23 / 50
23話 笑顔
しおりを挟む「それでは、お仕事頑張ってくださいね、フォードさん、リリさん」
「あぁ、ウサリアもな」
「ウサリア、がんばだよっ!」
「はぁーいっ」
それから俺たちは昼食後、午後から『うさぎ屋』で働くことになってるウサリアと別れ、偽なんでも解決屋の被害者宅まで向かっていた。
その人物に関してはかなり目立つ特徴を持っているということもあり、情報を集め始めてすぐに住所を突き止めることができた。
アイラとかいう、短気を直すためにと【笑いのツボ】スキルを掛けられて笑いが止まらなくなった人で、彼女についても一度遠くから見たことがあって、随分と厄介そうなスキルを使われてしまったもんだと思っていた。
まもなく目的地へ到着してノックする。モイヤーの家とは打って変わって小振りな家の玄関から現れたのは、満面の笑みを浮かべた女だった。なんか、鬼の顔とは別の意味で怖いな……。
「アイラさんですよね? 実は――」
俺たちがそれまでの経緯を話すと、女は見る見る顔を赤くしていった。
「――つまり、あなたたちが真のなんでも解決屋で……ブフッ……わ、私の笑う癖を直したいってこと……!? アハァッ……アハハハハッ!」
「「……」」
俺は思わずリリと苦い笑顔を見合わせる。被害者の女はとにかく笑いが込み上げてくるのを抑え切れない様子で、こうしてる間にも喜悦の表情で失笑を漏らすほどだった。
「か、帰ってくれない!? アハハッ! 今度はどんな酷い目に遭わされるか……プププッ……わ、わかったものじゃないし……アハッ!」
女が扉を閉めようとしたところで、俺は強引に入り込む。
「なっ……!? ププッ……アハハッ! ど、泥棒でもしようっていうの!? アハハハハハッ――!」
「――10分だけでいいんです」
「……へ?」
「アイラさん……あなたは短気な性格で、すぐ怒る方だから、それを直したくてこういう目に遭ったそうで……。それなら、10分だけでもお時間をいただけないでしょうか?」
「フォッ、フォード、いくらなんでもそれは無茶だよ。たった10分で直すなんてさぁ……」
リリが慌てた様子で割り込んでくるが、俺はその頭を軽くポンと叩いた。
「大丈夫だ、リリ。10分で直せる自信が俺にはある」
「……ブフフッ、い、言うわね。アハハハァッ! だったら本当に……アハッ、10分で直してもらうからね……プププッ……でも、もし直せなかったら……」
「直せなかったら……?」
「そのときは……ププッ……」
「「……」」
短気なくせに勿体ぶるんだな、この女……。
「殺す……」
「「うぇっ!?」」
殺すって……。驚きの余り、リリと二人で素っ頓狂な声を上げてしまったじゃないか……。
「ってのは半分冗談でね……ククッ……」
「半分……?」
「そう、半分。こういう目立つ特徴が……ウププッ……私にはあるから……それを活かして、アハッ……! あなたたちの出鱈目屋が、プププッ……いかにヘボか、声高に宣言させてもらうからっ! アハハハハハッ!」
「なるほど……」
殺すっていっても普通に殺すんじゃなくて、社会的に殺すってことか。ただでさえ客が来ない状況で、こんなに目立つ人からネガティブキャンペーンなんてされたらとどめを刺されてしまうだろう。
それでもやるしかない。直せる自信もあるし、何より失った信用を回復するためには、こういった無茶な条件でやるほうがインパクトも大きくて良い宣伝になるからだ。
「フォードォ……あたしはもうどうなっても知らないよっ……!」
「リリ、大丈夫だって。俺を信じろ……」
リリが心配するのもよくわかるので、頭をわしわしと乱暴に撫でて落ち着かせてやる。さあ、仕事の始まりだ。
俺はいつものように【宙文字】で所持スキルを宙に描き出し、【希薄】によって外部の人間には見えないようにする。
【降焼石】【目から蛇】【宙文字】【希薄】【視野拡大】【正直】【輝く耳】【声量】【歩き屋】【後ろ向き】
まだ10個しかないが、【分解】スキルさえあれば事足りる。
特に今回の場合、顔に関するものなので、前回作ったスキルさえあれば解決できると踏んでいたんだ。だからこそ短い制限時間でやれると宣言したんだが、それでも万が一のこともあるので1分とかじゃなく10分という時間にしたというわけだ。
まず、【目から蛇】と【後ろ向き】を崩した上で組み合わせ、【振り返り】というスキルを作り、それを【正直】と合わせて【復元整形】を完成させ、笑う女アイラに使用する。
「……」
よし、女の表情が元に戻った――って、ダメだ、しばらくしてまた例の笑い顔になってしまった……。
これはおそらく、モイヤーの【鬼顔】のような異常性はない、すなわち元に戻すような整形を施すほどではないと判断されてるからなんだと思う。あのしつこく出てくる笑い声も笑顔と連結しているはずなので、それさえ直せばいけると思ったんだが……。
うーん、まずい展開になってきたな……。10分で直さなきゃいけないだけに残り時間が凄く気になるが、時計を見ている時間さえ惜しいので、切り替えて別の方法を考えよう。
異常に対しては矯正が効果的だが、そこまでではないものには別の手段が必要だってことだ。考えろ、俺。もう時間がない……。
矯正とまではいかなくても、直すことに変わりはない。異常ってほどでもないものを直すには、一体どうしたら――って、そうだ。
【復元整形】と【希薄】を【分解】してつなぎ合わせると、【表情安定】という、偏った表情を元に戻す効果のスキルになった。
「――さあ、出鱈目屋、そろそろ10分経つし、観念する頃だよ……って、あれ? 笑い声が出ない……?」
「アイラさん、鏡を見てほしい。過剰な笑顔が消えた結果、笑い声も出なくなったはずだし、表情が安定することで心も少しは落ち着くようになると思う」
アイラは鏡を見て、驚愕の表情を浮かべてみせたが、【表情安定】の効果かすぐに元に戻った。
「……す、すごっ……! そんなところまで直してくれるなんて思わなかった……。神だ、あなた神様だよ……!」
「「あはは……」」
出鱈目屋から神様に昇格しちゃったか。とんでもない持ち上げように、俺とリリはいかにも苦い笑みを向け合う。今やアイラは嗚咽を上げながら泣き始めてるし、本当に顔に喜怒哀楽が出やすい人なんだろう。【表情安定】が効いてるためか涙ぐむ程度だが。
「私の家はご覧の通り、お金持ちじゃないから銅貨10枚くらいしか出せないけど、許して頂戴ね。その代わり顔はそこそこ広いほうだから、あなたたちについての良い噂をたっぷり流して、評判を上げておくわね……!」
「「おおっ……!」」
俺たちは弾むような明るい顔を見合わせた。きっと、元に戻る前のアイラも顔負けするほどの笑顔に見えたに違いない……。
17
お気に入りに追加
1,689
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる