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第二章
36話 支援術士、虚を衝かれる
しおりを挟む「……」
隠れ家の墓地にて、俺たちはじっとジレードの帰りを待っていた。
いよいよ手首切断事件の真犯人である眼帯少女の正体を掴めそうな状況。何より、彼女がなんで俺をそこまで恨んでいたのか、その理由を知りたかったし、改善できるのであればしたかったのだ。
俺を別の誰かと勘違いしてる可能性もあるが、気付かないうちに恨みを買っていることだってあるように思えたし、そっちのほうが可能性が高いように感じた。
――お……少し経って、変装したジレードの姿が見えてきた。
「ただいま帰還いたしました」
「ジレード、おかえり」
「ジレードさん、おかえり!」
「ジレード、おかえりですわ――」
「「――あっ……」」
俺とアルシュの素っ頓狂な声が被る。突如テリーゼががっくりと項垂れたのだ。
「テ、テリーゼ様!?」
「テリーゼ?」
「テリーゼさん……?」
俺はすぐさまテリーゼの肩に触れ、状態を確認する。意識を失ってる患者を診る場合は触れたほうが一番早いからだ。
「グレイスどの、テリーゼ様は一体……?」
「テリーゼさん、どうしちゃったの……?」
「ちょっと待って……」
なるほど、強い精神的疲労で気絶したんだ。これはおそらく結界術を使いすぎたためだろう。一切そういう素振りを見せなかっただけに気付かなかった。心配させまいと我慢してたんだろうが、ジレードが帰ってきたことで緊張の糸が切れてしまったんだろう。
してやられた気分だ。さすが【賢者】なだけある……って、感心してる場合じゃないしジレードたちに結果を知らせないと。
「テリーゼは結界術を使いすぎただけで、大したことじゃないから心配はいらない」
「「よかった……」」
「ただ、しばらく安静にしておかないといけないかな」
「えっ、大したことがないのであれば、グレイスどのの神がかった回復術ですぐ治せるのでは……?」
「いや、そう単純にはいかないんだ」
「「ええっ……」」
ジレードとアルシュが意外そうな顔を向けてくる。
「気絶した人をすぐ回復させて起こそうとすると、拒否反応が出て却って悪くなるケースがあるんだ。だから、少し寝かせておいてやるほうが安全なんだよ」
「「へえ……」」
下手すりゃ記憶障害等、別の障害が生じる可能性だってある。薬と同じで、回復術も使い方次第では毒になってしまうんだ。
「――はっ……」
「ジレード?」
「ジレードさん?」
ジレードがしまったという顔で後ろを見ている。見た感じ今のところ変わった様子はないが、【闇騎士】は特に気配を察知する能力に長けていると聞いたことがある。まさか……。
「なんたる不覚……この自分がつけられていたとは……」
「「ええ……」」
追手がここまで来たというのか。しかも前回と違って偶発的じゃなく、尾行されてるならこの辺をしばらくマークするだろうし、テリーゼの結界術も術者が気を失ってる以上、解けるのは時間の問題だしまずいな……。
「申し訳ない、グレイスどの、アルシュ……」
「いや、それだけ相手も警戒してたってことだし、調べてもらってる以上、リスクはつきものだから仕方ない」
「うんうん、私たちだって変装したのに途中まで尾行されたくらいだし、ジレードさんは悪くないよ……」
「か、かたじけない――」
「――怪しいやつはこの辺で消えたぞ!」
「徹底的に探せっ!」
「「「っ!?」」」
兵士たちがぞくぞくと墓場の近くまでやってきた。あ、あれは……かなりの数だ……。
兵士になるにはS級冒険者以上でなければならず、筆記に加えて実技の試験もあると聞く。難易度は高いものの、階位が《庶民》から王国のために働くということで《騎士》に上がるため、なりたがる者は多いそうだ。なので実力者も多く、集団で来られると厳しい。
「うぬう……」
「どうしよう、グレイス……」
「……」
もし真犯人だと疑われてる俺を庇ってることがバレたら、テリーゼたちにまで累が及ぶ。だが、車椅子のテリーゼを押して進む状態だと厳しいし、車椅子だけ残すわけにもいかない。破壊する時間だってないわけで、まもなく結界もなくなってしまう。
この数相手だとさすがにジレードでも追い払うのは難しいだろうし、その間に援軍が来て囲まれてしまうのは目に見えてる。一体どうすれば……。
「「「――はっ……」」」
そのときだった。膨大な数の矢がどこからともなく放たれ、兵士たちの元へ飛んでいったのだ。その量たるや凄まじく、まるで矢の雨のようだった。
「お、お前たち、一旦退くぞっ! 敵は大群だっ!」
「「「「「わああぁあっ!」」」」」
兵士たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。しかし、一体どんな勢力が助けてくれたんだ……?
「そこにおられるのでしょう? 出てきてくださいな」
「「「えっ……」」」
俺たちに声をかけてきたのは、とても意外な者たちだった……。
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