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第一章
12話 支援術士、持てはやされる
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「グレイスさん、でしたか。こんなにも神がかった回復術を持った【支援術士】をわたくしは見たことがありませんでした。この御恩は一生忘れませんわ……」
「本当に、考えられない技術だ。どうか……どうか今までの無礼をお許しを、グレイスどの……」
「……」
テリーゼとジレードの態度がすっかり変わってしまった。特に後者の場合、最早以前とは別人だ。
ちなみに、前者に関しては弱った足腰もついでに治しましょうかと申し出てみたんだが、まったく歩けないわけじゃないし車椅子自体気に入ってるのでこのままがいいという。この分だとますます弱りそうな気もするが、本人の希望だしまあこれでいいか……。
「当然のことをしたまでですから、そこまでかしこまらなくても。誰かに見られたら困りますよ」
敬語を使わない程度ならまだしも、《高級貴族》と《騎士》が《庶民》や《奴隷》にヘコヘコしてるところをほかの《高級貴族》に見られたら、通報されて兵士にしょっぴかれてもおかしくないからな。それくらい、《階位》というのはこの世界では重いんだ。
「申し訳ありませんわ。つい興奮してしまって……」
「テリーゼ様が興奮するのも無理はないくらい、自分も感動した。今すぐにでもグレイスどのの《階位》を上げ、《騎士》と同格にしてもいいくらいだ……」
「あはは……」
まあさすがにそれは無理だろうけどな。なんせ、《階位》に関しては、上げる権利は《高級貴族》より上の《英雄》の中でも極限られた人しか持ってないわけだから。無暗やたらに格を上げることは職権乱用に繋がる恐れがあり、それを防ぐためらしい。《英雄》よりも上の《王族》以上だと格下相手の《階位》を下げることもできるんだとか。
「ジレード、わたくしとしてはグレイスさんは最早、《高級貴族》と同格ですよ?」
「う……なんだか自分は負けてしまった気分であります……」
「うふふ。わたくしの勝ちですわねっ」
「……」
一体なんの勝負だと……。
「――あ、そうですわ、謝礼金をお渡ししないと。ジレード、例のものを!」
「あ、はい! どうぞ、グレイスどの!」
「えっ……」
ジレードに渡されたのは、金貨がぎっしり詰め込まれた小袋だった。
「いやいや、銅貨1枚でいいですから!」
「しかし、それだとこちらの気が収まりませんわ」
「その通り。どうかお受け取りを!」
「じゃあ、報酬の代わりに二人に対する敬語をやめてもいいかな? この喋り方、慣れてなくてね……」
「グレイスさんが望むのであれば全然構わないのですけれど、本当にその程度でよろしいのですか……?」
「よいので……?」
「ああ、もちろん。それにこんなに沢山のお金を渡されたら、ほかの客が自分も積まなきゃいけないんじゃないかと引け目を感じるかもしれないしね。だから、銅貨1枚だけは絶対に譲れないんだ」
「「……」」
俺の言葉に対し、テリーゼとジレードの二人はぽかんとした顔になる。呆れちゃったかな?
「なんて素晴らしい方なのでしょう……」
「本当に、見上げた人だ……」
そうでもなかったらしく、しかも周りから拍手が沸き起こっていた。
「さすがグレイス先生。本当に謙虚な方だ!」
「グレイス先生こそ神だ! 俺だけの神! なんせ、あれだけ薄かった頭髪もたった銅貨1枚ですっかり治してくれたんだからな!」
誇らしげにフサフサの髪を触る男にヤジが飛ぶ。
「バカ言えっ! おいらだけのグレイスさんだぞ!」
「あ!?」
「違うわ、あたしのよ!」
「僕のだっ!」
客同士で口喧嘩が勃発してしまった。少々ヒヤヒヤさせられるが、まあこれくらいなら刺激もあっていいか……。
◇◇◇
「グレイスは私のだもん……あ……」
盛り上がる【なんでも屋】周辺の様子を見て、ぼんやりとした顔でポツリとつぶやくアルシュ。自分の台詞によって我に返った様子で、見る見る顔を赤らめていった。
「ア、アルシュ、まさかお前まで俺を見捨てるつもりじゃないだろうな……?」
ガゼルが若干掠れたような声を発すると、アルシュが苛立った表情で振り返った。
「見捨てる……? ガゼル、あなたはグレイスを捨てたのに、そんなことが言える立場なの!?」
「ぐっ……お、おおっ、俺を捨てたら、やつがどうなっても知らんぞ。【勇者】の権威はそれほどまでに強い……」
「そうかな?」
「な、何?」
「たとえ【勇者】のあなたであっても、もうグレイスの立場を悪くするのは難しいと思うよ。あの光景を見たらわかるでしょ?」
「う……」
今にもこぼれんばかりに見開かれたガゼルの目に映し出されたのは、【なんでも屋】のグレイスが大勢の客に囲まれ、これでもかと賞賛されている光景だった。
「ぐぐっ……」
「どう、わかった? あなたが思ってる以上にグレイスは成り上がってるし、私ももう自分の気持ちに嘘はつけない……」
「ま、待ってくれ、アルシュ。お願いだから行かないでくれ。お前がいなくなったら、俺は、俺は……」
「……さよなら、ガゼル」
「あ、あ、あああああっ!」
遠ざかるアルシュの背中を見たガゼルは地面に膝を落とし、号泣した。
「本当に、考えられない技術だ。どうか……どうか今までの無礼をお許しを、グレイスどの……」
「……」
テリーゼとジレードの態度がすっかり変わってしまった。特に後者の場合、最早以前とは別人だ。
ちなみに、前者に関しては弱った足腰もついでに治しましょうかと申し出てみたんだが、まったく歩けないわけじゃないし車椅子自体気に入ってるのでこのままがいいという。この分だとますます弱りそうな気もするが、本人の希望だしまあこれでいいか……。
「当然のことをしたまでですから、そこまでかしこまらなくても。誰かに見られたら困りますよ」
敬語を使わない程度ならまだしも、《高級貴族》と《騎士》が《庶民》や《奴隷》にヘコヘコしてるところをほかの《高級貴族》に見られたら、通報されて兵士にしょっぴかれてもおかしくないからな。それくらい、《階位》というのはこの世界では重いんだ。
「申し訳ありませんわ。つい興奮してしまって……」
「テリーゼ様が興奮するのも無理はないくらい、自分も感動した。今すぐにでもグレイスどのの《階位》を上げ、《騎士》と同格にしてもいいくらいだ……」
「あはは……」
まあさすがにそれは無理だろうけどな。なんせ、《階位》に関しては、上げる権利は《高級貴族》より上の《英雄》の中でも極限られた人しか持ってないわけだから。無暗やたらに格を上げることは職権乱用に繋がる恐れがあり、それを防ぐためらしい。《英雄》よりも上の《王族》以上だと格下相手の《階位》を下げることもできるんだとか。
「ジレード、わたくしとしてはグレイスさんは最早、《高級貴族》と同格ですよ?」
「う……なんだか自分は負けてしまった気分であります……」
「うふふ。わたくしの勝ちですわねっ」
「……」
一体なんの勝負だと……。
「――あ、そうですわ、謝礼金をお渡ししないと。ジレード、例のものを!」
「あ、はい! どうぞ、グレイスどの!」
「えっ……」
ジレードに渡されたのは、金貨がぎっしり詰め込まれた小袋だった。
「いやいや、銅貨1枚でいいですから!」
「しかし、それだとこちらの気が収まりませんわ」
「その通り。どうかお受け取りを!」
「じゃあ、報酬の代わりに二人に対する敬語をやめてもいいかな? この喋り方、慣れてなくてね……」
「グレイスさんが望むのであれば全然構わないのですけれど、本当にその程度でよろしいのですか……?」
「よいので……?」
「ああ、もちろん。それにこんなに沢山のお金を渡されたら、ほかの客が自分も積まなきゃいけないんじゃないかと引け目を感じるかもしれないしね。だから、銅貨1枚だけは絶対に譲れないんだ」
「「……」」
俺の言葉に対し、テリーゼとジレードの二人はぽかんとした顔になる。呆れちゃったかな?
「なんて素晴らしい方なのでしょう……」
「本当に、見上げた人だ……」
そうでもなかったらしく、しかも周りから拍手が沸き起こっていた。
「さすがグレイス先生。本当に謙虚な方だ!」
「グレイス先生こそ神だ! 俺だけの神! なんせ、あれだけ薄かった頭髪もたった銅貨1枚ですっかり治してくれたんだからな!」
誇らしげにフサフサの髪を触る男にヤジが飛ぶ。
「バカ言えっ! おいらだけのグレイスさんだぞ!」
「あ!?」
「違うわ、あたしのよ!」
「僕のだっ!」
客同士で口喧嘩が勃発してしまった。少々ヒヤヒヤさせられるが、まあこれくらいなら刺激もあっていいか……。
◇◇◇
「グレイスは私のだもん……あ……」
盛り上がる【なんでも屋】周辺の様子を見て、ぼんやりとした顔でポツリとつぶやくアルシュ。自分の台詞によって我に返った様子で、見る見る顔を赤らめていった。
「ア、アルシュ、まさかお前まで俺を見捨てるつもりじゃないだろうな……?」
ガゼルが若干掠れたような声を発すると、アルシュが苛立った表情で振り返った。
「見捨てる……? ガゼル、あなたはグレイスを捨てたのに、そんなことが言える立場なの!?」
「ぐっ……お、おおっ、俺を捨てたら、やつがどうなっても知らんぞ。【勇者】の権威はそれほどまでに強い……」
「そうかな?」
「な、何?」
「たとえ【勇者】のあなたであっても、もうグレイスの立場を悪くするのは難しいと思うよ。あの光景を見たらわかるでしょ?」
「う……」
今にもこぼれんばかりに見開かれたガゼルの目に映し出されたのは、【なんでも屋】のグレイスが大勢の客に囲まれ、これでもかと賞賛されている光景だった。
「ぐぐっ……」
「どう、わかった? あなたが思ってる以上にグレイスは成り上がってるし、私ももう自分の気持ちに嘘はつけない……」
「ま、待ってくれ、アルシュ。お願いだから行かないでくれ。お前がいなくなったら、俺は、俺は……」
「……さよなら、ガゼル」
「あ、あ、あああああっ!」
遠ざかるアルシュの背中を見たガゼルは地面に膝を落とし、号泣した。
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