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第二章 牙を剥く皇帝
ディスコード
しおりを挟むダンジョンの入り口から帰還の鈴によって俺たちは宿舎まで帰ってきた。往復する時間を省略できたおかげか、朝出発して昼頃戻ってきたという事実を会議室の掛け時計で確認できた。
「――さあ、早速話していただきましょうか、シュルヒさん」
「……」
俺を含めて全員がテーブル前の椅子に腰を下ろしたわけだが、早くも室内には重い空気が立ち込めていて、意識して呼吸しないと息が詰まりそうだった。ダンジョン内ですら感じなかった強い緊張感のせいで唇がパサパサだ。
「シュルヒさん? いい加減にしていただけませんかね」
「……わかった。では話す……」
シュルヒがようやく重い口を開いた。
「最近、ダンジョンの四階層で起きている無差別殺戮事件についてだ」
無差別殺戮事件だって……? 彼女が話すまで俺はまったく知らなかった。最近ギルドとか行かないし世間の話題に疎いというのもあるが……。
「あぁ、そんなことですか。それがどうかしたのですか?」
一方、バジルはだからなんだと言わんばかりの表情だ。かなりの温度差があるように見える。
「自分たちが何故一部の冒険者に疑われているか、リーダーもご存知のはず」
やたらときな臭い話になってきた。このギルドが疑われてるだと? ってことは、ダンジョン前で襲撃してきたあの男は俺たちを犯人だと思ってたってことか……。
「ええ、まあ当然ですが知っていますよ。こちらの元メンバーがそこでよく目撃されているからでしょう?」
元メンバー? 前に話していた追放された人のことっぽいな……ん、エドナーが苦い顔で手を上げた。
「リーダー、ちょっと俺が横槍入れてもいいかな?」
「かまいませんよ」
「んじゃ遠慮なく。シュルヒさあ、それって俺たちには関係ねえじゃん。そいつはもうこのパーティーからとっくに追い出されてんだから」
「ふっ、その通りだ。無関係にもほどがあろう」
エドナーにレギンスが同調している。確かに彼らの言うことも一理あるが、元メンバーに対して冷たすぎる気もするな……。
「しかし、実際にこっちに被害が及んでいるのは確かなのだ。この現状をなんとかするべきではないのか」
「……で、どうするというのですか、シュルヒさん? まさか、わざわざ会見を開いて私たちにはなんの関わりもないことだと宣言するおつもりなのですかね。《エンペラー》はあらゆるパーティーの中で最高の地位にいて嫉妬を買う立場ですし、取るに足らないアンチの方々がそれにかこつけて騒いでるだけでしょう。そんなもの相手にせず捨てておけばいいのですよ」
「だが、元メンバーが絡んでいることも確かだろう」
「……はあ……」
首を左右に振るバジル。相当に呆れてるらしい。それからしばらく沈黙が続いたが、やがて痺れを切らしたのかエドナーが苛立った表情で立ち上がった。
「じゃあよ、シュルヒ。お前がその元メンバーを殺してこいよ。そいつが犯人だって思ってるんだろ?」
「いや、エドナー。自分はほかに犯人がいると思っている」
「はあ?」
「……許せないのだ。無差別殺戮をやるだけでも腹立たしいのに、元メンバー、さらには自分たちにまで火の粉が及んでいる状況……なんとかしたい……」
「ふん、くだらん」
「……何? くだらんだと? レギンス、これだけ罪のない人々が無残に殺されてるのにくだらんとはなんだ!」
シュルヒが赤い顔で立ち上がり、レギンスを睨みつけている。なんかどんどん険悪な空気になっていくな。
「まあまあ、喧嘩はおよしなさい。シュルヒさんは元リーダーの影響がお強いのでしょう。あの人も曲がったことが許せない人でしたねえ。ただ、融通が利かなすぎて上を目指すパーティーのリーダーとしてはやや物足りませんでしたが――」
「――かつてはバジル、あなたもそうだったはずだ!」
シュルヒがテーブルを勢いよく叩いて緊迫感が一気に増す。おいおい、やめてくれよ……。
「……まあ、確かにかつては私もそうでしたね。ですが、人は変わるものです。過去の話をするより、現在の話をするほうがいささか建設的だとは思いますがねえ……」
「くっ……!」
シュルヒが無言で部屋を飛び出していった。
「シュルヒさんの話は終わったようです。私たちも解散するといたしましょうか」
「そうすっか」
「ふっ、あまりにも時間を無駄に浪費してしまった」
「……」
リーダー、エドナー、レギンスも続いて立ち去り、俺だけが会議室に取り残される格好になってしまった。《エンペラー》って、色々問題を抱えてるパーティーでもあるんだな……。
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