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46話 落とし穴
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「フォード、やれる、絶対やれるよ。知ってるんだ。あたし……。相方のあんたなら、必ずやれるんだってことをっ!」
「フォード様、そうです。リリ様のパートナーであり、貧しい子羊たちを救ってきたあなた様ならば、必ずや、成功するでしょう。神様だってちゃんと見ておられます!」
「……」
リリとメアの声援が背中に突き刺さり、じんわりと自分の胸に染み渡っていくのがわかる。
きっと、二人とも深く理解している。俺の置かれている状況というものが、どれだけ厳しいものなのかということは。その上でこうした発言が出るのは、決して弱気になって奇跡を祈っているからではないだろう。
こういう苦しすぎる状況であるからこそ、それに抗う力以上のものが生まれるということを、俺が今までやったことを側で見てきているリリとメアは痛いほどよくわかっているんだ。
そうだ、やれるはずなんだ。今までなんでも解決してきたように、きっとこれからも……。
つまり、俺が今苦痛を感じているということは、見方を変えれば甘えであるということ。これまで、膨大なスキルシミュによって、最強のスキルを生み出したつもりだった。だが、これが意外と落とし穴なのかもしれない。
本当に最強だったのか、最善だったのか、まず疑うことから始めるべきだと思ったんだ。自分の考え方を変えることは勇気がいるわけだが、難題をクリアしたいならその勇気こそ買うべきだ。
というわけで俺はプライドをかなぐり捨て、スキルの再構築を行う。めまぐるしい思考の中、もうやつはここから二メートルほどまで迫ってきていた。時間がない。
――【幽石誘導】【後ろ歩き】【蛇の巣】……。
やはり、ダメだ。これ以上の最高のスキル構成なんてあるはずもないじゃないか。なのに、ただ硬くて歩いてるだけのやつに負けるなんて――
「――はっ……」
待てよ? ただ硬くて歩いてるだけ……? そうか、わかったぞ。やっぱり自分は、もうこれ以上の構成はないと勝手に決めつけていただけなんだ。
【後ろ歩き】を解体すると、【歩き屋】と【後ろ向き】スキルに戻る。【幽石誘導】と【歩き屋】を合わせたらどうだ。
スキル名:【幽石移動】
効果:自身の体が石のようになる。念の力で動かすことが可能。
「……」
お、おおぉ、これは凄いぞ。全身が硬直してしまったみたいで、自分じゃない自分を操るような、なんとも奇妙な感覚。一見、最弱であるかのように勘違いするスキルだから、今までこのスキルに辿り着かなかったのかもしれない。
これを使用した状態に慣れるのには少々時間がかかりそうだが、この状態であれば防御力も攻撃力も極めて高いはずで、慣れて自由に制御できるようになったら滅法強いのは間違いない。
「いける……いけるぞ……」
念じるだけで言葉が出たわけだが、その台詞通り俺は大いなる手応えを掴んでいた。自分の体が石になったら、そりゃ強いって。
そういうわけで念じることでよたよたと歩き、ユユとかいうやつに殴りかかる。
「ふむ……?」
ゆっくりすぎたせいか、あっさりかわされてしまった上、俺の右腕はジグザグな形状に変えられたわけだが、痛くも痒くもなかった。そりゃそうだ。だって石は石なんだから。
とはいえ、石化状態だとバレたら普通の状態に戻される可能性もあるし、【復元整形】によって腕を元に戻すことも忘れない。本来は顔だけしか治せないものだが、今の俺の体は頭からつま先まで石ころとして単純化されているため、腕も顔も同じってことで充分に治すことが可能なんだ。
「ほう、すかさず修復しおったか。これは面白い――」
「――すぐにつまらなくしてやるよ」
「っ!?」
完璧すぎる少女ユユの頬に、俺の左の拳がめり込んでいた。
「ぐふぁっ!」
やつのとても小柄な、それでいて重いなどという小賢しい体が、あたかもこれが本来の姿であると言わんばかりに宙を舞う。
石のように硬い拳に加えて、単純に俺とユユの体の重さの違い、さらには完璧さと完璧さすら疑った執念の差がこの痛快すぎる現状を生み出したのだ。完璧という言葉こそ落とし穴だったというわけだ。
あとはもう、自分でも可哀想になるくらい一方的だった。
「うぎっ? むげえっ? ぐほおぉっ……!」
時々、やつにスキルを使われているのか俺の頭が真っ白になったり、拳で殴ってるつもりが頭突きになっていたりと、奇妙な状況になるときもあったが、構わずボコり続ける。
「……」
その結果、煩わされることも次第に減ってきて、気が付いたときには赤いお目目をぱっちりと見開いたまま横たわった少女を、俺は見下ろす格好となっていた。
◆◆◆
「みなさん……フォードさんが今どういう状況になっているかは、決して言わないでください。しばらく、想像の中だけで楽しみたいので……」
涼し気な顔で目を瞑り、まるで歌うかのように懇願するハロウド。
「お、おう……」
「う、うん……」
「わ、わかりましたわ……」
アッシュ、パルル、グレイシアの声色は明らかに沈んだものだったが、それでもハロウドの表情には猜疑心の欠片すら見られなかった。
「フッ……みなさん、元気がないようですが、僕にはわかるのですよ。この反応こそが、フォードさんが有利だと見せかけて僕を驚かせるためのサプライズショーであると。彼が有利に見えて、実際は踏みにじられているという、天国への序章であると……!」
「「「……」」」
まもなく勝敗が決して、アッシュたちがいかにも落胆した顔を見合わせるが、誰もハロウドに声をかける者はいなかった。
「おや? 歓声を上げるかと思いましたが、それを我慢してまで僕を驚かせたいのですか。まあいいでしょう。僕が目を開ければいいだけのことです。想像したフォードさんの惨めすぎる姿と、現実の哀れすぎる姿で、一体どれくらい乖離しているのか、楽しむといたしましょうか……」
満面の笑みを浮かべたハロウドが、かっと目を見開いて教会を見上げる。
「はて……フォードさんはまだ無事みたいですね。しかも、ユユさんは倒れてしまっている。これは一体全体、どういうことなんでありましょうか……? あれ、あれれっ? あれあれあれれええええぇっ……!?」
ハロウドは何度もまばたきしてみせたのち、石像のように動かなくなるのであった……。
「フォード様、そうです。リリ様のパートナーであり、貧しい子羊たちを救ってきたあなた様ならば、必ずや、成功するでしょう。神様だってちゃんと見ておられます!」
「……」
リリとメアの声援が背中に突き刺さり、じんわりと自分の胸に染み渡っていくのがわかる。
きっと、二人とも深く理解している。俺の置かれている状況というものが、どれだけ厳しいものなのかということは。その上でこうした発言が出るのは、決して弱気になって奇跡を祈っているからではないだろう。
こういう苦しすぎる状況であるからこそ、それに抗う力以上のものが生まれるということを、俺が今までやったことを側で見てきているリリとメアは痛いほどよくわかっているんだ。
そうだ、やれるはずなんだ。今までなんでも解決してきたように、きっとこれからも……。
つまり、俺が今苦痛を感じているということは、見方を変えれば甘えであるということ。これまで、膨大なスキルシミュによって、最強のスキルを生み出したつもりだった。だが、これが意外と落とし穴なのかもしれない。
本当に最強だったのか、最善だったのか、まず疑うことから始めるべきだと思ったんだ。自分の考え方を変えることは勇気がいるわけだが、難題をクリアしたいならその勇気こそ買うべきだ。
というわけで俺はプライドをかなぐり捨て、スキルの再構築を行う。めまぐるしい思考の中、もうやつはここから二メートルほどまで迫ってきていた。時間がない。
――【幽石誘導】【後ろ歩き】【蛇の巣】……。
やはり、ダメだ。これ以上の最高のスキル構成なんてあるはずもないじゃないか。なのに、ただ硬くて歩いてるだけのやつに負けるなんて――
「――はっ……」
待てよ? ただ硬くて歩いてるだけ……? そうか、わかったぞ。やっぱり自分は、もうこれ以上の構成はないと勝手に決めつけていただけなんだ。
【後ろ歩き】を解体すると、【歩き屋】と【後ろ向き】スキルに戻る。【幽石誘導】と【歩き屋】を合わせたらどうだ。
スキル名:【幽石移動】
効果:自身の体が石のようになる。念の力で動かすことが可能。
「……」
お、おおぉ、これは凄いぞ。全身が硬直してしまったみたいで、自分じゃない自分を操るような、なんとも奇妙な感覚。一見、最弱であるかのように勘違いするスキルだから、今までこのスキルに辿り着かなかったのかもしれない。
これを使用した状態に慣れるのには少々時間がかかりそうだが、この状態であれば防御力も攻撃力も極めて高いはずで、慣れて自由に制御できるようになったら滅法強いのは間違いない。
「いける……いけるぞ……」
念じるだけで言葉が出たわけだが、その台詞通り俺は大いなる手応えを掴んでいた。自分の体が石になったら、そりゃ強いって。
そういうわけで念じることでよたよたと歩き、ユユとかいうやつに殴りかかる。
「ふむ……?」
ゆっくりすぎたせいか、あっさりかわされてしまった上、俺の右腕はジグザグな形状に変えられたわけだが、痛くも痒くもなかった。そりゃそうだ。だって石は石なんだから。
とはいえ、石化状態だとバレたら普通の状態に戻される可能性もあるし、【復元整形】によって腕を元に戻すことも忘れない。本来は顔だけしか治せないものだが、今の俺の体は頭からつま先まで石ころとして単純化されているため、腕も顔も同じってことで充分に治すことが可能なんだ。
「ほう、すかさず修復しおったか。これは面白い――」
「――すぐにつまらなくしてやるよ」
「っ!?」
完璧すぎる少女ユユの頬に、俺の左の拳がめり込んでいた。
「ぐふぁっ!」
やつのとても小柄な、それでいて重いなどという小賢しい体が、あたかもこれが本来の姿であると言わんばかりに宙を舞う。
石のように硬い拳に加えて、単純に俺とユユの体の重さの違い、さらには完璧さと完璧さすら疑った執念の差がこの痛快すぎる現状を生み出したのだ。完璧という言葉こそ落とし穴だったというわけだ。
あとはもう、自分でも可哀想になるくらい一方的だった。
「うぎっ? むげえっ? ぐほおぉっ……!」
時々、やつにスキルを使われているのか俺の頭が真っ白になったり、拳で殴ってるつもりが頭突きになっていたりと、奇妙な状況になるときもあったが、構わずボコり続ける。
「……」
その結果、煩わされることも次第に減ってきて、気が付いたときには赤いお目目をぱっちりと見開いたまま横たわった少女を、俺は見下ろす格好となっていた。
◆◆◆
「みなさん……フォードさんが今どういう状況になっているかは、決して言わないでください。しばらく、想像の中だけで楽しみたいので……」
涼し気な顔で目を瞑り、まるで歌うかのように懇願するハロウド。
「お、おう……」
「う、うん……」
「わ、わかりましたわ……」
アッシュ、パルル、グレイシアの声色は明らかに沈んだものだったが、それでもハロウドの表情には猜疑心の欠片すら見られなかった。
「フッ……みなさん、元気がないようですが、僕にはわかるのですよ。この反応こそが、フォードさんが有利だと見せかけて僕を驚かせるためのサプライズショーであると。彼が有利に見えて、実際は踏みにじられているという、天国への序章であると……!」
「「「……」」」
まもなく勝敗が決して、アッシュたちがいかにも落胆した顔を見合わせるが、誰もハロウドに声をかける者はいなかった。
「おや? 歓声を上げるかと思いましたが、それを我慢してまで僕を驚かせたいのですか。まあいいでしょう。僕が目を開ければいいだけのことです。想像したフォードさんの惨めすぎる姿と、現実の哀れすぎる姿で、一体どれくらい乖離しているのか、楽しむといたしましょうか……」
満面の笑みを浮かべたハロウドが、かっと目を見開いて教会を見上げる。
「はて……フォードさんはまだ無事みたいですね。しかも、ユユさんは倒れてしまっている。これは一体全体、どういうことなんでありましょうか……? あれ、あれれっ? あれあれあれれええええぇっ……!?」
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