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第二章 牙を剥く皇帝

人間味

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「……」

 俺は自室の天井をぼんやりと眺めていた。

 史上最強パーティー《エンペラー》に見えた思わぬ綻び。なのに不思議と安心感みたいなものがあるのは、それだけ今までが完璧すぎたというか、人間味のようなものが薄かったからなのかもしれない。おそらくシュルヒはそういうのにずっと前から疑問を抱いていて、今回一石を投じたということだろう。

 強いパーティーの要素の一つが、ファミリーと呼ばれるくらいの高い連携なわけで、それが壊れつつある今は一大事ってところか。

 ……ん? ドアをノックされてるな。誰だろう。

「あ……」

 扉を開けると、目の前にはシュルヒが項垂れた状態で立っていた。

「シュ、シュルヒ……?」
「……ウォールどのに別れを告げにきた」
「え?」
「誘っておいて申し訳ないが……熟慮を重ねた結果、自分はこのパーティーを抜けることにしたのだ」
「シュルヒ……」

 きっと、このままメンバーといがみ合うよりは離れたほうがいいという判断なんだろう。悩んだ末の決断なら仕方ないよな。

「では――」
「――ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

 俺は行こうとしたシュルヒを呼び止める。

「……ウォールどの?」
「中で少し話さないか?」
「……何故だ? 止めるというならもう諦めてほしい。この決心は絶対に揺るがない……」
「いや、そうじゃなくて俺も知りたいんだよ。このパーティーに一体何があったのか。どうしてシュルヒが抜けなきゃいけないのか……」
「……ウォールどのは知らないほうがいい。ここでやっていくなら尚更。自分の代わりもすぐに補完されるだろう。《エンペラー》というパーティーはそういうところなのだ」
「シュルヒは言ってたよな」
「ウォールどの……?」
「自分は弱みを他人に見せることを恐れてるって。それを見せることができるのは強いことの証なんだって」
「……そうだ。自分は弱い。だから――」
「――それは違う。シュルヒはあのとき、メンバーに自分の気持ちを伝えたじゃないか」
「……だが、何も変えられなかった。力なき正義など無力に等しいとわかっていたのに……」
「それでも変えようっていう意思はある。力なき正義は無力だとわかってて自分が傷ついたとしても。弱さを見せてでも変えようとする、その気持ちが大事なんじゃないのか」
「……」

 シュルヒがはっとしたような顔で押し黙った。弱みを見せることは傷つく恐れがあるということで、それを受け入れられる覚悟が必要なんだ。それこそが彼女の言う強さなんだと思う。

「よかったら俺に話してほしい。俺もこの現状を変えたいという気持ちがある。俺が君に弱さを見せたように、君の弱みも見せてほしいんだ。その覚悟さえあるなら……」
「……わ、わかった。話は長くなるが……」
「それでもいい。さあ、中で話そう」

 俺はシュルと向かい合う形ではなく、窓の外を一緒に眺めながら会話することにした。このほうがより自然に言葉を紡ぐことができるんじゃないかと思って。

「ここ、本当にいい眺めだよね」
「……」
「もし話したくないならそうなるまで待つよ」
「……ありがとう。それにしても、ウォールどのには驚かされてばかりだ」
「……え、なんで?」
「【盗聖】というアビリティのとんでもない効果を初めて聞いたとき、それから面会に向かうこともあり、自分は一体どんな化け物と対面するのかと偉く緊張した。しかも牢獄にいるということで生きた心地がまったくしなかった……」
「あはは……」

 まさか、あのときシュルヒのほうもそんなに緊張してたなんてな。まあよく考えたら相手の一番大事なものを奪える能力なんだしわからないでもないか。

「しかし今の《エンペラー》はそういうパーティーだ。常に上を目指し、化け物級の強者が集まるところ……。ウォールどのはその中でも他人のアビリティさえ奪えるほどのずば抜けたアビリティを持ち、そして誰よりも人間味があった。今の自分たちが失ってしまったものさえも持っている……」
「失ってしまったもの?《エンペラー》って、昔はそんなパーティーじゃなかったってことかな?」
「……そうだ。《エンペラー》は当時、中の上くらいのそこそこ有名なパーティーでしかなかった。が起きるまでは……」
「あの忌まわしい事件……?」
「……」

 こくりとうなずくシュルヒ。彼女はしばらくしておもむろに語り始めた。今や最強という文字を縦にしている《エンペラー》がかつてどういうパーティーで、どんな事件を通して変わってしまったのか、その過程を……。
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