勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

30話 支援術士、変装する

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「俺の格好はどうだ、アルシュ?」
「……んー、ウプッ……」
「あ、笑ったな」
「だ、だってぇ……ププッ……」
「……」

 久々に都の中心部へと出発するにあたり、【なんでも屋】のグレイスだとバレないように変装したわけだが、俺の格好を見たアルシュが、堪えきれない様子で口に手を当てて笑い始めた。

「そんなにおかしいか……?」

 別にそこまで変わったことはしてなくて、白い付け髭に加えてお洒落なミニグラスをつけただけなんだが……。

「だ、だって……グレイスったら、腰も曲げて本当のお爺さんみたいになってるから……」
「そ、そりゃ、そこまでしないと不自然だと思って……。そう言うアルシュの姿だって、おかしくはないけど、ちょっと怖いぞ?」
「うっ……」

 一方、アルシュの格好はというと、顔の片方だけに蜘蛛の巣みたいな派手なフェイスペイントを描いていて、なんとも退廃的な雰囲気の【魔術士】になっていた。

「あー、酷いよ、グレイス……」
「お、おい、そんなにうずくまるほど落ち込むことじゃないだろ。それまでの雰囲気とは一転しちゃったから、つい……」
「それまでの雰囲気って?」
「か、可愛らしいっていうか……」
「嬉しいっ」
「そ、その変わり身の早さ……さては演技してたか」
「えへへ――」
「――あらあら、お二人とも楽しそうですわね……?」
「まったく……」
「「あっ……」」

 なんか殺気めいたものを感じると思ったら、テリーゼとジレードがなんとも恐ろしい形相で背後にいた。そういや俺たちまだ墓地にいたんだった。

「わたくしのお父様が永眠なさっている神聖な場所でいちゃつくなんて、いくら恩人のグレイスさんといえども許しませんわよ? ま、まあ、わたくしとなら構いませんけれど」
「うむ。テリーゼ様でなければ、あるいは自分でも……コホンッ……」

 ジレードがテリーゼに睨まれて青ざめてる。なんか色んな意味で墓地らしい空気になってきちゃったし、そろそろここから失礼させてもらうとしようか……。



「「……」」

【なんでも屋】の店がいよいよ近付いてきて、俺は心臓が高鳴っていた。隣を歩いてるアルシュもだろうか。本当に久々で、どうなっているのかと思うと緊張感が凄かった。

 というのも、【なんでも屋】だけはテリーゼやジレードにも見ないようにと頼んでおいたんだ。あそこだけは自分たちの目で確かめたかったから。

 屋根とか扉がへこまされてるんじゃないか、窓ガラスも割られて破片が散らばってるんじゃないか、室内に侵入されてベッドや椅子がひっくり返されてるんじゃないか……どうしてもマイナス方面にばかり思考が偏ってしまうのは、それが当たり前だと思うことで心を守ろうと防衛本能が働いてるからなんだろう。

 でも、そこは甘やかしちゃいけない。きっと大丈夫、もしそうだとしても俺は許せる、下を向くことはない……こう前向きに考えることで心を上昇させていく。この積み重ねこそが回復術を、心を成長させるんだと信じて。

「おや、あの建物が、かの有名なグレイス先生の【なんでも屋】かのう?」
「そうみたいだねえ、あたいもよく知らないけどさ」

【なんでも屋】が見えてきたことで、俺はただの爺さんの振りをしてアルシュと他愛のない会話をしながら近付いていく。自分に対して先生と言うのはなんとも照れ臭かったが。

 嗚呼、遂に帰ってきたんだな。あくまでも一時的になるとはいえ、俺たちの努力と苦労の結晶である【なんでも屋】に……。

 俺はアルシュと神妙な顔を見合わせると、うなずいて現実を直視することにした。

 あれ……落書きは一部残っていたが消された痕跡もあった。不憫に思った誰かが消してくれたんだろうか。窓ガラスも割れてないし、そこから見えるベッドや仕切り、椅子やテーブルなんかも無事なのがわかる。

 さらに貼り紙があり、そこには『グレイス先生を信じてます』『いつまでもあなたの帰りを待っています』という文字が記されていた。

「よ、よかったね、グレイス……」
「……あ、ああ、よかった……」

 アルシュと俺は、お互いに目頭を押さえるので精一杯だった。俺のことを覚えててくれたんだな。【支援術士】なのに、逆に癒された気分だ。

 こうして俺を信じて待ってくれている人たちのためにも、絶対に真犯人を暴き出す必要がある。俺はその思いを一層強くしたのだった……。
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