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第二章 牙を剥く皇帝

カミングアウト

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「それで、話というのはなんですかね? シュルヒさん」
「眠いんだから早くしてくれよ。ったくよお……」
「ふん、迷惑至極というもの」

 会議室にて、不満げなバジル、エドナー、レギンスの三人に向かって丁寧に頭を下げるシュルヒ。俺は彼女の考えに同調する形でここまでついてきていた。

「……わざわざこうして集まってもらって申し訳ない。もう一度だけお願いしたいのだ。頼む、真犯人をみんなで退治しよう。この通りだっ……!」
「俺もからもお願いしたい」
「「「……」」」

 涙目でひざまずくシュルヒと、それを隣で真似した俺の行動に驚いたのか三人は黙り込んだ。


 四階層っていう浅い階層での無差別殺戮はダリルたちにも危害が及ぶ可能性だってあるし、シュルヒの話を聞いて俺は尚更彼女に協力したくなったんだ。

「おやおや……ウォールさんまで同じ気持ちなのですか」
「……はい。新人の俺が言うのは生意気かもしれないけど、過去にもこうした凶行で仲間を失った経験がおありなら、リーダーも――」
「――やれやれ……」

 心底呆れ返ったようなバジルの声が俺の言葉を封じ込める。

「シュルヒさん、過去の事件を彼に話してしまったのですか。余計なことを……。あれはかつて組んでいた者たちの目撃証言から、Bランクアビリティ【闘志】の副作用で、戦いがない状態が長引いたことで暴れ狂った男が起こした、不幸な事件としてもう終わったことでしょうに」
「いや、終わってはいない! これからもああいう悲劇が繰り返されると考えたら放ってはおけない……!」
「それで……? 無暗にそうした事件に関わって新たに犠牲者が出てしまったら、あなたはどう責任を取るおつもりなのですか……?」
「そうだそうだっ! 雑魚どもの醜い争いなんて放っておけよ!」
「ふっ、エドナーの言う通りだ。むしろ価値のないゴミが勝手に減って助かるというもの……」
「……そんなに……そんなに効率が大事だというのか。アリーシャが今生きていたら、この現状を知ってどんなに悲しむだろうな……」

 シュルヒの言葉で、それまで困惑気味だったバジルの表情が見る見る険しくなっていく。

「随分と馬鹿げたことを仰いますね。もうアリーシャはこの世に存在しない……それが現実なのです。私はあれから生まれ変わりました。絶対的に強くなり、仲間を守ってみせると。しかし、見ず知らずの冒険者を守るために強くなったわけではありませんよ」
「それでアリーシャが喜ぶとでも――」
「――まだ言うつもりですか……この愚か者めがあぁっ!」

 バジルの怒声がこだます。正直、今の心臓に悪かった……。

「これ以上私を不快にさせるつもりであればこちらにも考えがあります。そうでないなら勝手にやればよろしいでしょう。その際はパーティーを抜けていただきますがね」
「……わかった、抜ける。元々そのつもりだった」
「ウォールさんもですかね?」
「はい」
「……仕方ありませんね。しかし、今度会ったときは敵同士になると思われたほうがよろしいですよ? 老婆心ながら申し上げます」

 穏やかな口調は今までとほぼ変わらないが、バジルが明らかに敵意を向けているのはわかる。

「あ、そうそう。知ってたかー? お前だよお前、間抜け」
「……え?」

 エドナーの小馬鹿にしたような視線は俺のほうにあった。

「今日ダンジョンに行ったよな? あそこが最深の三一階層って言ったけどよ、ありゃ大嘘だ。お前の力を試すために六階層に連れていってやったのよ。驚いたか? 信用もない新人なんかをいきなり最深階層まで連れていくわけねえだろー? あの単純なギミックもみーんな知ってたってわけ」
「……」

 なるほど、やはりそうだったか。確かに、未だ誰も攻略していないという三一階層にしては簡単すぎる仕掛けだったしな。新人の力を試すという言い分はわかるが、それを隠すわけだから馬鹿にされてるみたいで良い気分はしない。このパーティー、俺が思ってるよりずっと陰湿だった。シュルヒがあんなに浮かない表情だったのもうなずける。

「ま、大方予想してたけどね」
「は……?」

 エドナー、面食らった顔をしてる。俺が全然動揺した顔をしてなかったというのもあるんだろう。そうしようかとも思ったが、もうその必要もなさそうだしな。

「おいウォール、お前泥棒のくせに大物感出しまくっててうざいんだよ。今度会ったら覚悟しとけよ」
「え……」

 俺は普通に接していたつもりだったが傲慢に見えたらしい。

「ふっ……エドナーよ、奇遇だな。我もそう思っていた。今すぐここで叩き潰してやってもいいくらいだ」

 レギンスまで乗っかってきて緊迫感が増してくる。これにリーダーまでもが賛同したら戦いは避けられそうにない……。

「まあまあ、二人とも。一応さっきまでは仲間だったのですから大目に見てあげようではありませんか。次に遭遇したときは、私もさすがに容赦はしませんがねえ……」
「それはこちらとて同じこと。行こう、ウォールどの」
「あ、うん――」
「――そうそう、言い忘れていました」

 バジルの声で俺はシュルヒとともに振り返った。

「追い出したグルーノさんもそちらの仲間に引き入れてはどうですか? そのほうがこちらとしてはまとめて処分できるので楽なのですよ」
「……なんだと? さっきまでの仲間に対して、礼儀知らずにもほどが――」
「――シュルヒ、やめよう……」

 俺は激昂した様子のシュルヒをなんとか制止する。

「し、しかし……」
「ここでやり合ったら相手の思うツボだよ。我慢するんだ」
「くっ……!」

 シュルヒの肩が怒りのあまりか震えてるのがわかる。俺はバジルたちに頭を下げた。

「まあ、そこにいるケダモノと違って、ウォールさんはまだ人間ができているようですねえ」
「俺……今のあんたたちを見て、完全に吹っ切れたよ。《エンペラー》に未練はまったくない。今まで本当にありがとう。さよなら」

 俺の淡々とした台詞に対し、バジルたちはいずれも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。挑発と感謝の言葉を織り交ぜて相手に怒る余地を与えない。これがインテリジェンスってやつなのかどうかはともかく、今の俺にはベストな選択のように思えた。
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