勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第一章

8話 支援術士、動揺する

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 あれからしばらく経って、例の車椅子に乗った《高級貴族》の少女テリーゼの出番が回ってきた。というか、彼女の隣で槍を構えている《騎士》のジレードってやつが怖いんだが……。

「さあ、生意気な【なんでも屋】め、ここまで我々を待たせた以上、絶対にテリーゼ様を治してもらうぞ!」
「ジレード、プレッシャーをかけるのはおやめなさい」
「は、はっ……」
「……」

 テリーゼの口調は穏やかだったが、その分青い炎のような強い憤りを感じさせた。本気で怒らせたらこの子のほうが怖いんじゃないかと思ったほどだ。実力的にも相当上のほうなんじゃないかな。それはジレードにも感じるが、テリーゼは桁違いの強さを漂わせている。

 なので少々緊張感が生じたが、治療対象が盲目ならば問題あるまい。いきなり完全に回復することは無理でも、少しずつ見えるようにするのは俺にとって容易いことだからだ。

「では、治療をお願いします」
「ああ――」
「――たわけっ! 目上の人には、ああではなくはいだろう!」
「はい……」

 女騎士のジレードに怒られたので敬語で話すとしよう。あんまり人によって言葉遣いを選ぶのは好きじゃないんだが、仕方ない。さて、テリーゼの目を見るとするか。

「俺がいいと言うまで、しばらく目を瞑らないようにお願いします」
「はい」

 俺は目前にいる少女の綺麗な碧眼の奥に全神経を集中させる。

 盲目を治すには目の表面からではなく、深部から少しずつ回復術を展開し、逆行させるというやり方を取る。これは植物が根から栄養を吸い上げていき、徐々に全体を潤わせていく行為に近いもので、まず深部で馴染ませてから少しずつ表面のほうへと戻していくのだ。この際、光があるとなおよいとされる。

「――っ!?」

 な、なんだ? 全体に行き届くどころか、奥で展開した俺の回復術が丸ごと跳ね返された。バカな……。

「お、おい、どうした!?」
「どうされました……?」
「……あ、い、いや、なんでもなくて。もうしばらくお待ちを……」

 ダメだ。やはり何度やっても回復術が萎んでいく。これはもう間違いない、盲目は盲目でも種類が全然違う。おそらく、この盲目はなんらかの呪いによるものだ。呪いは《罪人》相手に使うことを除き、固く禁じられているはずだが……。

「おい貴様、本当に治せるのだろうな!?」
「……そ、それは……その……」

 まさか、呪いがかかっているとは。ただの盲目なら、なんとかできる余地はあった。だが、これでは治せるかどうかはまったくの未知数だ……。

「貴様、はっきり言えっ!」
「……」

 それでもここまで並ばせてしまった以上、今更できないと断ればどうなるかはわからない。俺はあくまで《庶民》であり、相手は《騎士》と《高級貴族》だ。最悪殺されるし、そうでなくても商売をすることすらできなくなってしまうだろう。かといってこのまま治療を続けた場合、もし治らなかったら俺の死は確実なものとなる。一体どうすればいいのか……。



 ◇◇◇



「グ、グレイス、一体どうしちゃったの……」

 それまでの空気とは一転して、怒声やどよめきが飛び交う異様な雰囲気の【なんでも屋】周辺を不安げに見つめるアルシュ。

「どうだ、おい、見たか。あのグレイスの驚いた顔。ようやく治療が無理だってわかったようだな」
「ガ、ガゼル、どういうこと……? なんで無理だってわかったの……」
「知りたいか?《貴族》や《高級貴族》ってやつは裕福に見えて腹ん中は真っ黒なんだよ。それもこの百戦錬磨の俺が聞いて背筋が冷たくなるくらいには、な……」
「ま、まさか……」

 得意顔のガゼルの傍ら、アルシュがはっとした顔になる。

「ようやくわかったみたいだな、アルシュ。《高級貴族》どもの中には、そのドロドロした関係を拗らせて禁じ手の呪いを使うやつもいる。テリーゼの目が見えなくなったのはその呪いによるものって噂があったんだよ」
「で、でも、グレイスなら――」
「――無理無理。金持ちの《高級貴族》が路上の【なんでも屋】なんかに頼るってことはよ、それだけ高名な【回復職】の連中から匙を投げられてて、藁にも縋るような状況ってこった。いくらグレイスでも今回はお手上げだろうぜ」
「……そ、そんな……」
「なあ、もしあいつがテリーゼを治せなかったらどうなっちまうんだろうな? 殺されそうになったらまあ俺が幼馴染のよしみで止めてやってもいいが、【なんでも屋】はできなくなるだろうし泣きついてくるのは間違いないぜ。そしたら……わかってるよな……?」
「……」

 ガゼルに耳元で息を吹きかけられ、赤い顔で項垂れるアルシュ。

「んん? あいつを死なせたくないんだろう?」
「そ、それは……最低。メルが死んだばかりなのに、あのあとシアにも逃げられたのに、よくそんなことが言えるわね……!?」
「ハハッ、そう言ってられるのも今のうちだけだ。精々、上手くいくように祈ってな」
「グレイスならその必要はない。ガゼル。あなたこそ、自分の考えが上手くいくように祈ったら?」
「へっ、相変わらず食えない女だ」

 おどけた顔で舌なめずりするガゼルに対し、アルシュは強い表情と言葉で返してみせた。

(グレイス、大丈夫。ガゼルはこう言ってるけど、どんな高名な【回復職】よりもずっと勉強してきたあなたなら絶対に上手くいく。だから私、神様に祈るようなことはしない。あなたの力を信じてるから……)
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