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第一章
4話 支援術士、空想にふける
しおりを挟む翌朝、安ホテルで朝食を済ませた俺は、早速【なんでも屋】としての仕事を始めるべく、今日も冒険者ギルド前にやってきた。
相変わらず人で溢れ返ってるなあ……。
人が沢山往来しているのを見て、それだけ客が来る可能性があると思うとやる気が体中から滲み出てくる。よおし、やるぞ、稼ぐぞ。
いつになるかわからないし、取らぬ狸の皮算用かもしれないものの、沢山稼いだらもっと質のいい杖でも買って回復力を底上げするつもりだ。親友の形見だからとずっとこれを使ってきたが、古びて傷みも酷くなってきている。それでも捨てるつもりはないが、こんな状況で変えないとそれこそあの世からあいつに怒られそうだからな。
そうやってどんどんクオリティと評判を高めていけば、問題児扱いされてる俺でもいずれはパーティーに拾われることだってあるかもしれない。やはり【回復職】としてはパーティーの一員になったほうが稼げし、高ランクの依頼だってこなせるからな。
それに、人のためになる仕事も悪くないが、いつかはダンジョンワールドで旅をしたいっていう夢があるんだ。
子供の頃から、ガゼルやアルシュといつかダンジョンワールドに行こうって話してたことを思い出す。それは普通のダンジョンと違い、国から招待状を得なければ入れない特別なダンジョンのことだ。
モンスターが異常なほどに強いらしく危険は大きいものの、その分スケールや報酬が段違いで、ダンジョンワールドの中に町やダンジョンが無数にあり、独自の種族、文化、言語まで豊富にあるというが、難易度が桁外れなために未だにほとんど調査が進んでないんだとか。
なので、よっぽどの実力者だと認められる功績がなければ行くこと自体無駄だとして招待状は来ないのである。
……っと、空想にふけるのはこれくらいにして、そろそろおっぱじめるか。
「らっしゃい、らっしゃい! こちら、なんでも回復できる【なんでも屋】! お値段はたった銅貨1枚!」
道路脇で何度も声を張り上げてアピールするが、たまに視線を向けられるだけで中々そこから発展していかない。
よくよく考えてみたら、昨日猫を治したときは夜も更け始めてて周りにはほとんど人の往来がなかったし、状況は昨日とほとんど変わってないのかもしれないな……。
「――あのー」
「あ……」
びっくりした。すぐ目の前に若い長髪の男が立っていたからだ。
「あなた、なんでも治せるんですよね?」
「も、もちろん、なんでも……」
「ではこの子をお願いします」
「こ、これは……」
男が出してきたのは、とても意外なものだった。
◇◇◇
『――グオォォォッ……!』
「「キャー、ガゼル様すごーい!」」
「フッ……!」
そこは冒険者ギルドのある都の近くに位置する森の中、【勇者】ガゼルの振り下ろした大剣がS級モンスターのゴールデンベアを一撃で切り裂き、【治癒術士】のシアと【補助術士】のメルから黄色い歓声が上がった。
「ほんっと、楽勝だぜ。グレイスなんかいなくてもよ。なあ、アルシュ?」
「……」
「このままゴールデンベアの爪をあと十個集めるだけでSランクの依頼完了だし、今日も上等なステーキとワインにありつけそうだぜ、なあ、アルシュ?」
「……」
「この分だといずれはSS級冒険者となり、さらに実績を積み重ねることで国から招待され、夢のダンジョンワールドを冒険できるかもなあ、アルシュ?」
「……」
何度声をかけられても、アルシュはぼんやりとしていてガゼルのほうを見ようともしなかった。
「ちょっとー、アルシュさんっていくらなんでも失礼じゃないです? ガゼル様は世界でも5人ほどしかいないといわれる、とっても希少な【勇者】の一人なのですよ?」
「メルもそう思うのー。そんな調子じゃ世界のガゼル様に捨てられちゃうよー?」
「「ププッ……」」
「じゃあ、捨ててよ!」
「「えっ?」」
アルシュの鋭い一言にシアとメルが青い顔で黙り込む。
「まあまあ、アルシュは昔から照れ屋なんだよ。シア、メル、仲良くしてやってくれ」
「はーい、アルシュさん、ごめんなさいですぅ」
「ごめんなさいなのー」
「いえ、私は別に気にしてないから。ガゼル、無視してごめんね。ちょっと考え事してて……」
何事もなかったように歩き始めるアルシュ。それに対しガゼルは少し苦い顔をしたのち、彼女の尻にギラギラとした視線を移して喉をぐるりと動かした。
(アルシュ……お前が色気のねえお子様体型だからって露出を大きくしたのも全部グレイスのためだって俺は知ってんだよ。けど、お前を抱くのはあいつじゃねえ。この俺だ。やつは一人じゃ何もできずに結局俺たちに泣きつく羽目になる。そのときに俺がお前の処女と引き換えにグレイスを迎え入れ、それからまた頃合いを見て追放。ククッ、完璧な作戦だ……)
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何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
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