4 / 50
4話 拾い物
しおりを挟む「うぐぐ……」
「……」
教会近くにいる謎の人物にある程度近付いたところで、唸るような声が俺の耳に届いた。
な、なんだ? 何かヤバいスキルでも発動してるのか……? っていうか、例のやつはうずくまったまま動こうとしない。後ろから見た感じ、所々破れたズボンや上着を纏っていて髪は短くもないし長くもない、声は中性的で性別すらも判別できないが、とても小柄だしまだ子供なのはわかる。
「おい、大丈夫か?」
怪我や病気かもしれないので、一応声をかけてみる。
甘いと思われるかもしれないが、一方的にスキルで追い払うなんてことになったら後味が悪いってだけの話で、助けるつもりはまったくないんだ。戦うことはリスクを背負うことでもあるし、避けられるのであればそれに越したことはない。
「だ、誰だい……?」
その子は、苦みや驚きの成分に加え、泥臭さも加味したなんともいえない顔で振り返ってきた。まだこの段階では少年か少女なのかもよくわからない感じだが、とても綺麗な顔立ちをしている。
「俺はわけあって神授石を拾いにきたんだ。あんたもか……?」
「へえ……。そんじゃ、ライバルってやつだね。追い払いたいところだけど、もうあたしは動けないよ……」
「……」
あたし、か。服も顔も泥で汚れてるし言葉も荒んでるけど、どうやら女の子みたいだな。ただ、まだまだ油断はできない。もう動けないと思わせて、隙を見て襲い掛かる腹積もりかもしれないからだ。なので一応距離は取らせてもらう。
凶悪な犯罪者の中には若い子もいるみたいだし、どんな危険なスキルを持っているのかわかったもんじゃないからな。一応【分解】で分析して調べることはできるが、俺のスキルだと触れるほど近付く必要があるんだ。
「なんで動けないんだ? 病気か……?」
「……そうだよ。お腹ペコペコ病ってやつ……。あたしは小さい頃に親に捨てられて孤児院にいたんだけどねえ、最近になってそこから抜け出してきたんだよ。戻れば助かるかもしれないけど、今更あんなところに戻るつもりもないのさ……」
「……」
孤児か……なるほどな。大体事情が読めてきた。
「あれか……お仕置きかなんかされて、抜け出して神授石を拾って金稼ぎしうようとしたけど、腹が減りすぎて動けなくなったってことか」
「あははっ……。あたしが言いたいこと、全部言われちゃったよ。ま、そんなとこだね。あの孤児院の酷さは、お仕置きなんて言葉が可愛いって感じるくらいの代物だけどさ……」
「そんなに荒れてるのか……」
一度、冒険者ギルドで噂になってるのを俺は聞いたことがあって、最近院長が交代してから虐待が常態化して、子供たちが次々と抜け出してるなんて囁かれてたが、本当だったんだな。
「今までだって、少しでも口答えしようもんなら一日水だけなんてことはざらにあったんだけどさ……今じゃもっと厳しくなって、水すらも与えなくて体罰のおまけつきさ……」
「酷いな……」
最早、お仕置きどころか虐待の域すらも超えてしまっているように思う。これでは抜け出すのも無理はないだろう。
「あー、目眩がする……。目を瞑ってもグルグルが止まらないし、もうそろそろくたばりそうだよ。せめて来世は、もう少し食える家に産まれたいもんだねえ……」
「……」
倒れるようにして地べたで大の字になって、恨めしそうな笑みを空に向ける少女の姿は、どこを取っても薄汚いように見えて何故だか美しく感じた。ありのままの姿を曝け出してるからなのかもな。
「――あ、そうだ。あたしの集めた神授石、よかったらあんたに売るよ」
「おー……もう諦めてるとばかり思ってたが……」
「最後のあがきってやつだよ。ラストチャンスッ」
「よし、見せてくれ」
「あいよ」
俺は少女から神授石を八つ受け取ったが、まだ中身を調べるつもりはなかった。これだけあれば【分解】スキルで弄ればどうにでもなるだろうしな。
「で、いくらで買い取ってくれるんだい……?」
「物々交換で頼む」
「へ?」
「飯奢ってやる。それでいいだろ」
「マ……マジかいっ……!?」
少女の泥まみれの顔が輝く。
「……ってえ、まさかそのあと、あたしの体を美味しくいただこうってんじゃないだろうねえ?」
「ん、ダメか?」
「べっ……別にいいけどさ、多分満足してもらえないって思うよ。あたしこれでも15歳なんだけど、そういうのって初めてだし、ご覧の通り薄汚いし、それに栄養も足りてなくて胸も出っ張ってないしガキみたいな体だもん……」
「安心しろ。成熟するまで待ってやるから」
「お、サンキュー――って、別にさ、あんたがロリコン野郎なら、痩せ我慢せずにやってもいいって……!」
「こいつ」
「イテッ」
生意気な彼女の頭を軽く小突いてやると、いかにも気まずそうに舌を出された。
「ご、ごめんよ。ロリコン野郎扱いして……」
「もういいって。お前、名前はなんていうんだ?」
「あたしはね、リリっていうんだ。あんたは?」
「俺の名はフォードだ。よろしくな」
「よろぉー! って、これじゃあさ、なんだか友達になったみたいだねえ」
「ん、別に減るもんじゃないし友達でもいいだろ。かなり凸凹な感じだけどな」
「あははっ。違いないねえ。これじゃ、ご主人様と奴隷にしか見えないよ……」
「よし、じゃあそれ採用するか?」
「えぇー!?」
俺たちはなんとも苦々しく笑い合った。神授石を拾いにここまで来たわけなんだけど、もしかしたらもっといいものを拾えたのかもしれない……。
66
お気に入りに追加
1,689
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる