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35話 高低差
しおりを挟む「今日からここで暮らそう、リリ、メア」
「「えぇっ!?」」
俺の言葉に対し、二人とも目だけじゃなくて、開いた口まで丸くなってる。よっぽど意外だったらしい。
「よくよく考えてみてくれ。ここは教会としてはとっくに機能してない状態で、俺たちには宿がなくてなんでも屋をやる拠点もない。メアには結界スキルがあって、ここへ迷い込んでくる人を助けたいけど、一人で来るのは心細い。なら、ここで一緒になんでも解決屋をやればいいんだ」
「「あっ……!」」
リリもメアもようやく理解してくれたみたいだ。まさか教会を拠点にすることになろうなんて夢にも思わなかったんだろうが、これですべてが解決する。
「場所が場所だけに、『聖なんでも解決屋』ってやつだな」
「あははっ。フォード、冴えまくってるねえ……」
「な、なんて神々しいお姿なのでしょう……!」
よーし……そうと決まったら、早速拠点の清掃を始めるとするか。今のままだと廃墟と変わらないから客も集まりそうにないしな。そういうわけで、掃除をするのにうってつけのスキルを【分解】スキルで作ろうと思う。
【降焼石】【目から蛇】【宙文字】【希薄】【視野拡大】【正直】【輝く耳】【声量】【歩き屋】【後ろ向き】
このように、俺はまず所有スキルを元に戻した上で、【輝く耳】と【希薄】を合わせ、輝きを薄める形で耳を綺麗にする【耳掃除】スキルを作った。
それと【視野拡大】を解いて組み合わせると、【視線清掃】という、綺麗にしたい場所を見るだけで清掃できてしまう超便利なスキルになるんだ。これは以前にあれこれとスキルシミュレーションしていたときに発見したものだ。
もちろん、効果を高めるべくある程度近付く必要があるとはいえ、スキル自体が範囲の広いものなので、見る見る教会の内外を綺麗にすることができた。
「――ふう。大分綺麗になったな……」
「だねえ……」
「本当に……生まれ変わりましたね! なんて美しいのでしょう。うっとり……」
俺たちの目の前には、夜明けの光を浴びて燦然と輝く教会があった。本当に見違えたもんだ……。
「あとは宣伝だけだな」
「うん。フォード、これから【歩き屋】と【声量】スキルで宣伝しながら街を回ろうってわけだね!」
「そっ、そんなことまでできるのですかっ。では、私も協力させていただきます!」
「いや、その必要はない」
「「えっ……」」
俺は【流星文字】スキルを作ると、念じることによってでかでかと輝きながら降る文字を描き出した。
『聖なんでも解決屋へようこそ! 料金はたったの銅貨1枚! 是非お越しください!』
「わおっ、なるほど、考えたもんだねえ……」
「なっ、なななっ!? す、凄すぎでしょう、これ……」
「ははっ……」
リリとは対照的なメアの慌てっぷりが面白い。この教会は丘の頂上にあるわけだし、ここからやれば凄く目立つはず。
価格が銅貨1枚なのはスラム街でやるからで、駐屯地自体がこの地区に存在しないので独占禁止法でしょっ引かれる心配もないからなんだ。というか、俺たちは別に金にそこまで困ってるわけじゃないし、稼ぐことよりも一月耐えることが目的だからな。
それに加え、教会の近くには今にも崩れそうなボロボロの民家しか見当たらないし、ライバル店に恨まれる恐れもあまりないように思う。むしろ、人々の荒んだ心を癒すことで治安が少しでも改善されれば、スラム街が活性化して喜ばれるんじゃないか。そうなれば神父だっていずれ戻ってくる可能性もあるしな。
さあ、あとはここで客が来るのを待つだけだ……。
◆◆◆
「「「「うええぇぇっ!?」」」」
鼻をつまんで顔をしかめるアッシュを筆頭に、四人の若者たちがいずれも戦慄した様子で、巨大スラム街に足を踏み入れたところであった。
「どっ……どこもかしこも死体だらけじゃねえかっ! なんだよここ、マジで人間の住むところじゃねえぞっ……!?」
「フッ、哀れな……」
「うー……パルル、おうちにかえりたーい……」
「はあぁ……死体がそこら中に放置されているなんて、ありえませんわ。なんておぞましい地区なのですこと……」
彼らが一つに固まるようにして坂道を上り始めてからほどなくして、全員が同じ方向を向くこととなる。
「「「「――あ、あれは……!」」」」
それはスラム街の頂点にある教会のほうであり、その手前で大きな輝く文字が何度も浮かび上がってきては、崩れながら降るということを繰り返していた。
「「「「……」」」」
しばらく呆然とした様子の彼らだったが、まもなくハロウドが長髪をかき上げながらクールな笑い声を上げる。
「フフッ……『聖なんでも解決屋』ですか……。しかも銅貨1枚でやるとは、フォードさんにしては考えたものです……」
「で、でもよ、ハロウドッ! あれは俺たちのパクリだし、それに独占禁止法になるに決まってるぜっ!」
「そうだよぉっ! いくらなんでも卑怯すぎるし、あんなのすぐに兵士たちにしょっ引かれるに決まってるんだからぁーっ!」
「ホホッ……フォードなんて、所詮はその程度の脳みそなのですわ。今度はわたくしたちが、不正者が連行されていくのを生温かく見守る番ですわねえ……」
「いえ、アッシュさん、パルルさん、グレイシアさん、それを言うなら最初に真似をしたのはこちらのほうですし、このスラム街には駐屯地自体が存在しないのですよ」
「「「あっ……」」」
ハロウドの冷静な突っ込みで、気まずそうに顔を見合わせる三人。
「まあ、このような危険な地区で、なおかつあれほど目立つ場所で客を集めるなど、極めてリスクの高い行為ですから、僕たちは高みの見物といきますか……」
「てかハロウドよ、それを言うなら、俺たちはまだ何も成し遂げてねえわけだし、場所的にも低みの見物じゃねえのかっ!?」
「うん……パルルもそう思うのー……」
「確かにそうですわねえ……」
「フッ……」
今度は仲間たちから突っ込まれる側になり、ハロウドが涼し気な顔を引き攣らせるのであった……。
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