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34話 聖域
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「「……」」
一瞬一瞬が、途方もなく長いと感じる。謎の人物がこっちに迫るにつれ、緊張感が高まってくるわけだが、それでも俺は上手く乗り越えられる自信があった。
それには根拠があり、俺の現在のスキル構成を見ればよくわかると思う。
【幽石誘導】【後ろ歩き】【蛇の巣】
これらは、10個あったスキルを三つに纏めたものだ。これぞ戦闘、あるいは回避用に一番適したスキルだと考えている。バラバラの状態から一瞬でこれらのスキルを作成することができたのも、これまで幾度もスキルシミュレーションを行った努力の賜物だろう。
スキル名:【幽石誘導】
効果:相手には見えない石を出現させ、念じることでコントロールできる。
まず一つ目。【降焼石】【宙文字】【輝く耳】を解体して合わせた【流星文字】に、さらに【希薄】と【視野拡大】を組み合わせることによって、この【幽石誘導】スキルを作った。広範囲に渡り、自分以外には見えない石を念の力で自由に動かせる。ただでさえ強力な上、誘導攻撃もできる優れものだ。
スキル名:【後ろ歩き】
効果:対象を後ろ歩きさせる。
次に、これは【歩き屋】と【後ろ向き】を崩して組み立てたもので、対象が後ろ歩きになる。もちろん、自分たちではなく敵に使うもので、回避用に適しているスキルだ。エルフのような知性も身体能力も高い相手だと、それならばと一気に跳躍してくる可能性が高いわけだが、こうした屋内で【幽石誘導】もセットで使えば簡単には近付いてこれないって寸法だ。
スキル名:【蛇の巣】
効果:大量の蛇が出現する。
三番目に作ったのは、【目から蛇】【声量】【正直】をバラして繋いだもので、目から蛇が一杯出てくるのは不自然という形になったらしくてこういうスキルになった。
これは出入り口とかそういう限定された場所で、強敵から逃げる際に時間稼ぎとして使えるだろう。大蛇にするという手もあったが、それだと自分たちまで狙われて収拾がつかなくなりそうだしな……。
この三つのスキルさえあれば、戦って勝つことも逃げ切ることもできると俺は確信していたんだ。
「「……」」
もうすぐ来る……。あと数歩ほどで俺たちの前に現れるだろう。
相手がもし雑魚なら【幽石誘導】だけで決着がつくだろうが、強敵なら【後ろ歩き】を掛けることも必要だろう。エルフみたいな人外が相手なら、それらをやった上でさらに【蛇の巣】で進路を妨害して全力で逃げないといけない。
どんな相手なのかはわからないが、敵だとわかった場合はどっちもやるつもりでいる。よーし、その前にまず怯ませてやるとしよう。というわけで、俺は【蛇の巣】スキルによって、柱の向こう側に大量の蛇を発生させてやった。
「――きゃああああぁっ!」
「「えっ……?」」
悲鳴が上がって、リリとともに柱からそっと様子を覗いてみると、蛇の群れの中心で白目になって倒れている修道服姿の少女がいた。シスターだったのか……。
てか、なんだこの子……。消えかかってるが、足元にぼんやりと赤い光を発している。彼女の持ってるスキルの効果なんだろうか? 蛇たちも光に弾かれるようにして近付けないでいるし、結界みたいな効果っぽいな。
「――うっ……」
あれからほどなくして、シスターの少女が目を覚ました。
「大丈夫か?」
「大丈夫かい?」
「こっ……こここっ、来ないでくださいぃっ……!」
少女が血相を変えて立ち上がると、足元から例の赤い光が浮かび上がってきた。
「落ち着いてくれ。俺たちは何もしない。本当だ!」
「そうだよ、あたしたちはここに泊りにきただけなんだっ……!」
「……と、と、泊りにきたと仰るのですか……? い、一体何故、このような危険な場所に……」
お……どうやら、リリが訴えたことで少しは落ち着いたみたいだな。そういうわけで、俺たちは事情を話すことに。
「――なるほど……。そ、それで、フォード様とリリ様は王国に試される形でこんなところへとやって来られたというのですね……」
シスターの少女の表情には、納得しつつもまだ俺たちに対する警戒の色がありありと見られた。まあ大量の蛇をプレゼントしちゃったわけだし仕方ない。
「こっちもあんたの事情を知りたい。その格好、シスターのように見えるが、この教会にはなんで人がいないんだ?」
「そうだよ。この教会、ぜんっぜん機能してないんじゃないのかい?」
「……た、多分、そちらが想像しておられる通りかと思われます。私の名はメアと申しまして、こちらで修道女として働いておりましたが、ある日神父様がならず者たちに絡まれてしまって……」
「神父が絡まれただって? 一体何故……」
「それが、貰ったスキルが気に入らないと言いがかりをつけられ、命を狙われたこともあり隠居なされたのです。それからこの教会はもう廃墟でしかなくなりました……」
「な、なるほど……」
真実かどうかはともかく、このスラム街は魔境とまで呼ばれてるだけにいかにもありえそうな話だ。
「でも、もう廃墟でしかないところだっていうのに、なんであんただけ来るんだ?」
「フォードの言う通りだよ。まさか、シスターの格好をしてるけど、それはあたしたちを油断させるためで、実は盗賊とか……」
「と、盗賊などではありませんっ! いくらなんでも無礼ですよ!? ぷんぷんっ!」
「「……」」
怒ってるっぽいけど、なんだかそうは見えない不思議な子だ。そんなメアの様子に、俺はリリと苦い笑みを向け合った。
「コホンッ……私としてはですね、こちらでずっと働いてきたので愛着が深いというのもありますが、神様に救いを求めし子羊たちがもしここへ迷い込んでくるようであれば、教会がしていないので逃げるように伝えなければと考えた次第なのです……」
少女は紅潮した顔を少し逸らしながら話しつつ、目だけを動かしてちらちらとこっちの様子を窺っていた。また蛇を出されるんじゃないかと警戒してるっぽい。
「でも、たった一人で誰もいなくなった教会に通うなんて、命が幾つあっても足りないんじゃ……?」
「確かにねえ……」
「ふっふっふ……!」
な、なんだ、急に笑い始めた。まさか、今までのが演技だったとかじゃないだろうな……。
「これをご覧くださいな……!」
ドヤ顔で立ち上がった少女の足元に赤い光が発生した。
「これは【聖域】という名称のスキルでありまして、あらゆる攻撃を受け付けなくなる効果なのです。万が一、私に対してスケベ心を起こしたところで触れることすらかないませんよ? えっへん……!」
「「おおっ……」」
なるほど、だから一人でこんなところへ来られたのか……。
「ただし、弱点も大いにあります……。これを使ってる間は、一切動けないのです。動こうとしたり、気を失ったりした場合でも解除されてしまいます。とほほ……」
「あー、それで気絶したときに光も一緒に消えたんだな。って、いいのか? メア、俺たちに弱点なんか話して」
「そうだよ、いいのかい、メア? 豹変して、また蛇を出しちゃうかもだよ……? ククッ」
「ひっ……!? そ、そそそっ、それだけはおやめになってください……!」
こりゃ相当に蛇が苦手みたいだな……。
「大丈夫だ、何もしない。俺たちはさっき話した通り、この教会に寄付することで泊らせてもらいに来ただけだから……。な、リリ?」
「そうそう!」
「……そ、そうなのですか。もちろん構いませんよ……というか、もう廃墟みたいなものですので寄付もいらないのですけど、明日でお別れしてしまうのはなんだか残念ですね。ここに一人で来ると、いつも同僚や神父様がまだ健在だった頃を思い出して心細くなるのです……」
「じゃあ、以前は治安がよかったとか?」
「そうですね。スラム街とはいえ、魔境と呼ばれるようになるまでは一応駐屯地もあったので。それが、犯罪者集団の争いに巻き込まれて潰されてしまってからというもの、治安は悪化の一途をたどり、この有様なのです。はあぁ……」
「気の毒になあ……」
「だねえ……」
俺たちは俺たちで、明日から宿探しをしなきゃいけないわけで、なんでも解決屋の拠点も探さないといけないし、お互いに大変ではある……って、待てよ? たった今、俺は凄くいい考えを思いついてしまった。これなら、あらゆることが一気に解決するぞ……。
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それには根拠があり、俺の現在のスキル構成を見ればよくわかると思う。
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これらは、10個あったスキルを三つに纏めたものだ。これぞ戦闘、あるいは回避用に一番適したスキルだと考えている。バラバラの状態から一瞬でこれらのスキルを作成することができたのも、これまで幾度もスキルシミュレーションを行った努力の賜物だろう。
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効果:相手には見えない石を出現させ、念じることでコントロールできる。
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スキル名:【後ろ歩き】
効果:対象を後ろ歩きさせる。
次に、これは【歩き屋】と【後ろ向き】を崩して組み立てたもので、対象が後ろ歩きになる。もちろん、自分たちではなく敵に使うもので、回避用に適しているスキルだ。エルフのような知性も身体能力も高い相手だと、それならばと一気に跳躍してくる可能性が高いわけだが、こうした屋内で【幽石誘導】もセットで使えば簡単には近付いてこれないって寸法だ。
スキル名:【蛇の巣】
効果:大量の蛇が出現する。
三番目に作ったのは、【目から蛇】【声量】【正直】をバラして繋いだもので、目から蛇が一杯出てくるのは不自然という形になったらしくてこういうスキルになった。
これは出入り口とかそういう限定された場所で、強敵から逃げる際に時間稼ぎとして使えるだろう。大蛇にするという手もあったが、それだと自分たちまで狙われて収拾がつかなくなりそうだしな……。
この三つのスキルさえあれば、戦って勝つことも逃げ切ることもできると俺は確信していたんだ。
「「……」」
もうすぐ来る……。あと数歩ほどで俺たちの前に現れるだろう。
相手がもし雑魚なら【幽石誘導】だけで決着がつくだろうが、強敵なら【後ろ歩き】を掛けることも必要だろう。エルフみたいな人外が相手なら、それらをやった上でさらに【蛇の巣】で進路を妨害して全力で逃げないといけない。
どんな相手なのかはわからないが、敵だとわかった場合はどっちもやるつもりでいる。よーし、その前にまず怯ませてやるとしよう。というわけで、俺は【蛇の巣】スキルによって、柱の向こう側に大量の蛇を発生させてやった。
「――きゃああああぁっ!」
「「えっ……?」」
悲鳴が上がって、リリとともに柱からそっと様子を覗いてみると、蛇の群れの中心で白目になって倒れている修道服姿の少女がいた。シスターだったのか……。
てか、なんだこの子……。消えかかってるが、足元にぼんやりと赤い光を発している。彼女の持ってるスキルの効果なんだろうか? 蛇たちも光に弾かれるようにして近付けないでいるし、結界みたいな効果っぽいな。
「――うっ……」
あれからほどなくして、シスターの少女が目を覚ました。
「大丈夫か?」
「大丈夫かい?」
「こっ……こここっ、来ないでくださいぃっ……!」
少女が血相を変えて立ち上がると、足元から例の赤い光が浮かび上がってきた。
「落ち着いてくれ。俺たちは何もしない。本当だ!」
「そうだよ、あたしたちはここに泊りにきただけなんだっ……!」
「……と、と、泊りにきたと仰るのですか……? い、一体何故、このような危険な場所に……」
お……どうやら、リリが訴えたことで少しは落ち着いたみたいだな。そういうわけで、俺たちは事情を話すことに。
「――なるほど……。そ、それで、フォード様とリリ様は王国に試される形でこんなところへとやって来られたというのですね……」
シスターの少女の表情には、納得しつつもまだ俺たちに対する警戒の色がありありと見られた。まあ大量の蛇をプレゼントしちゃったわけだし仕方ない。
「こっちもあんたの事情を知りたい。その格好、シスターのように見えるが、この教会にはなんで人がいないんだ?」
「そうだよ。この教会、ぜんっぜん機能してないんじゃないのかい?」
「……た、多分、そちらが想像しておられる通りかと思われます。私の名はメアと申しまして、こちらで修道女として働いておりましたが、ある日神父様がならず者たちに絡まれてしまって……」
「神父が絡まれただって? 一体何故……」
「それが、貰ったスキルが気に入らないと言いがかりをつけられ、命を狙われたこともあり隠居なされたのです。それからこの教会はもう廃墟でしかなくなりました……」
「な、なるほど……」
真実かどうかはともかく、このスラム街は魔境とまで呼ばれてるだけにいかにもありえそうな話だ。
「でも、もう廃墟でしかないところだっていうのに、なんであんただけ来るんだ?」
「フォードの言う通りだよ。まさか、シスターの格好をしてるけど、それはあたしたちを油断させるためで、実は盗賊とか……」
「と、盗賊などではありませんっ! いくらなんでも無礼ですよ!? ぷんぷんっ!」
「「……」」
怒ってるっぽいけど、なんだかそうは見えない不思議な子だ。そんなメアの様子に、俺はリリと苦い笑みを向け合った。
「コホンッ……私としてはですね、こちらでずっと働いてきたので愛着が深いというのもありますが、神様に救いを求めし子羊たちがもしここへ迷い込んでくるようであれば、教会がしていないので逃げるように伝えなければと考えた次第なのです……」
少女は紅潮した顔を少し逸らしながら話しつつ、目だけを動かしてちらちらとこっちの様子を窺っていた。また蛇を出されるんじゃないかと警戒してるっぽい。
「でも、たった一人で誰もいなくなった教会に通うなんて、命が幾つあっても足りないんじゃ……?」
「確かにねえ……」
「ふっふっふ……!」
な、なんだ、急に笑い始めた。まさか、今までのが演技だったとかじゃないだろうな……。
「これをご覧くださいな……!」
ドヤ顔で立ち上がった少女の足元に赤い光が発生した。
「これは【聖域】という名称のスキルでありまして、あらゆる攻撃を受け付けなくなる効果なのです。万が一、私に対してスケベ心を起こしたところで触れることすらかないませんよ? えっへん……!」
「「おおっ……」」
なるほど、だから一人でこんなところへ来られたのか……。
「ただし、弱点も大いにあります……。これを使ってる間は、一切動けないのです。動こうとしたり、気を失ったりした場合でも解除されてしまいます。とほほ……」
「あー、それで気絶したときに光も一緒に消えたんだな。って、いいのか? メア、俺たちに弱点なんか話して」
「そうだよ、いいのかい、メア? 豹変して、また蛇を出しちゃうかもだよ……? ククッ」
「ひっ……!? そ、そそそっ、それだけはおやめになってください……!」
こりゃ相当に蛇が苦手みたいだな……。
「大丈夫だ、何もしない。俺たちはさっき話した通り、この教会に寄付することで泊らせてもらいに来ただけだから……。な、リリ?」
「そうそう!」
「……そ、そうなのですか。もちろん構いませんよ……というか、もう廃墟みたいなものですので寄付もいらないのですけど、明日でお別れしてしまうのはなんだか残念ですね。ここに一人で来ると、いつも同僚や神父様がまだ健在だった頃を思い出して心細くなるのです……」
「じゃあ、以前は治安がよかったとか?」
「そうですね。スラム街とはいえ、魔境と呼ばれるようになるまでは一応駐屯地もあったので。それが、犯罪者集団の争いに巻き込まれて潰されてしまってからというもの、治安は悪化の一途をたどり、この有様なのです。はあぁ……」
「気の毒になあ……」
「だねえ……」
俺たちは俺たちで、明日から宿探しをしなきゃいけないわけで、なんでも解決屋の拠点も探さないといけないし、お互いに大変ではある……って、待てよ? たった今、俺は凄くいい考えを思いついてしまった。これなら、あらゆることが一気に解決するぞ……。
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