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第二章 牙を剥く皇帝
単純明快
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「あれ、今までどこへ行っておられたのですかね、ウォールさん?」
「おいウォール、どこほっつき歩いてたんだよ?」
「何か用事だったのだろうか、ウォールどの?」
「どこで何をしていたのやら。まあどうでもいいが」
塔まで帰還した俺は、約一名を除いてみんなに温かく迎え入れられた。
「あ、うん。ちょっとね……【神速】でどれぐらいモンスターを避けられるか試してみようかと……」
「なるほど、それはいいことですね」
「なーんだ、そういうことなら一言言ってくれりゃよかったのによ」
「うむ、一人は危険だ」
「ふっ……くだらん」
「わ、悪かったよ、みんな。ところで……いいアイディアが生まれたんだけど」
俺はあくまで偶然ひらめいたように見せかけた。自分の頭が良いアピールは嫌われるかもしれないから用心深くいこうってわけだ。
「ほう……それは興味がありますね。どのような考えですか?」
「えっと、多分あの足跡と同じようにもう一度歩けってことじゃないかな? 二回目は足跡が出ない分、記憶しなきゃいけないってことで……」
「おおっ……それはありえそうですねえ」
「いいな、それ早速やってみようぜ!」
「た、確かに、ナイスアイディアだ、ウォールどの」
ん? シュルヒの笑顔がなんかぎこちないが気のせいだろうか?
「……ふうむ。それでは単純すぎではないのかね」
「そうだけど、レギンスを含めてみんな深く考えすぎてたんじゃないかなって。俺もだけど」
「……まあ、恥をかきたくば勝手にすればいい」
勝手にしろってことだし、多分レギンスも納得してくれたんだろう。
というわけで早速巨人の足跡をなぞることになったわけだが、みんなもう忘れたらしく一旦石板で地上へ戻って再挑戦しようと言い合っていたところで俺が止めた。知能が高くなったせいか、全部鮮明に記憶していたのだ。
「――んじゃ、ここで誰か一人残ってもらえないかな?」
一回目の足跡が方向を変えた地点で俺はそう宣言する。こうして目印を用意しておけば二回目はもっとスムーズに行けるはずだからだ。
「そうですねえ……それではエドナーさんで」
「えっ……俺ぇ!?」
「シュルヒさんが囮役を兼ねれば、面倒なモンスターとの交戦も避けられますから」
「はー、俺一人だけ取り残されるのかよ。一応アビリティを使ってる間だけなんだがなー、完璧に回避できるのは……」
なるほど、そうなんだな。ただ、彼は普段そこまで素早くはないが、身のこなしは巧みなので一人でもなんとかなるだろう。
それから小さな塔に戻るまで、レギンス、バジル、シュルヒと目印が一人ずつできたので、俺は【神速】アビリティでメンバーを回収しながら足跡も辿って塔まであっという間に戻ってきた。
「あっ……」
ゴゴゴッという音と振動がして塔が崩れたかと思うと石板が新たに現れた。やっぱり俺の推理は正しかった。最高到達階層ってことでみんな難しく考えすぎてたんだろう。ただ、違和感も襲ってくる。最深階層にしてはやたらと簡単なギミックのように見えたからだ。
だとすると、ここは実は最深の三一階層じゃなくてかなり浅い階層という可能性もあるんじゃないか? つまり、まだ俺を完全には信用してないってことかもしれないな。
「いやー、ウォールさん、お手柄ですね」
「すげーよ、ウォール! 頭良すぎだろ……」
「見事だ、ウォールどの」
「ふっ……まあまあといったところか」
「……」
レギンスまで讃えてくれて、俺はホッとした振りをしつつ確信していた。このわざとらしさは、ここが最深階層ではないことを如実に示している。バカにされたもんだ。
それにしても、シュルヒだけなんか浮かない顔に見える。どうしたんだろう? 俺の扱いについて憂慮してるというのもあるんだろうが、彼女の曇った表情はもっと深い理由を感じさせるものだ。それがどういうものであるかは、以前より知能が高くなったとはいえ慮ってみてもわからなかった。
「シュルヒさん、どうしたのです? 何か私に言いたいことがあるのでしょう?」
「……べ、別に――」
「――別にではないでしょう。いつもと違って動きも緩慢ですし、このまま次の階層を攻略するにしても連携に不安が残るので一旦休憩しつつ話をするとしましょうか。とはいえ、独断もアレなので多数決ということで。エドナーさんはどうしたいです?」
「んー……ちっと白けるけど、俺は休憩してもかまわねーぜ。ちょうど腹も減ってきたことだし」
「レギンスさんは?」
「ふん……我はどちらでも結構」
「では、ウォールさんは?」
「……あ、俺も……」
「決まりのようですね」
正直、俺も今は次の階層より話し合いのほうに興味があった。シュルヒの冴えない表情の理由がわかるかもしれないしな。
「おいウォール、どこほっつき歩いてたんだよ?」
「何か用事だったのだろうか、ウォールどの?」
「どこで何をしていたのやら。まあどうでもいいが」
塔まで帰還した俺は、約一名を除いてみんなに温かく迎え入れられた。
「あ、うん。ちょっとね……【神速】でどれぐらいモンスターを避けられるか試してみようかと……」
「なるほど、それはいいことですね」
「なーんだ、そういうことなら一言言ってくれりゃよかったのによ」
「うむ、一人は危険だ」
「ふっ……くだらん」
「わ、悪かったよ、みんな。ところで……いいアイディアが生まれたんだけど」
俺はあくまで偶然ひらめいたように見せかけた。自分の頭が良いアピールは嫌われるかもしれないから用心深くいこうってわけだ。
「ほう……それは興味がありますね。どのような考えですか?」
「えっと、多分あの足跡と同じようにもう一度歩けってことじゃないかな? 二回目は足跡が出ない分、記憶しなきゃいけないってことで……」
「おおっ……それはありえそうですねえ」
「いいな、それ早速やってみようぜ!」
「た、確かに、ナイスアイディアだ、ウォールどの」
ん? シュルヒの笑顔がなんかぎこちないが気のせいだろうか?
「……ふうむ。それでは単純すぎではないのかね」
「そうだけど、レギンスを含めてみんな深く考えすぎてたんじゃないかなって。俺もだけど」
「……まあ、恥をかきたくば勝手にすればいい」
勝手にしろってことだし、多分レギンスも納得してくれたんだろう。
というわけで早速巨人の足跡をなぞることになったわけだが、みんなもう忘れたらしく一旦石板で地上へ戻って再挑戦しようと言い合っていたところで俺が止めた。知能が高くなったせいか、全部鮮明に記憶していたのだ。
「――んじゃ、ここで誰か一人残ってもらえないかな?」
一回目の足跡が方向を変えた地点で俺はそう宣言する。こうして目印を用意しておけば二回目はもっとスムーズに行けるはずだからだ。
「そうですねえ……それではエドナーさんで」
「えっ……俺ぇ!?」
「シュルヒさんが囮役を兼ねれば、面倒なモンスターとの交戦も避けられますから」
「はー、俺一人だけ取り残されるのかよ。一応アビリティを使ってる間だけなんだがなー、完璧に回避できるのは……」
なるほど、そうなんだな。ただ、彼は普段そこまで素早くはないが、身のこなしは巧みなので一人でもなんとかなるだろう。
それから小さな塔に戻るまで、レギンス、バジル、シュルヒと目印が一人ずつできたので、俺は【神速】アビリティでメンバーを回収しながら足跡も辿って塔まであっという間に戻ってきた。
「あっ……」
ゴゴゴッという音と振動がして塔が崩れたかと思うと石板が新たに現れた。やっぱり俺の推理は正しかった。最高到達階層ってことでみんな難しく考えすぎてたんだろう。ただ、違和感も襲ってくる。最深階層にしてはやたらと簡単なギミックのように見えたからだ。
だとすると、ここは実は最深の三一階層じゃなくてかなり浅い階層という可能性もあるんじゃないか? つまり、まだ俺を完全には信用してないってことかもしれないな。
「いやー、ウォールさん、お手柄ですね」
「すげーよ、ウォール! 頭良すぎだろ……」
「見事だ、ウォールどの」
「ふっ……まあまあといったところか」
「……」
レギンスまで讃えてくれて、俺はホッとした振りをしつつ確信していた。このわざとらしさは、ここが最深階層ではないことを如実に示している。バカにされたもんだ。
それにしても、シュルヒだけなんか浮かない顔に見える。どうしたんだろう? 俺の扱いについて憂慮してるというのもあるんだろうが、彼女の曇った表情はもっと深い理由を感じさせるものだ。それがどういうものであるかは、以前より知能が高くなったとはいえ慮ってみてもわからなかった。
「シュルヒさん、どうしたのです? 何か私に言いたいことがあるのでしょう?」
「……べ、別に――」
「――別にではないでしょう。いつもと違って動きも緩慢ですし、このまま次の階層を攻略するにしても連携に不安が残るので一旦休憩しつつ話をするとしましょうか。とはいえ、独断もアレなので多数決ということで。エドナーさんはどうしたいです?」
「んー……ちっと白けるけど、俺は休憩してもかまわねーぜ。ちょうど腹も減ってきたことだし」
「レギンスさんは?」
「ふん……我はどちらでも結構」
「では、ウォールさんは?」
「……あ、俺も……」
「決まりのようですね」
正直、俺も今は次の階層より話し合いのほうに興味があった。シュルヒの冴えない表情の理由がわかるかもしれないしな。
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