ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

文字の大きさ
上 下
47 / 50
第二章 牙を剥く皇帝

しおりを挟む

「あ……」

 朝の気配を感じて目覚めると、懐かしい天井が俺を出迎えてきた。間違いない。ここは《ハーミット》の宿舎だ。天井まで蔦が伸びてきてるし色褪せてるし《エンペラー》の宿舎と比べるとボロだが温かみと味がある。お、扉がノックされてる。誰だろう?

「ウォールどの、入っていいだろうか?」
「シュルヒ……? あ、うん、いいよ」

 シュルヒが入ってきたわけだが、すっかりいつもの彼女に戻っている。

「よく眠れたか?」
「うん、びっくりするくらい……」

 俺は上体を起こすも、体は何故だかだるかった。頭も重い感じがするし多分風邪なんだろうけど、普通に会話もできるしそこまで酷くないはずだ。

「そうか、それならばよかった。例の発作のほうは……?」
「それも問題ないよ。それにしても俺、シュルヒの足手纏いになっちゃったな。協力するとか言っておきながら……」
「いや、どっちみち無謀すぎたのだ。こうして無事でいてくれて、それだけが救いだ……」
「「……」」

 なんだか妙な空気になって照れ臭くなる。お互いに何か口にするのを待ってしまうような感じだ。

「ああいうことがあって、ウォールどのを救うのが先だと感じた。それに、あの発作を一刻も早く完治させねば大変なことになる……」
「それってどういうこと……?」
「強すぎるアビリティの中には、人格が入れ替わってしまうほど強い副作用があると元リーダーから聞いたことがある。放置すれば徐々に本来の人格さえも失っていき、いずれは別人になってしまう可能性が高いとのことだ」
「……なるほど、それで盗みたくなる間隔が少しずつ短くなってきてるのか……」

 今やなんでも無差別に盗もうとする別人格のほうが強くなってる感じさえあるしな。しかしシュルヒの顔が浮かない。どうしたんだろう。

「シュルヒ?」
「あ、すまない。例の殺人鬼の正体がわかったのだ」
「え、誰だったんだ?」
「……リリアどのが、吐き気を堪えながらもみんなの前で話してくれた。向かってきた小舟にはらしい」
「そ、それって、まさか……」
「グルーノどのの可能性が高そうだが、彼はそんなことをするような男ではないのだ。ゆえに信じられなくて……」
「シュルヒ……」

 犯人が誰なのかはもう明らかなわけだが、それでも疑ってしまうほどグルーノの人柄が良いってことなんだろう。確かに直に話したときは俺も悪いやつじゃないと感じた。

 となると、自分みたいにアビリティの副作用が原因なのかもしれないな。【仄身】という姿を隠す効果のアビリティなだけあって、副作用が出る際に自覚すらも消えてしまうタイプだと考えれば納得できる。

「副作用が原因なんだよ、きっと……」
「……信じたくないが、グルーノどのが犯人だと仮定するなら副作用が原因だと自分も思う」
「……厄介だな。アビリティの副作用っていうのは……」
「うむ……。とにかく、まずはウォールどのをなんとかするのが先決だ。人によって克服する方法は様々らしいが、元リーダーのアビリティ【慧眼】なら突き止められるはず。なのでこれから一緒に隠居したあの人の元へ行こう。ダリルどの、リリアどの、ロッカどのからも許可は得てあるのだ」
「……」

 あれ、部屋の中がグルグル回ってるし、シュルヒが分身してる。眩暈か……。

「ウォールどの!?」

 俺は気付くとうずくまってしまっていて、シュルヒに額を触られる感覚がした。

「……凄い熱だ。今日はもうゆっくり休んでいたほうがいい」
「……大したことないと思ったんだけどな。迷惑、かけっぱなしだ、俺って……」
「そんなことはない。自分のほうこそウォールどのには助けられてばかりだ。貴殿のおかげで自分は昔を思い出した。アリーシャがいた頃の温かみを思い出させてくれたのはそなただ……」
「シュルヒ……」



 ※※※



「お、おいアレ見ろ!」
「シュルヒ様がいないぞ!」
「ウォールっていう最近入った子も見ないわよ!?」

 いつものように、《エンペラー》の宿舎前は多くの野次馬で賑わっていた。

「――お、おい見ろよ、ルーネ。やつがいない……!」
「……本当だ!」

 バルコニーを指差すセインとルーネ。そこにウォールの姿はなく、それまでどんよりとしていた二人の顔が見る見る明るくなっていく。

「あいつがヘマやって追放されたとかならいいんだけどなあ」
「そうだといいけど……あ、リーダーのバジルさんが立ち上がってこっちに手を振ってるよ! 素敵……」
「おいおい……」

 ルーネのものを含めて黄色い歓声が上がる中、バジルが何か言いたそうに咳払いしたので周囲が一気に静まり返っていく。これは彼が何か宣言する際に決まってやる合図のようなもので、頻繁に訪れる群衆たちもそのことをよく知っていたのである。

「みなさんには残念なお知らせかもしれません。シュルヒさんと新人のウォールさんは残念ながらパーティーを抜けることとなりました。お互いの意見の食い違いが生じたためです。悔いは残りますが、仕方のないことでもあります。なので、みなさん……くっ……決して彼らを非難なさらないようにお願いします……」

 一瞬周囲がざわめいたあと、大歓声が沸き起こった。

「さすがリーダーのバジル様、器の広いお方!」
「抜けたやつは恩知らずだ!」
「「「そうだそうだっ!」」」
「俺を代わりに入れてください!」
「私でよければー!」

 周囲が盛り上がる中、顔を見合わせてニヤリと笑うセインとルーネ。

「これで……いつでも手出しができるってわけだな」
「そうね……やられる前にやらなきゃ」
「そうと決まったら、ギルドへ行って情報集めといこうぜ!」
「……」
「ルーネ?」
「あ、なんでもない。。でももうなんともないみたい」
「そうか、行こうぜ!」
「うんっ!」

 上気した顔の二人は興奮冷めやらぬ様子で、野次馬を掻き分けるようにしてギルドへと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ギフト【ズッコケ】の軽剣士は「もうウンザリだ」と追放されるが、実はズッコケる度に幸運が舞い込むギフトだった。一方、敵意を向けた者達は秒で

竹井ゴールド
ファンタジー
 軽剣士のギフトは【ズッコケ】だった。  その為、本当にズッコケる。  何もないところや魔物を発見して奇襲する時も。  遂には仲間達からも見放され・・・ 【2023/1/19、出版申請、2/3、慰めメール】 【2023/1/28、24hポイント2万5900pt突破】 【2023/2/3、お気に入り数620突破】 【2023/2/10、出版申請(2回目)、3/9、慰めメール】 【2023/3/4、出版申請(3回目)】 【未完】

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...