ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

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第二章 牙を剥く皇帝

打開策

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「やめてくれよ、ルーネ。頼むからカーテン開けないでくれよ……」

 ルーネがカーテンを開けたことで部屋が明るくなり、ベッドで毛布を頭まで被って震えるセイン。

「セインったら……もう寝ちゃうつもり? まだ夕方にもなってないでしょ! 三階層くらいとっとと攻略しなきゃ!」
「……あ、頭いてえんだよ……だから今日はもう――」
「――あいつが原因?」
「……」
「答えて!」

 毛布を勢いよく剥ぎ取るルーネ。明らかに動揺した様子のセインを見て、彼女は溜息をついた。

「やっぱりそうなのね……」
「わ、悪いかよ……てか、ルーネはウォールのやつが怖くねえのかっ!? なんでお前はこんなときにダンジョンなんかに行く気分になれるんだよ!?」

 セインが声を荒げると、ルーネは首を左右に振って彼の隣に座った。

「……ルーネ?」
「セイン……」

 ルーネがセインの肩に寄り掛かる。

「そりゃあたしだって怖いよ。セインから色々聞いたしね。ウォールがラブラブのあたしたちに嫉妬して逆恨みしてるってこと。でも……」
「でも……?」
「報復するつもりならとっくに来てるでしょ?」
「……あ……」

 はっとした顔になるセイン。この宿舎は当然だがウォールも使っていたので、ルーネの言う通り来ようと思えばいつでも来られるはずなのだ。

「あたしの言いたいこと、わかった? 要するに《エンペラー》に入ったことでまったく眼中に入らなくなったんだと思うの。今やあいつにとってあたしたちなんか視界の外なんだよ。むかつくけどね」
「……そ、それはそうかもしれねえけどよ……やつが俺たちに悪い感情を持ってるのは確かなんだし、もしダンジョンとかでばったり遭遇しちまったら……」
「だったらあたしたちのほうから仕掛けちゃえばいいのよ。向こうもまさかこっちから来るなんて思ってないだろうし、セインとあたしの力を合わせたら一瞬で終わらせられると思う。そしたらいちいち心配する必要もなくなるでしょ?」
「おいおい……ルーネ、正気か? あの《エンペラー》に喧嘩を売るつもりなのかよ……?」
「違う違う。あそこは入れ替わりが激しいみたいだし、ウォールがパーティーを抜けたってことがわかってからやるのよ」
「な、なるほどな……。でもどうやって調べるんだ?」
「《エンペラー》はいつも朝になるとメンバー全員揃って食事会みたいなことしてるみたいだし、そこにあいつがいなきゃほぼ確定じゃない?」
「それいいな……。そりゃいい考えだ。たまに遠くから確認すりゃいいだけだしな!」

 セインがニヤリと笑う。

「セインったら、もう元気になっちゃって。頭が痛いんじゃなかったのー?」
「む、昔から病は気からっていうだろ?」
「きゃっ……」

 ルーネを押し倒すセイン。

「みなぎってきたぜえぇ……」
「やーん……でもダンジョンのために体力余らせたいし、一回だけだからねっ」
「はっ、好きなくせに……わかってらあっ!」



 ※※※



「面倒なことに巻き込ませてしまって申し訳ない、ウォールどの……」
「えっ……」

 これから二人でダンジョンの四階層へ行こうと《エンペラー》の宿舎を出たわけだが、いきなりシュルヒに謝られた。

「いやいや、これは俺なりに考えて自分の意思で決めたことだから。それに、あいつらの反応を見たら正解だったって確信したよ」
「やはり強いな、ウォールどのは」
「……そ、そうかな?」
「うむ。あそこまで侮辱されても冷静に対処していた。怒りに身を任せていた自分とは違って。貴殿はきっとこれまで、様々な辛い経験を乗り越えてこられたのではないかとお見受けする……」
「んー……確かにそういうのはあったけど、それはシュルヒだって同じことだろ? 一人だけならこうはいかなかったと思う。月並みな言い方だけど、守りたいものがあると人は自然に強くなるんじゃないかな……」

 あ……俺、もしかしたら結構恥ずかしいことを言っちゃったかもしれない。守りたいものって、恋人じゃあるまいし。

「ま、守ってくれてありがとう」
「ど、どういたしまして……」
「「……」」

 なんとも気まずい空気が漂う。ん? シュルヒがそれまで照れたような顔だったのが、急にむっとしたような表情になった。勝手に恋人扱いされたと思って怒ったんだろうか……?

「ウォールどの、何者かに覗かれている」
「え……?」

 まさか、ダリルたちなのか……?『視野拡大』スキルを使って確認しようかとも思ったがやめた。もし彼らだったら、こういう状況なので俺は頼りたくなってしまうかもしれない。でもそれだとあまりにも都合が良すぎるし、彼らをこんな危険なことに巻き込むわけにもいかない。

「シュルヒ、一旦ここを離れよう」
「あっ……」

 俺は【神速】を使い、彼女の手を引っ張って王都の薄暗い路地裏を走り出した。これなら誰だろうと絶対追いつけないだろうし、容易に撒くこともできるはずだからだ。

 行き交う人々や建物をあっという間に置き去りにしながら、俺たちは猛スピードである程度離れてからしばらく周辺を彷徨っていた。
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