勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第一章

3話 支援術士、なんでも屋を始める

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「らっしゃい、らっしゃい! どんな病や傷も治せる【支援術士】の回復魔法はどうだい!? 銅貨1枚でお試しあれ!」

 冒険者ギルド前の通りは、夜でも人の往来が絶えないこともあって、俺は宿代だけでも稼ごうと声を張り上げていた。銅貨1枚なのは決して自信がないからじゃなくて、追放された身なので高い値段だと人が余計に集まり辛いんじゃないかと考えたからだ。

 それでも、ちらちらと視線は向けられるものの中々人が集まらなかった。タダより高いものはないと言うし、逆に警戒されてる可能性もありそうだな。とにかく誰か一人でも来てくれれば、それを実際に治すことで評判になるかもしれないし、リピーターだって生まれるかもしれない。

「――たった銅貨1枚でなんでも治せる【なんでも屋】! そこの人、治したいものがあればどうぞこちらへ!」

 あれからしばらく経って夜も更けてきたが、未だに客はゼロだった。ギルドがもうすぐ閉まるということもあり、人の往来も目に見えて減ってきた。このままじゃ野宿だ。疲れてるだの恥ずかしいだの言ってる場合じゃないので俺は必死に笑顔を作ってアピールする。

「一ついいかい?」
「あっ、はい! 何を治すおつもりで?」
「やっぱやめとく……うっぷ……」
「……」

 ダメだ、ギルドから出てきた酔っ払い風の男か寄ってきたと思ったら、寸前で薄ら笑いを浮かべながら立ち去られた。どうやら冷やかされたらしい。

 はあ……もう人も疎らだし今日はやめとこうか。野宿できそうな場所を探そう。これから客が来ても銅貨1枚貰ったところでどこにも泊まれないし……。

「ミャアー」
「……え?」

 猫の声がしたと思ったら、一人の幼い女の子が太った白猫を抱えた状態で俺の横に立っていた。

「ど、どうしたの?」
「お兄さん、なんでも治せるって本当なの?」
「ん、ああ。治せるよ」
「じゃあ、この子を治してっ! 屋根の上から飛び降りたんだけど、それからまともに歩けないの!」
「ウ……ウニィィ……」
「……」

 地面に降ろされた猫は、足を引き摺りながら幼女の後ろへ隠れて座り込んだ。なるほど、折れてるっぽいな。猫はある程度高いところから飛び降りても平気なんだが、これだけ太ってると骨折してもおかしくない。

 これは【回復職】の間でもあまり知られてないことだが、実は動物に対して人間と同じように治癒しようとしても上手くいかない。もちろん疲労くらいなら取り除けるが、骨折となるとやり方を変えないといけない。

 人間相手だとお互いの治したいという精神の流れを利用して治療を行うことができるが、動物相手だと一方通行になってしまうので怪我した箇所に直接触れないといけないんだ。飼い主とペットくらいの信頼関係があれば、別の個所に触れるだけでいけるもののそんな猶予はない。

「触れるよ」
「あ、ダメッ」
「フギャッ」
「ぐっ……!」

 興奮した様子の猫に手を噛みつかれて、痛みとともに血が薄らと滲み出てきたが、俺は構わず治療を続ける。

「いい子だ。いい子だから……」
「……ミュウゥ……」

 すると、気持ちが伝わったのか猫はしばらくして噛むのをやめてくれた。……よし、治った。元々大人しい猫なのか、噛みついてはきたが暴れたり逃げたりすることもなく、不幸中の幸いだった。

「これで大丈夫だ」
「ほんとぉ?」
「ミャー」

 白猫は足を引き摺ることなく、少し離れた俺の元まで寄ってきて膝に顔を擦りつけてきた。

「わ、ちゃんと歩いてる。ありがとー!」
「どういたしまして。猫ちゃんには少しダイエットさせたほうがいいよ」
「うんっ。あ、これあげるー」
「え……」

 女の子から貰ったのはなんと銀貨1枚だった。

「今これしかなくて。ごめんねー!」

 幼女が笑顔で立ち去っていく。まだ小さいしお金の価値がよくわかってないんだろうか。罪悪感も少々あるが、ありがたく受け取っておこう。今度来たら無償でサービスしてあげればいい。それにしても、銀貨1枚がこれだけ重く感じたことはなかった。これなら宿代だけじゃなく明日の朝食にもありつけそうだな……。



 ◇◇◇



「お姉さん、あの人、本当にうちのマリアを治してくれたよ。ありがとー!」
「ミュー」

 冒険者ギルドから少し離れた場所で、フードを被った少女――【魔術士】のアルシュ――が白猫を抱えた幼女と向かい合っていた。

「マリアちゃん元気になってよかったねぇ。銀貨はちゃんと渡した?」
「うん!」
「そっか……」

 アルシュは笑いつつ、目元を押さえる。

「お姉さん、どうしたの? どこか悪いなら、あの人に治してもらって!」
「ミャアァ」
「……だ、大丈夫。なんでもないから。それじゃねっ」
「うん、ばいばいっ」

 アルシュは幼女と笑い合って小走りにその場をあとにしたが、しばらく頬が渇くことはなかった。
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