が【支援術士】であることを生かし、相手が疲れてくるのを待ってそれから少しずつ攻勢をかけるつもりでいたが、逆にこっちが体力だけでなく精神面でも追い詰められ始めている。誤算が誤算を生むという負の連鎖が起きてしまってるというわけだ。
それに、避けたはずなのに避けられずに左の手首を落とされていることから、自分から攻めるという選択肢はとっくに消えてしまっているし、対策が見当たらない以上、我慢し続けるのは苦しいが慎重にならざるを得ない。
ただ、避けながらも心は相手に向かっていかなきゃいけない。前向きな心を失うことは【回復職】としての死を意味するからだ。
俺はやれる、絶対に上手くいく、成功する。このナタリアという少女を狂気という闇の中から救い出すことができる……。
「そんな逃げ腰じゃ、絶対勝てやしないよ。ビビッてないでとっととかかってきなってんだよっ……!」
「……」
ナタリアのやつ、戦いが始まってからずっと攻めっぱなしだっていうのに、挑発までしてくる余裕が一体どこから出てくるっていうんだ。
俺ですら、避けてるだけとはいえ回復術を使ってなんとか持ち堪えてるっていうのに。まさか、無尽蔵の体力を持ってるっていうのか……?
いや、そんな化け物みたいな人間がいるわけない――
「――はっ……」
そのとき、俺はようやくわかった。あのときナタリアの攻撃を避けられなかった理由が……。突破口となったのは、彼女が何故こうも休みらしい休みもなく、執拗に攻勢をかけられるかということだった。
その答えは、至って力感のないナタリアのフォームにあったのだ。
一見、不気味でだらしなく感じる姿勢だし、実際にほとんど力を入れてる場面なんてないと思うが、だからこそ休みなくずっと攻撃を仕掛けられるし、緩慢な動作から斬撃する瞬間に力を入れるだけで、錯覚が生じて見た目よりもずっと速く、伸びているように見えるんだ。
つまり、最初はわざと力みを少し入れていて、本気を出すと宣言したことでそれを抜いた格好なんじゃないか。それでスピードがあまり変わらないように感じたんだ。
これほどまでに力感を削ぎ落とした剣術は初めてだ。また、彼女は気配を読む力も抜群に長けていて、項垂れているのは相手に一種の異様さを与えて戦意を挫くためでもあるだろうが、視界に頼らないことで余計な力みというものを最大限に消しているのだ。
どうしても相手を見てしまうと力んでしまうものだから、視界に頼らなくてもいいというのは至って合理的なのかもしれない。
「――わかった……」
「……はあ?」
ナタリアの怪訝そうな声が心地いい。これからようやく俺の反撃が始まる。
「もうわかった……」
「一体何がわかったっていうのさ。あたしに勝てないのがわかったとでもいうつもりかい……?」
「いや、ナタリア、お前の動きが全部わかった」
◇◇◇
「――と、こういうわけだったの……」
グレイスがナタリアの猛攻をなんとか凌ぐ苦境が続く中、アルシュが幼少の頃の思い出を楽し気にテリーゼたちに語っていた。
「えええっ? あのグレイスどのが?」
「意外ですわねぇ」
「本当です……」
「あとね、グレイスったら、小さいときは今と違ってやんちゃだったから、私のために果物を取るって言って頑張って木登りしてくれたのはいいんだけど、果物を落としてくれたあと、いつの間にか枝の上で寝ちゃってて……」
「それは……ある意味豪胆というか……」
「よっぽど疲れていたのでしょうけれど、寝る場所が問題ですわねぇ」
「くすくす、面白い方……」
「それと、もう一つ、グレイスにはとっておきの秘密があって……」
「「「おおっ……」」」
グレイスに関するアルシュの思い出話は大いに盛り上がり、しばらくの間尽きることはなかった。
10
お気に入りに追加
1,885
あなたにおすすめの小説
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~
名無し
ファンタジー
賢者オルドは、勇者パーティーの中でも単独で魔王を倒せるほど飛び抜けた力があったが、その強さゆえに勇者の嫉妬の対象になり、罠にかけられて王に対する不敬罪で追放処分となる。
オルドは様々なスキルをかけられて無力化されただけでなく、最愛の幼馴染や若さを奪われて自死さえもできない体にされたため絶望し、食われて死ぬべく魔物の巣である迷いの森へ向かう。
やがて一際強力な魔物と遭遇し死を覚悟するオルドだったが、思わぬ出会いがきっかけとなって被追放者の集落にたどりつき、人に関するすべてを【逆転】できるスキルを得るのだった。
固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進
無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語
ユキムラは神託により不遇職となってしまう。
愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。
引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。
アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
追放された最強剣士〜役立たずと追放された雑用係は最強の美少女達と一緒に再スタートします。奴隷としてならパーティに戻してやる?お断りです〜
妄想屋さん
ファンタジー
「出ていけ!お前はもうここにいる資格はない!」
有名パーティで奴隷のようにこき使われていた主人公(アーリス)は、ある日あらぬ誤解を受けてパーティを追放されてしまう。
寒空の中、途方に暮れていたアーリスだったかが、剣士育成学校に所属していた時の同級生であり、現在、騎士団で最強ランクの実力を持つ(エルミス)と再開する。
エルミスは自信を無くしてしまったアーリスをなんとか立ち直らせようと決闘を申し込み、わざと負けようとしていたのだが――
「早くなってるし、威力も上がってるけど、その動きはもう、初めて君と剣を混じえた時に学習済みだ!」
アーリスはエルミスの予想を遥かに超える天才だった。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
4月3日
1章、2章のタイトルを変更致しました。
幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった
名無し
ファンタジー
主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。
彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。
片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。
リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。
実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。
リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる