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第二章 牙を剥く皇帝
フェイス
しおりを挟む「ダリル、どうして……? どうして今日は行かないのよ!?」
《エンペラー》の宿舎近くの路地裏にて、《ハーミット》のメンバーの意見がウォールの元へ行くか行かないかで割れる格好となっていた。
「リリア……仕方ないだろう……! 僕たちがいくら説得したところで、ウォール君に戻ろうとする意思がない以上どうしようもないじゃないか!」
「だから、そこは必死に説得してでもなんとかするのがリーダーの役目でしょ!?」
「会ってもくれないのに……しかも《エンペラー》の面々が近くにいるのにどうしろっていうんだい!?」
「そ、それは……そうだけど……このまま黙ってるよりは遥かにマシじゃないっ!」
「……僕だって……」
「……ダ、ダリル?」
リリアがはっとした顔になる。ダリルが男の姿で涙ぐむのを初めて目にしたからだ。
「……僕だってウォール君に会いたい。今すぐにでも会って説得して連れ戻したい。そのために人目に晒されるのを承知でああいう姿にだってなった。でも……彼のことも大事だけど、リリア、ロッカ……君たちだって同じように大切だし、なんの対策もなく危険な目に遭わせるわけにもいかないんだよ。頼む、わかってくれ……」
「ダリル……」
「よしよし、二人とも元気を出しなさい……」
項垂れるリリアとダリルを慰めるロッカ。それまでのおろおろとした表情とは別物になっていた。
「ロッカ……? そろそろ聖母状態になれそうなの?」
「はい……精神的な疲れも癒えてきて、なんとか高度なマインドを【維持】できそうです」
「「おおっ……」」
最早別人となったロッカを前に、二人の表情がさっと晴れ上がっていく。
「リリア。ここはダリルの言う通り、様子見しましょう。《ハーミット》の信条の一つは急がば回れ、ですから、ぐっと我慢するべきです。それと、ダリルも体に毒なので無暗に興奮しないこと。いいですね?」
「「はい……」」
リリアとダリルが即座にうなずいてしまうほど、今のロッカの顔には神々しいほどの慈しみが溢れているのだった。
※※※
「ふんふんふーん」
夜明けからしばらく経った王都の大通りにて、罪人の処刑場を兼ねている王宮前の大広場を目指し、いずれも明るい表情で歩く男女――セインとルーネ――の姿があった。処刑は太陽が真上に昇った頃に執行される予定であるため、馬車を使わずとも徒歩で充分間に合うと彼らは考えたのだ。
「ルーネ、上機嫌だな。天気もよくねえってのに」
「そりゃーねっ」
「へへ、そんなに嬉しいか? あいつが無残に処刑されるのを見るのが……」
「セインったら……そんなんじゃないよ。ただあなたと一緒にこうしていられるのが嬉しいだけ。もうあんなやつ、あたしの思い出の隅っこにすら居場所なんてないもん」
手をつないだままセインの肩に身を寄せるルーネ。
「おー、存在したことさえ抹殺する気か。怖えなあ、女ってのは。怖え、怖えぜ……」
「何よ、そのほうが嬉しいくせに。それに、セインだって幼馴染の処刑を見届けるとか言って、実際は高みの見物がしたいだけなんでしょ?」
「あははっ……まあな。けど、これもある意味優しさってやつよ。死ぬ前に俺たちのラブラブっぷりを見せつけてやれば、ウォールも心の底から安心してあの世に旅立てるだろ?」
セインは愉悦の表情を浮かべながら想像していた。愛し合う自分たちを前にしたウォールが呪うような視線をぶつけてくる場面を。かつての自分も浸っていた劣等感という沼の中でのたうち回る姿を。処刑され、最早生き物ですらなくなった凄惨な姿を。
「はー、ニヤニヤしちゃって、セインってばほんっと性格悪いんだからあ……」
「ルーネに言われたくねー」
「ふふー……あ、なんか人いっぱいいるねー」
ルーネが前方を指差してはっとした顔になる。
「……ん、本当だ。てかあの有名パーティー《エンペラー》の宿舎近くだからじゃねえか? すげー混みそうだし別の道通ってくか」
「そうね――」
彼らがうなずき合い、進路を変えようとしたところで別の二人組とすれ違う形になる。
「――まさか、あのノーアビリティのウォールが《エンペラー》に入るなんてな」
「意外だよなあ」
「「えっ……?」」
男二人の会話が聞こえてきて、セインとルーネの足の歩みがピタリと止まった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そこの二人!」
「「ん?」」
セインに引き止められて男たちが訝し気に振り返る。
「い、今、ノーアビリティのウォールが《エンペラー》に入ったって言ったのか……? 嘘だよな?」
「じょ、冗談よね……?」
「はあ? 嘘だと思うならあれ見てみなよ」
「そうだよ、あれがいい証拠だろ」
「「あ……」」
二人組が指差す方向を見たセインとルーネの顔が、空をそっくり映したかのようにどんよりと曇っていく。彼らが見たのは、《エンペラー》のメンバーに交じってバルコニーで食事するウォールらしき者の姿だった。
「……マ、マジかよ。なんで、なんであいつなんかが《エンペラー》に……」
「……ど、どうしてなの、どうして……」
それは疑いの眼差しを向けた幼馴染たちから見ても、紛れもなくウォール本人であった……。
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