32 / 50
第二章 牙を剥く皇帝
インテリジェンス
しおりを挟むよーし、いける、これならいけるぞ……。確信があるわけじゃないが、あの方法ならこの問題を一気に解決できるんじゃないかと俺は握り拳を作りながら思い始めていた。
ただ、その前にメンバーから今までどうやってギミックを解こうとしたか聞くべきだろう。参考にもなるし、これから誰かが解く可能性だってある。手柄を立てることも大事だが、新人があまり出しゃばりすぎるのもよくないだろうからな。
「――と、こういうわけなんですよ、ウォールさん」
「なるほど……」
リーダーのバジルが、今まで取り組んできたことを丁寧かつ詳しく俺に説明してくれた。
塔が起点となり、弧を描くように移動することを例の大きな足跡が誘導しているため、これは時計に見立てたギミックじゃないかということで、バジルたちは四時方向、七時方向、十時方向、三時方向といった具合にそれまでの時間を足した分待機したり、塔の周囲を回ったりと色々やったが結局どれもダメだったとか。
「あー、もうわかんねえな、これ」
やってられないといった表情で頭を掻きむしるエドナー。
「何か、何かもっと深い意図が隠されているのかもしれません。暗号のような……」
宙を睨みつけるバジルは考えすぎて思考が迷宮みたいになってそうだ。
「ふっ、どうでもよい……」
それとは対照的に、レギンスは腕組みしたまま塔に背中を預けてるだけでやる気すら感じなかった。
「……」
シュルヒに至っては、心ここにあらずといった様子で考え込んだ表情をしている。塔の近くならモンスターが出ないということもあるんだろうが、状況はかなり停滞気味だった。よーし、そろそろ俺の出番だな。
「あの、俺ちょっと調べ物を……」
俺はそう言い残し、誰からの返事も待たずに【神速】を使ってその場を一気に離れる。自分の中で手応えのある例の方法を試すためだ。
――来た……。俺が今一人だけなせいか、見慣れない敵が出現する。棘の無いサボテンのような形状で、白い髭と針状の杖を携えたいかにも知的な感じのモンスターだ。おそらくあれがこの階層で一番厄介な相手とされているクローキングメイジなんだろう。
『アファファファファッ!』
やつは小馬鹿にしたような乾いた笑い声を上げると、回転して粉塵を巻き上げながら杖から大きな針を幾つも放ってきた。
「こほっ、こほっ……!」
俺は咳き込みながらもそこから離脱し、同時に回り込もうとしたが……いなくなっただと? 粉塵が薄れてきたと思ったらやつの姿は忽然と消えてしまっていた。噂に聞いた通りの狡賢いモンスターだ。一体どこに――
「――はっ……!?」
いや、いなくなったわけじゃない。一時的に隠れただけだ。『視野拡大』スキルにより、やつが少し離れた場所から俺に杖を向けてきたことがわかり、俺は【神速】による素早い動きで巧みにかわしつつやつの近くまで一気に迫り、一番大事なものを盗んでやった。
『――アフェッ……?』
サボテン爺さんの様子がおかしい。ぽかんとした顔というか、間が抜けたような表情というか……とにかく締まりがないのだ。これはおそらく知能を盗んだということだろう。
「……あれ……」
そういや、そのせいかさっきから自分の頭の回転が異様に速くなってる気がするな。とにかく思考の立ち上がりがとんでもなく軽くて、同時に複数の考えを頭に浮かべることもできる。
ただ、その分疑い深くなったというか……なんなんだ、この嫌な感じは。あらゆることが渦を巻くようにしてどんどん頭の中に入り込んでくる感覚。拒んでるのに止めることができない。それこそ、そこまで考えなくてもいいような些細な事柄までどんどん雪崩れ込んできて気が狂いそうになるんだ。
これは……知能は知能でもモンスターの知能を盗んだから拒絶反応が起きてるってことだろうか? 例の発作も関係してるのかもしれない。精神的に縺れて目眩がするような感覚……。
例のギミックの解答は知能を奪ったおかげですぐわかったが、俺はこのタイミングで隙だらけになってしまっていた。慣れるまでの辛抱だが、こうしてる間にも敵は――
『――ウフェフェッ……?』
「……」
やつは知能を奪われたせいか思考停止してるらしく、攻撃してくるどころか隠れる気配さえなかった。そこでようやく落ち着いてきたこともあって、俺は短剣――深淵の欠片――でやつの頭を叩き割ってやる。
『アフェッ!?』
頭部から体液を派手に放出しながら無残に沈んでいくサボテン。俺自身も慣れてきたおかげか、大分頭が軽くなった感じだ。むしろ以前よりも快適になってるんじゃないか。知能――精神力――が高いのに越したことはないからな。
それまでは意識が異常に研ぎ澄まされ、あらゆるものが認識できるような気がする一方で不安感も倍増しだった。いずれ大きな渦に呑み込まれて自分すら消えてしまうんじゃないかと思えたんだ。発作の心配もあったが、例の声は聞こえてこないしもう大丈夫だろう。
しかし、最深階層にしては簡単すぎるギミックのように思える。頭脳が普通でもちょっと冷静になれば解けるような問題だった。なのに俺より先に挑んでいるエンペラーのメンバーが誰一人今まで解けなかったのも不自然だ。これは何か裏がありそうな気がする……。
1
お気に入りに追加
1,246
あなたにおすすめの小説

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる