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17話 鬼

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「うおおおおおおおぉぉっ! さあ、客どもぉっ、とっとと来やがれってんだ、軍師ハロウドのなんでも解決屋あぁっ! その値段、聞いて驚けえっ……! なんとおおぉ……たったの銅貨1枚だぜえええぇぇぇっ!」

 商店街の一角にて、アッシュの威勢のいい叫び声が響き渡る中、彼らの前には長蛇の列が出来上がりつつあった。

「フフッ……フォードさんたちも見学しに来たようですし、今のところ僕の計画通りに事が運んでますねえ……」

 ハロウドが長髪を掻き分けながらほくそ笑む一方、パルルとグレイシアは彼のほうを不満げな表情で見つめていた。

「パルルはねえ、もっとお値段を上げるべきだって思うのー……」

「パルルの言う通りですわ。ハロウド、これは一体どういうことですの? 銅貨1枚なんて、廉価にもほどがありますわ……」

「落ち着いてください、パルルさん、グレイシアさん……。これには、僕なりのちゃんとした考えというものがあるのですよ……」

 凄みのある笑みを浮かべつつ話を続けるハロウド。

「まず、これ以上ない安価として銅貨一枚を提示することで、フォードさんから客を奪うことができます。今日一日だけ我慢して、そこから少しずつ値上げしていけばいいだけのことなのです……」

「「「さすが軍師……」」」

「フフッ……さあ、とくと見せつけてあげるとしましょう。真のなんでも解決屋というものを……!」

「「「おおーっ!」」」

 大いに盛り上がる面々に対し、最前列にいた一人の客が不満そうに声を上げる。

「まだかなぁ? 早くしてくれよ……」

「あぁっ!? おいお前、喧嘩売ってんのかあぁっ!?」

「パルルたちに喧嘩売ってんのー!?」

「相手になりますわよ……?」

「そっ、それが客に対する物言いなのかぁっ……!?」

 アッシュ、パルル、グレイシアの三人に凄まれ、客の男も負けじと真っ赤な顔で反抗する中、その間にハロウドが割って入る。

「まあまあ、みなさん、大事なお客さんですから丁重に」

「ハロウド、いくら客だからってよー、こっちはたった銅貨1枚で商売してんだ。これで文句言うようなやつはぶん殴ってでも追い払うべきだろ?」

「パルルもそう思うのー」

「わたくしも同感ですことよ。無礼な客は神様ではなく、悪魔として退治するべきですわ……」

「とりあえず、今は多勢に無勢ですから慎重に。まずは実績を積み重ねていき、固定ファンがついたころで、アンチ的な客……すなわちクレーマーを追放すればよいのですよ。フフッ……」

「「「なるほど……」」」

「解決してくんないなら、もう帰っていいかなあ?」

「「「あ――?」」」

「――はいはい、みなさん落ち着いて。それで、お客さんは一体何に困っておられるんでしょうかね……?」

 詰め寄りそうなメンバーを制止しつつ、ハロウドが引き攣った笑みを浮かべながら客に訊ねる。

「おいら、この通り顔が悪いせいかモテなくてな……。んで、モテるためにはどうすりゃいいのか、教えてくんないかなあって……」

「なるほどなあ。よしっ、まず俺からアドバイスさせてもらうぜ。お前のどうしようもない面なら、とっととくたばって転生待ちがいいんじゃね……?」

「きゃははっ! パルルもね、それがベストだと思うのー!」

「なんなら、ここで殺してあげますわよ……?」

「な、なななっ、なんて無礼な連中なんだあぁっ! おいらもう帰る――」

「――ちょ、ちょっと待ってください! みなさん、気持ちはわかりますがね、そういう失礼なことは言わないように……」

「「「うい……」」」

「では、僕があなたの顔をなんとかしてあげます」

「おっ、助かるよ。頼むうぅ……。イケメンとまではいかなくても、ほんのちょっと男前程度になれたら、おいらそれだけで満足だから贅沢は言わないつもりだぁ……」

「ふむふむ、なるほど、そうですか……」

 ハロウドが拾ったスキル群について記した紙を見やり、まもなく一つのスキルに目をつけた。

 スキル名:【鬼顔】
 効果:鬼のような顔つきになる。

「そうですねぇ……顔に関するスキルはこれくらいですが、まあないよりはマシですかね。これを試してみましょう」

 ハロウドが自身の額に手をやり、【魔術】と【鬼顔】を封じた神授石を入れ替え、客に使用してみせた。すると、男の顔は見る見る恐ろしい顔つきに変わっていった。

「うおおっ! いいじゃんいいじゃん、お前格好いいぜ!」

「イケメンッ! 抱いてー!」

「ホ、ホホッ……これはまた随分と怖い……いえ、素敵な顔ですわねえ……」

「み、みなさん、あんまり褒めると本気にしますよ……」

 ハロウドがいかにも申し訳なさそうに呟くほど、客の顔は誰が見ても竦み上がるような形相をしていた。

「か、格好いいって、マジかっ? そんなこと言われるの、おいら産まれて初めてだぁ……。よっしゃー! それじゃあ、今から片思いの子に告白してくるよぉ! これはサービスだぁっ!」

「「「「……」」」」

 去り際に客から銅貨10枚を受け取り、呆れたような笑みを向け合うハロウドたちであった……。



 ◆◆◆



「はあぁ……。上手く出し抜かれちゃったもんだよ。フォード、あたしたちこれからどうなっちゃうんだろうねえ……」

 紛い物のなんでも解決屋の様子を眺めてたら、リリが落胆した様子でうずくまってしまった。

「どうなるって……大丈夫だろ」

「え……ええぇっ!? そんなに余裕こいちゃって大丈夫なのかい……? ライバルは銅貨1枚で、これ以上安くしようがないじゃないし、その上すぐに解決しちゃってるし……これじゃ、あたしらの商売あがったりだよ……」

「リリ……落ち着け。あれが本当に解決してるように見えるか?」

「へ……?」

 ぽかんと口を開けるリリ。まあ表面的には解決してるように見えるだろうからわからないのかもしれないが、あいつらは俺たちから客を奪ってすぐに成果を出すことに必死で、に気付いていない。

「まあとにかく見てなって」

「あい……」

 やつらは今頃さぞかしいい気分なんだろうが、あんなやり方じゃ絶対に長続きはしない。いずれ必ずボロを出すことになる……。
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