上 下
36 / 57
第二章

36話 支援術士、虚を衝かれる

しおりを挟む

「……」

 隠れ家の墓地にて、俺たちはじっとジレードの帰りを待っていた。

 いよいよ手首切断事件の真犯人である眼帯少女の正体を掴めそうな状況。何より、彼女がなんで俺をそこまで恨んでいたのか、その理由を知りたかったし、改善できるのであればしたかったのだ。

 俺を別の誰かと勘違いしてる可能性もあるが、気付かないうちに恨みを買っていることだってあるように思えたし、そっちのほうが可能性が高いように感じた。

 ――お……少し経って、変装したジレードの姿が見えてきた。

「ただいま帰還いたしました」
「ジレード、おかえり」
「ジレードさん、おかえり!」
「ジレード、おかえりですわ――」
「「――あっ……」」

 俺とアルシュの素っ頓狂な声が被る。突如テリーゼががっくりと項垂れたのだ。

「テ、テリーゼ様!?」
「テリーゼ?」
「テリーゼさん……?」

 俺はすぐさまテリーゼの肩に触れ、状態を確認する。意識を失ってる患者を診る場合は触れたほうが一番早いからだ。

「グレイスどの、テリーゼ様は一体……?」
「テリーゼさん、どうしちゃったの……?」
「ちょっと待って……」

 なるほど、強い精神的疲労で気絶したんだ。これはおそらく結界術を使いすぎたためだろう。一切そういう素振りを見せなかっただけに気付かなかった。心配させまいと我慢してたんだろうが、ジレードが帰ってきたことで緊張の糸が切れてしまったんだろう。

 してやられた気分だ。さすが【賢者】なだけある……って、感心してる場合じゃないしジレードたちに結果を知らせないと。

「テリーゼは結界術を使いすぎただけで、大したことじゃないから心配はいらない」
「「よかった……」」
「ただ、しばらく安静にしておかないといけないかな」
「えっ、大したことがないのであれば、グレイスどのの神がかった回復術ですぐ治せるのでは……?」
「いや、そう単純にはいかないんだ」
「「ええっ……」」

 ジレードとアルシュが意外そうな顔を向けてくる。

「気絶した人をすぐ回復させて起こそうとすると、拒否反応が出て却って悪くなるケースがあるんだ。だから、少し寝かせておいてやるほうが安全なんだよ」
「「へえ……」」

 下手すりゃ記憶障害等、別の障害が生じる可能性だってある。薬と同じで、回復術も使い方次第では毒になってしまうんだ。

「――はっ……」
「ジレード?」
「ジレードさん?」

 ジレードがしまったという顔で後ろを見ている。見た感じ今のところ変わった様子はないが、【闇騎士】は特に気配を察知する能力に長けていると聞いたことがある。まさか……。

「なんたる不覚……この自分がつけられていたとは……」
「「ええ……」」

 追手がここまで来たというのか。しかも前回と違って偶発的じゃなく、尾行されてるならこの辺をしばらくマークするだろうし、テリーゼの結界術も術者が気を失ってる以上、解けるのは時間の問題だしまずいな……。

「申し訳ない、グレイスどの、アルシュ……」
「いや、それだけ相手も警戒してたってことだし、調べてもらってる以上、リスクはつきものだから仕方ない」
「うんうん、私たちだって変装したのに途中まで尾行されたくらいだし、ジレードさんは悪くないよ……」
「か、かたじけない――」
「――怪しいやつはこの辺で消えたぞ!」
「徹底的に探せっ!」
「「「っ!?」」」

 兵士たちがぞくぞくと墓場の近くまでやってきた。あ、あれは……かなりの数だ……。

 兵士になるにはS級冒険者以上でなければならず、筆記に加えて実技の試験もあると聞く。難易度は高いものの、階位が《庶民》から王国のために働くということで《騎士》に上がるため、なりたがる者は多いそうだ。なので実力者も多く、集団で来られると厳しい。

「うぬう……」
「どうしよう、グレイス……」
「……」

 もし真犯人だと疑われてる俺を庇ってることがバレたら、テリーゼたちにまで累が及ぶ。だが、車椅子のテリーゼを押して進む状態だと厳しいし、車椅子だけ残すわけにもいかない。破壊する時間だってないわけで、まもなく結界もなくなってしまう。

 この数相手だとさすがにジレードでも追い払うのは難しいだろうし、その間に援軍が来て囲まれてしまうのは目に見えてる。一体どうすれば……。

「「「――はっ……」」」

 そのときだった。膨大な数の矢がどこからともなく放たれ、兵士たちの元へ飛んでいったのだ。その量たるや凄まじく、まるで矢の雨のようだった。

「お、お前たち、一旦退くぞっ! 敵は大群だっ!」
「「「「「わああぁあっ!」」」」」

 兵士たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。しかし、一体どんな勢力が助けてくれたんだ……?

「そこにおられるのでしょう? 出てきてくださいな」
「「「えっ……」」」

 俺たちに声をかけてきたのは、とても意外な者たちだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

処理中です...