ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

文字の大きさ
上 下
30 / 50
第二章 牙を剥く皇帝

ジャッジメント

しおりを挟む

「どうしました、ウォールさん? 行かないんですか?」
「……いえ、行きます」
「おおっ! 大型新人ウォールの出番、早くもキターッ!」

 エドナーがはやし立てる中、俺はバジルに羽交い絞めにされた暴漢の元へと歩み寄っていく。もうあと十歩ほどの距離だ。

「や、やめろ……!」

 男の怯えた顔が心を突くが、仕方ない。こっちだってやられかけたんだ。やられたらやり返すのは当然だろう。それに俺はもう《エンペラー》のウォールだ。やるぞ、やってやる。大切なものを奪ってやる……。

「い……今、新人とか言ったな、お前……」

 男の声で俺は足を止める。なんだ……?

「新人なら目を覚ませ! こいつらは外道だ! こんなやつらの味方をすれば、いずれ必ずや天罰を食らうぞ……!」
「……な、何?」
「おやおや、一体何を根拠にそのような出鱈目を仰ってるんでしょうねえ。ウォールさん、そのような戯言に耳を貸す必要はありません。シュルヒさんが助けなければあなたはこの男にやられていたかもしれないのですよ。さあ、やり返すのです。やられたら倍にして返す。それが《エンペラー》の信条なのですから……」
「……お、おのれ。外道どもめが……」
「……」

 ドクンと心臓が跳ねる感じがした。そうだ、この暴漢は俺から命を取ろうとした。だから盗んでいい。奪ってもいいんだ……。俺は意を決して、やつにさらに近付いていく。

「や、やめろぉ、来るな……来るなあぁ……」
「へへっ、その調子だぜ、ウォール! おい、そこの卑怯者、ウォールの能力を知ってるか? 俺たち《エンペラー》の大型新人に相応しいアビリティ【盗聖】だぁっ!」
「……と、【盗聖】……?」
「そうよ。おめーの一番大事なものを奪っちまうんだ。命だろうがなんだろうがなあっ!」
「そ……そんな……嫌だ、助けてくれ……」
「フフッ……暴れても無駄です。さぁ、ウォールさん、やるんですよ……!」
「盗む……盗んでやる……」
「ひぃぃ、嫌だ、嫌だぁぁ……」

 俺は暴漢の間近に迫り、一気に【盗聖】を行使してやった。もし命が一番大事だったところで、既に俺は人を一人殺してるんだ。それが二人になろうが三人になろうが大して変わらないだろう……。

「……はぁ、はぁぁ……」

 男の荒い息遣いが聞こえてくる。どうやら命ではなかったらしい。命拾いをしたな。

「あれ、死んでねえのか? じゃあウォールは何を盗んだんだ!?」
「なんでしょうねえ。あなたの一番大事なものはなんですか?」
「そ、そんなの、言うわけ……ぎっ!?」

 バジルが男の体を締め上げている。おそらく【王手】によって筋力までも低下してる状態だろうから、このままだと容易く骨を折られてもおかしくない。

「自分の立場がおわかりですか? 拷問にかけられて地獄の苦しみを味わいながら死にたいというのであれば話は別ですが……」
「た、助けてくれぇ……」
「一番大事なものが何か言えば、片手一本だけで済ませることも検討しますよ?」
「……ア、アビリティだ……」
「ほう……」
「【神速】っていう……。だから奇襲を選んだ……そ、それがなんだっていうんだ……」
「なるほど……ではウォールさん、盗んだものを使ってみてください」
「あ……はい」

 正直、俺は暴漢の【神速】という回答にはあまり驚かなかった。あいつから何を盗んだのかなんとなくわかっていたからだ。【盗聖】は盗めば盗むほど、具体的にどんなものを盗ったのかわかっていくアビリティなのかもしれない。ランクはAか。まあまあだな。

 早速使ってみたわけだが、驚くほど自分の体が軽く感じた。こりゃいい。歩いてるのに全力で走ってるかのような感覚で、走ってみると瞬間移動したかのようなスピードを体感できた。

「すげー! ウォールのやつアビリティを盗みやがった!」
「フフッ、素晴らしいですねえ……」
「ふっ……まどろっこしいものだ」
「……さすが、ウォールどの」

 レギンス以外には好評のようだ。

「そ、そんなぁ……俺の、大事なアビリティを盗んだというのか。そんな能力があるなんて……。か、返してくれ、返してくれよぉ……」
「……」

 暴漢の悲鳴のような声が胸を打つが、命じゃないだけいいだろう。お前はアビリティよりも大事な命を奪おうとしたんだ。その報いだ……。

「ではレギンスさん、最後はあなたの番ですよ」
「ふん、言われるまでもない」
「……なっ……?」

 信じられない光景だった。レギンスが暴漢に向かって歩み寄っていくかと思うと途中で立ち止まり、宙を殴るたびにやつの顔が酷く変形していった。なんだこれ……男との間にはかなり距離があるし実際に殴ってるようには見えないのに……。

「がふっ! ごふぅっ!」
「ククッ……とどめだ……むんっ……!」
「げはっ……!?」

 レギンスが腰を据えて力強く拳を宙に打ち込んだ直後、暴漢の胸から血飛沫が上がった。な、なんて威力だ……。

「ひえー、胸板を貫通しやがった。さすがはレギンスだぜ! ウォール、あいつのアビリティ、なんだと思う?」
「さ、さあ……」
「へへっ……【隔絶】っていってよ、結構離れた場所からでもああやって遠距離攻撃ができるんだ。しかもその間は攻撃力がぐんと上がって、相手の防御力も無視できるっていう優れもんだ」
「……なるほど……」
「ふっ、実に退屈なものだ……」

 当のレギンスは何事もなかったかのように涼しい笑みを覗かせている。俺が言うのもなんだが、おっかないアビリティだな……。男は、当然だが崩れるように倒れたあともう動く気配がなかった。

「死体はその辺に投げ捨てておきなさい。シュルヒさん、お願いします」
「……」
「シュルヒさん……?」
「そこまでする必要があるのだろうか……」
「ん、こんな雑用はやりたくないと仰るのですか?」

 なんか妙に気まずい空気だ。険悪というか。

「……あ、それなら俺がやるよ」

 俺は男の死体を引き摺り、茂みの中まで運んでおいた。シュルヒがはっとした顔で追いかけてきて頭を下げてくる。

「ウォールどの、すまない……」
「い、いやいいよ、俺は新人なんだし、こういう雑用ならうってつけだろうし……」
「自分は決して雑用が嫌だったわけではないのだ……」
「……え?」
「な、なんでもない……」
「……」

 じゃあなんで渋ってただろう? シュルヒ、以前にも感じたがリーダーとの関係が相当こじれてそうだな……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...