ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

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第二章 牙を剥く皇帝

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「「「……」」」

 パーティー《エンペラー》の宿舎から少し離れた路地裏にて、《ハーミット》の三人が神妙な様子で同じ方向を見上げていたが、まもなくリリアが呆れ顔で首を左右に振った。

「ダリル……あたしたちいつまでこんなことをしなきゃいけないの? これじゃ留守を狙うコソ泥みたいじゃない……!」
「コソ泥ぉ? なんだかわくわくしてきちゃった……」
「ロッカったらいつの間にか元に戻ってるし、わくわくしてきたって……本当に泥棒になってどうするのよ! 脱がすわよ!?」
「や、やだぁ……」
「リリア……確かに盗っ人に見えるかもしれないけど、今は我慢のときなんだよ。ウォール君が一人で出てきたときがチャンスだ。根気強く待つしか……あ……」

 ダリルがはっとした顔になる。

「ど、どうしたのよ?」
「どうしたのぉ?」
「あ、あそこに……」

 ダリルが指差した場所は宿舎三階の窓辺で、ウォールと仲間の女が抱き合う姿だった。

「な、何よウォールのやつ! あたしたちがこんなに心配してるのに仲間といちゃつくなんて!」
「リリア……ウォール君の性格はよく知ってるだろう。積極的にそういうことをするタイプじゃないって……」
「そ、そんなのわかってるわよ! でも、実際にああしてるじゃないの!」
「んーん……私には、ウォールお兄ちゃんが泣いてる女の人を慰めてるだけのように見えるけどぉ……」
「の、呑気なこと言わないでよ!」
「いや、リリア。僕にもそう見えるよ。大体、本当にいちゃつくつもりならわざわざ窓際なんて選ばないだろうしね」
「う……まあそれもそうね。じゃあ、あの女に何かあったってこと……?」
「充分、ありうることだよ。最強パーティー《エンペラー》の悩みなんて、あるとしたらそれこそ人間関係くらいだろうし……」
「じゃあ、あたしたちにもまだチャンスはあるってことね! それにしてもあの女、いつまで図々しくあたしたちのウォールに抱き付いてんのよ! 大体、あんなサービス精神の欠片もなさそうな女、どこがいいっていうの!?」
「んー、リリアはサービスしすぎじゃないかな?」
「私もそう思うのぉ」
「えー!? てか、ロッカまで同意してんじゃないわよ! もう脱がすっ!」
「ひぇーっ!」



 ※※※



「もう、逃さない。セイン、ルーネ……」
「わ……悪かった! 助けてくれよ、なあ……」
「ごめん、ウォール。あたしたちが悪かったから……」

 じわじわと迫ってくるウォールに対し、セインとルーネが壁際まで追い詰められていた。

「だ、誰か助けてくれー!」
「クククッ……そんなに怖いのか? ノーアビリティの俺が……」
「あっ……」

 壁に背中を預けながらはっとした顔になるセイン。

(……そ、そうだ。ウォール、こいつはノーアビリティだ。なんでこんな無能を恐れる必要がある? 怖くねえ。こんな糞野郎、怖くもなんともねえっ……!)

 セインが反撃に転じ、目前まで迫った男の腹部に短剣を深く埋め込む。

「……へ、へへっ……やっぱりだ。俺がノーアビリティなんかに負けるわけねえ……!」
「セ、セイン、それ……違う……」
「……へ?」

 ルーネに指摘されたセインが男のほうを見るとそれはウォールではなく、いつだったか彼に殺されたはずの大男であった。

「……な……なっ……?」
「ククッ……俺はここだ、ここにいるぞ……」
「どっ、どこだっ!? 出てこい! ノーアビリティの分際で! この俺がぶっ殺してやる!」
「ククッ……」
「どこだ! 出てこい糞野郎っ!」

 ウォールの声が聞こえてくるものの姿は見えず、闇雲に短剣を振り回すセイン。

「うっ……」
「……え?」

 気が付くと、彼はルーネの胸部を刺して返り血を浴びていた。

「あっ……あああっ……! ルーネ……ルーネエエェェッ――」
「――セイン?」
「はっ……」

 起き上がるセイン。そこはいつもの自分たちの宿舎内であった。

「だ、大丈夫? 凄い汗だよ。かなり魘されてたみたい……」
「……はぁ、はぁ……だ、大丈夫、大丈夫だ……」

 セインは強がったものの、心底見下していたウォールが《エンペラー》に入ったのは紛れもない現実であり、悪夢から覚めた気はまったくしなかったのである。

(チックショウ……なんであいつが……ノーアビリティのウォールなんかが最強パーティーの《エンペラー》に入れたんだ……? まさか……いや、でも何か凄いアビリティを得たからとしか思えねえ。だとすると……ひっ……)

 悪夢の内容を思い出し、真っ青になってうずくまるセイン。

「セイン……? どうしたの――」
「――うっ、うごえぇぇっ……!」
「ちょ、ちょっとぉ! ベッドの上なのにぃ!」

 ルーネがベッドから逃げるように転げ落ちる中、セインは大いに吐き続けていた。
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